411 時代の風45――これは……有りなのか
ナノマシーンの命令を書き換え、それを集めて壁にしたり、攻撃に使ったりする。フォルミのそれは、恐ろしい能力だ。万能な力のように見える。だが、それはナノマシーンがあってこそだ。ナノマシーンが散布され、至る所に溢れているからこその能力だろう。
『ふふん。それでどうするつもり?』
俺はナノマシーンで造られた壁を見る。クルマに搭載した戦車砲すら防ぐ壁だ。このまま、馬鹿正直に攻撃しても無駄だろう。何度か攻撃すれば壊せるかもしれないが、すぐに再生してしまうだろう。辺りにはナノマシーンが満ちている。再生には事欠かない。
『セラフ、実弾は?』
『ふふん。抜かりなく、よ』
俺はドラゴンベインの操縦をセラフに任せ、実弾を捜す。
……これか。
見つけた実弾に俺の血を垂らし、装填する。ガロウ戦と同じだ。俺の体を構成しているナノマシーンで壁になっているナノマシーンの命令を上書きする。
ドラゴンベインに搭載した150ミリ連装カノン砲が火を吹く。俺が装填した弾丸がナノマシーンの壁へと撃ち出される。
ナノマシーンの壁が俺の血によって新しい命令へと書き換えられる。いや、命令を狂わされると言った方が良いだろうか。その形を維持することが出来なくなったナノマシーンが消え、弾丸を撃ち込んだ場所から穴が開いていく。拡がっていく。
戦車砲の推進力があれば俺の血を深く中まで浸透させることが出来る。ただ壁に、俺の血を掛けただけでは、こう上手く穴を開けることは出来なかっただろう。俺自身の体の一部を撃ち出す斬鋼拳なら、同じように穴を開けることが出来たかもしれない。だが、ナノマシーンの命令を書き換えることが出来るような奴の前で、自分の体を削る真似はしたくない。
少量の血なら失ったとしても痛くない。
『セラフ』
『ふふん。分かってる』
攻撃の準備を終えていたグラスホッパー号のグラムノートから黒い球体が撃ち出される。黒い球体が壁の中の大型バスを貫通する。
『良し』
『ふふん』
ドラゴンベインの150ミリ連装カノン砲も続く。連続砲撃。大型バスを爆煙が包む。
噴煙が消えた後には車体がベコベコになり、大破寸前の大型バスの姿があった。今にも崩れ落ちそうなステージの上には無傷のフォルミが立っていた。
「よくもやってくれたなァッ! 再生工作ッ! ナノマシンリペアッ!」
フォルミがしゃがみ、両手を大型バスへとつける。すると、ボコボコに凹んでいた大型バスが、まるで逆再生の動画を見ているかのように元の形へと戻っていく。
『これは……有りなのか』
まるで魔法だ。
『ふふん。お前の体だって同じでしょ』
セラフはそんなことを言っている。確かに俺の体も、欠損しようが、ぐちゃぐちゃになろうが再生する。だが、大型バスは機械だ。人じゃあない。それに規模が違うだろう。
とりあえず砲撃だ。元の形に戻ろうとしている大型バスを、そのままにはしておけない。
再び、ドラゴンベインの150ミリ連装カノン砲が火を吹く。
「んな! 再生中に攻撃だとぉ! 防げ! ナノマシンシルド!」
フォルミが片手を大型バスから放し、こちらへと突き出す。そこに壁が生まれる。
……。
生まれた壁が砲撃を防いでいる。フォルミと大型バスへのダメージは爆発による余波が少し届いた程度だろうか。
ナノマシーン。フォルミは何の代償もなく、何かを消費すること無く、その力を行使することが出来るのだろうか。
どうやって倒す? どうすれば倒せる?
「ふぅふぅ、ふひぃー。やるじゃない。こうなったら奥の手さぁ! GO! アリバトラー! フォームチェンジだァァァッ!」
フォルミが芝居がかった口調で握った拳を空へと掲げる。
そして、大型バスが真っ二つになった。
『あらあら、これは何かしら』
セラフは知的好奇心が刺激されたのか、興奮した声を出している。
真っ二つになった大型バスが起き上がり、変形し、その姿を変えていく。
フォルミは何かをやろうとしている。それを黙ってみている訳にはいかない。
俺はドラゴンベインによる砲撃を繰り返す。
……。
だが、大型バスの変形は止められない。
攻撃が効いていない訳では無いようだ。砲撃が着弾した場所は凹む、壊れている。だが、その場所がすぐに再生していた。どれだけ壊そうと再生する。変形を止められない。
そして、大型バスが人型のロボットへと姿を変えた。角の生えた顔のような部分、その目に当たる場所は透明になっており、そこにフォルミの姿があった。
『弱点はそこか』
『ええ。きっとそうでしょうね』
『これもヨロイなのか?』
『ええ、多分』
セラフの言葉は、どこか少し自信が無さそうなものだった。乗り物から変形するヨロイなんてあり得ないのだろう。普通に考えれば変形するメリットなんて無いのだから。変形機構を搭載すれば、それだけ内部構造が精密になり、脆弱になる。ヨロイはヨロイ、乗り物は乗り物として造った方が製造コストも少なくて済むだろう。
変形には浪漫しかない。
10メートルサイズの人型のロボット。大きいといえば大きい。だが、弱点の顔の部分に砲撃が届かないほどではない。弱点が分かりやすく、的が大きくなって攻撃しやすくなったと思うべきか。
「アリバトラー! ナノマシンソードだァァッ!」
人型のロボットが動き、大型バスの時は何処に隠していたのか分からない、大きな剣を背中から引き抜く。人型ロボットが、そこそこ軽快な動きでこちらへと剣を振り下ろす。
車体へと走る衝撃。シールドで攻撃は防げたようだが、パンドラを大きく消費している。少しは回復したと思ったパンドラだが、このままだと不味い。燃料切れで動けなくなりそうだ。
俺は大きく息を吐き出す。
『もはや、何でもありだな。こんな馬鹿馬鹿しい代物……壊すか』
『ホント、馬鹿馬鹿しいには同意ね』




