413 時代の風47――使えよ。再生するんだろ?
俺は人型ロボットの膝を狙い攻撃する。膝が砕け、再び片膝をつく人型ロボット。これで少しは時間が稼げるだろう。
「何度であろうともォ! はぁはぁ、アリバトラーは甦る! 再生工作! ナノマシンリペアァァァァァッ!」
息を切らしながらも叫ぶフォルミ。攻撃のチャンスではあるが、あえて攻撃をせず、パンドラの回復に努める。この稼いだ時間で砲撃分くらいのパンドラは回復することが出来るだろう。
『セラフ、さっきの話の続きだが』
『あらあら。何かしら?』
俺はセラフに確認しなければならない。これは重要なことだ。
『セラフ、お前は言ったよな? その前にこちらのパンドラが尽きるから、と』
『ふふん。言ったわね。それがどうしたのかしら』
『それはどういう意味だ?』
『……何が言いたいのかしら?』
セラフは俺の質問の意図が掴めないようだ。
『それは憶測なのか? それともある程度の数値を把握した上での推測なのか?』
セラフの言葉はそのどちらなのか。これによって俺の行動が変わってくる。もし、把握が出来るというのなら……。
『ふふん。私が憶測でものを言ったことがあるかしら』
普通に考えれば人工知能が憶測に近いことを言うとは思えない。だが、セラフならあり得る。そう、セラフほど高度な――いや、セラフを一個人として認めているからこそ、そういうこともあり得ると俺は思ってしまうのだろう。だから、ここは確認しておきたい。
『それで?』
憶測でものを言ったことがあるだろう、というツッコミはとりあえず置いておく。今、重要なのはそこではない。
『ふふん。ドラゴンベイン、グラスホッパー号とパニッシャーを含めた能力を――ふふん、パンドラの残量を加味して、その数値を1とすると、あれは3ね。現状の戦力では、それだけ差があるの。追いつかないわ』
『パンドラの残量が充分あれば?』
『それでも難しいでしょうね』
『分かった』
こちらの三倍。それは分かった。
セラフは数値化出来ているということが分かった。
『フォルミの再生能力には限界があるということか? それとも倒しきる火力が必要なのか? どちらだ?』
俺はセラフにもう一度、質問をする。
『限界がある方ね』
『そうか』
『ふふん。少しずつ再生までの時間が延びていることに気付いたかしら? これは群体への命令を強制的に書き換えることでエラーが蓄積していることが原因。そして、その蓄積されたエラーが少しずつアレへの負荷となってるの。続ければ……当然、処理が出来なくなっていたでしょうね』
俺はセラフの言葉に頷く。俺の考えは間違っていなかったようだ。
そして、話は戻る訳だ。
持久戦ではこちらが不利だ、と。
だが、それは終わりがあるということの証明だ。
修復を終えた人型ロボットがゆっくりと起き上がり、剣を構える。確かに再生時間は少し延びているような気がする。だが、それは、まだ『気がする』というレベルでしかない。
……。
しかし、だ。
『セラフ、お前は計算を間違えている』
『あらあら、突然、何を言い出すのかしら』
ドラゴンベイン、グラスホッパー号とパニッシャー、その戦力を足しても削りきれない。負荷をかけ続けることは難しい。確かにその通りなのだろう。
『だが、そこに俺は含まれていない』
『何を言っているのかしら?』
『セラフ、ここは任せた』
俺はドラゴンベインのハッチを開け、外へと飛び出す。
「ふぅふぅ、ふぉおおおおォォォ! 喰らえ!ナノマシンソードォォォォッ!」
起き上がった人型ロボットはこちらへと剣を振り下ろそうとしている。
俺は俺の体を構成しているナノマシーンを活性化させる。全身に命令する。俺の体が毛深く、太く逞しいものへと変貌していく。
人狼化。
自分の意思で人狼へと姿を変化させる。
かつては死にかけた時に、勝手に発動していた人狼化――だが、あの閉じ込められた場所では発動しなかった。それは本能的に不味いと感じていたからなのだろう。
だが、ここなら問題無い。
周囲にナノマシーンが満ちている。
周囲のナノマシーンを取り込み、俺の肉としている。そう、小さな俺の体が、大きな人狼の姿へと変わるタネがコレだ。
俺はドラゴンベインの上に立ち、右腕を持ち上げ、迫る巨大な剣を受け止める。受け止めきれず獣の腕が裂け、砕ける。だが、構わない。砕けた側から再生している。周囲のナノマシーンを取り込み、元に戻ろうとしている。
再生した腕で剣を持ち上げ、押し返していく。斬られ、砕けながら、再生しながら、押し返す。
剣を押し返す。
そのまま獣の足で跳躍する。
飛び上がり、人型ロボットの角の生えた顔へと蹴りを当てる。足が砕ける。だが、構わない。砕けた側から再生している。
俺の中に渇望が、強烈な破壊衝動が生まれている。
壊せ。
破壊しろ。
これを壊す。
人型ロボットの肩に乗り、そこから、殴る。人型ロボットの顔を殴る。腕が砕けようが構わない。
殴る。
殴る、殴る、殴る、殴る。
殴るたびに腕がボロボロになる。だが、再生している。周囲のナノマシーンを使い、再生している。
『セラフ、見ている場合か』
『あらあら、巻き込まれたいのかしら』
『構わない、やれ』
三台のクルマからの砲撃。その爆風で俺の体が抉られる。肉が飛び散る。だが、構わない。
再生する。
周囲のナノマシーンを使い、再生している。
殴る。人型ロボットの顔を殴る。その目にあたる部分を殴る。そこにフォルミが居る。その透明な壁の先にフォルミが居る。
殴る。
砕けた腕で、再生した腕で殴る。
人型ロボットの目にあたる部分が凹み、歪んでいく。
殴る。
その先に居るフォルミが強く鋭い眼光でこちらを見ている。
「使えよ。再生するんだろ?」
殴る。
人型ロボットの目がボコボコと凹んでいく。
「ガム、ガム、ガムゥゥゥ! はぁはぁはぁ、何度でも再生してやる。再生工作! ナノマシンリペアァァァ!」
凹んだ部分が修復を始めている。治っていく。
だが、そんなことはどうでも良い。
俺は殴る。
周囲のナノマシーンを消費しながら、体を再生させ、殴る。
いくでもやってやる。




