410 時代の風44――言わなくても分かるだろう?
『随分と愉快に喋る』
『ふふん。弱いからでしょ』
弱い奴ほどよく吠えると言いたいのだろう。なるほど、確かにその通りだ。
俺はオフィスのビルから現れた大型バスを改めて見る。観光旅行などに使われていそうな普通の大型バスだ。特に武装などは見当たらない。だが、普通のバスとは違う場所があった。運転席に誰も居ない。そして、その運転席のちょうど上――屋根に何故か舞台が乗っかっており、ステージマイクのような形をした謎の装置があった。フォルミはそのマイクのようなものの後ろに立っている。
フォルミは何時着替えたのか、腕にひらひらの付いたきらびやかな衣装を身につけている。白と銀の色合いが目に眩しい。そんな、まるでアイドルスターのような格好をしたフォルミが、ステージマイクの形をした謎の装置を握る。
……。
謎の装置?
いや、あれは確か音声入力装置だったはずだ。あれで大型バスを操っているのだろう。
とりあえず、俺はフォルミを狙い砲撃する。ドラゴンベインの150ミリ連装カノン砲が轟音とともに火を吹く。
「俺様が話している途中で攻撃をするんじゃねえ!」
フォルミが叫ぶ。そして、マイクから手を離し、怪しく動き、両手で円を描く。そして、ドラゴンベインの砲撃が大型バスの前で――何か壁にぶつかったかのように防がれていた。砲撃による爆風すら届いていない。それすら何かに防がれている。
『あのバス型のクルマのシールドか』
『そうかもしれないわね』
セラフの言葉が珍しくはっきりしない。普段なら武装や特徴などを得意気に話しているはずだが……。
そういえば先ほど飛んできた空を飛ぶ金属板のことも『端末みたい』と言っていた。
『セラフ、アレはお前でも知らない代物なんだな?』
『ええ。残念ながら、そうね』
セラフが知らない武装、クルマ――セラフとて全てを知っている訳では無いだろう。だが、セラフはこの世界を支配しているマザーノルンの端末の一つだった。そして、今は、レイクタウン、ウォーミ、マップヘッド、ハルカナ、ビッグマウンテン、キノクニヤ、オーキベースを支配下におき、その情報を得ている。
そのセラフが知らない?
何か危険な香りがする。
……。
奴はアクシードという謎の組織の四天王の一人だ。そんな奴が――そんな奴の乗るバスが危険でないはずがない。
「うっひゃっひゃっひゃ、ひゃー。無駄さぁ、無駄なのさぁ。無駄だと分かったら、俺様の歌を聴けぇッ!」
フォルミがステージマイクを握る。そして、ぼえーっと歌い出した。
次の瞬間、ドラゴンベインの車体が揺れる。シールドがガリガリと削られている。
『音波攻撃か』
『違うわ。よく見なさい』
俺はセラフの言葉にハッとする。右目で周囲を見る。ドラゴンベインのモニター越しだが、俺にはそれが見えていた。
周囲に漂うナノマシーンが震動している。
「そーさー、そーれーはー、ぜったいー、あーるー、はーれーたー」
フォルミは、馬鹿みたいに馬鹿みたいな歌詞の歌をニヤニヤとした顔で楽しげに歌っている。
その歌に反応するように周囲のナノマシーンが震動している。
『まさか、この周囲に漂っているナノマシーンがドラゴンベインに攻撃を仕掛けたのか?』
俺はドラゴンベインを動かし、ナノマシーンが震動している領域から逃げ出す。ドラゴンベインを動かしながら、砲塔を動かし、フォルミを攻撃する。
「俺様の前ではー! そんなもの無駄さぁ」
フォルミが先ほどと同じように両手で円を描く。それだけでドラゴンベインの砲撃が防がれていた。
「ちっ、離れたかよ。ならさぁ、これでも喰らえ! ナノマシンビーム」
フォルミが人差し指を伸ばした状態で両手を握り合わす。その人差し指をこちらへと向ける。そこから放たれる銀色の光。
銀色の光がドラゴンベインを直撃する。ドラゴンベインのシールドが攻撃を防ぐ――が、その勢いまでは殺しきれず吹き飛ばされる。ドラゴンベインの車体が転がり、ひっくり返る。
「いくぜぇ、いくぜぇ。GO! アリバトラー!」
フォルミを乗せた大型バスがこちらへと突っ込んでくる。体当たりをする気なのだろう。
『セラフ』
『ええ』
その体当たりを防ぐようにパニッシャーが動く。パニッシャーのシールドが大型バスの体当たりを防ぐ。そして、グラスホッパー号がグラムノートで攻撃する。
グラムノートが生み出した黒い球体がフォルミの乗った大型バスを大きく揺らす。フォルミがマイクにしがみつき、その衝撃に耐えている。
「あーんだとぉ。リモートコントロール? にしては精度が高い。どんなウル技を使ったんだ? ただの器ではないってことかよぉ、お前はさぁ!」
フォルミが叫んでいる。
ドラゴンベインのシールドを動かし、その反動でひっくり返った車体を立て直す。
『セラフ!』
『ふふん。任せなさい』
ドラゴンベインの150ミリ連装カノン砲が火を吹く。連動するようにパニッシャーの主砲が放たれる。
大きな爆発と爆煙。
……。
『あらあら。やったかとか言わないの?』
『言わなくても分かるだろう?』
煙が晴れる。
そこには、大型バスを守るようにナノマシーンで造られた壁があった。
間違いない。
こいつは――アクシード四天王のフォルミはナノマシーンを操る。




