041 クロウズ試験08――疑心暗鬼
「おいおいおいおい! こいつはなんだ!」
ガタイの良いおっさんが叫びながら、俺の背負い鞄から取り出したものを並べていく。
「こんなものを持っているとかさー」
ドレッドへアーの女が小ぶりの短機関銃に手を伸ばす。
「触るなよ。触れば敵と見なす」
俺の言葉を聞いたドレッドへアーの女が慌てて手を引っ込める。
「気は済んだか? これで俺が犯人ではないと分かっただろう」
「餓鬼が持っていて良いものじゃない。これを何処で手に入れた?」
ガタイの良いおっさんが俺を、俺の目を見ている。
……餓鬼が持っているものじゃない? そうだろうか?
餓鬼が持っていてもおかしくないだろう。ゲンじいさんたちが暮らしている町――治安はそれなりのようだが、それでもあのスラムのような町の様子を見る限り、子どもが武装していてもおかしくないと思った。だが、それは違っていたのだろうか。
それはともかくとして。
「聞きたがりだな。情報料を取った方が良いのか?」
「それは答えられないような手段で手に入れたってことか?」
おっさんの言葉に俺は肩を竦めるしかない。
「おい!」
おっさんが叫ぶ。なんとも……。
「あんたらが言うバンディットどもだ。俺が殺したバンディットどもから奪ったものだ」
「へぇ。何処で盗んだのか知らないけどさ、嘘を吐くならもっとマシな嘘の方が良かったと思うけど?」
ドレッドへアーの女はニヤニヤと笑っている。
「あんたの使われていない武器よりはマシだと思うさ」
俺は肩を竦め、散らばっているものを回収し鞄に詰めなおす。
「あ? 餓鬼が! お望みならコイツで叩き潰してやろうか!」
ドレッドへアーの女が喚き散らし、こちらへ向かってくる。それをガタイの良いおっさんが手を伸ばして止め、口を開いた。
「分かった。だが、疑わしいのは変わらねえ。拘束させてもらうぞ」
やれやれ。随分と偉そうで上からな注文だ。武器を持っていることで自分たちの方が優位だと思っているのか、それとも機械連中を倒して気が大きくなっているのか、どちらにせよ、面倒なことだ。
『ふふふん。お前だって偉そうじゃん』
『相手に合わせた対応をしているだけだ』
俺に言わせればお前が一番偉そうだよ。
ガタイの良いおっさんが俺の方へと歩いてくる。
さて、どうしたものか。
俺がどうしようか考えていた次の瞬間、またも照明が消え、周囲が暗闇に包まれた。
「おい! ちっ」
「こんな時に停電!」
「何をやったのです」
連中はここが何処かを忘れて好きに叫んでいる。
やれやれだ。本当にやれやれだ。
暗闇の中、右目に表示されている地図と光点を確認する。叫んでいる声に反応したのか奥から赤い光点の集団がこちらへと近寄ってきている。
不味いな。
上は砂嵐だ。逃げ場が無い。そして、ここはただの通路――道を塞ぐようにところどころ盛り上がった砂の壁があるとはいえ、身を隠すことくらいは出来ても、銃で撃たれればあっさりと散らされるだろうし、場合によっては貫通してくるだろう。とても盾として活用出来るようなものではない。
「ちっ」
誰かの舌打ちが聞こえる。
そして青い光点の一つが動いた。
早い。
この暗闇の中でも見えているかのような動きだ。
そして先行していた赤い光点のいくつかが消えた。
壊した?
早いな。かなり手際が良い。
青い光点がこちらへと戻って来る。
なるほど、保護者の付き添い有り、か。
「おい、何か音がしなかったか?」
「うるさい。叫ばないで!」
「動いてはいけません。こういう時は動かないのが一番でしょう」
動いていなければ暗闇の中で殺されていただろう連中はのんきなものだ。
そして、天井の照明が小さく明滅し、明かりが戻る。
「ふぅ、脅かせるぜ」
「もう、どうなってるの!」
「これは荷物の中に明かりを用意していなかったオフィスの失態でしょう」
連中は好き勝手なことを言っている。
俺はナイフを持った冴えない男を見る。息を切らすこと無く、変わらない様子でペロペロとナイフを舐めていた。
「なぁ、それ、ナイフの形をしたキャンディーか何かなのか?」
「首輪付きは面白いことを言うんだぜ」
俺は肩を竦め、背負い鞄の中から短機関銃を取り出す。ここからは武器があった方が良さそうだ。
『ふふふん。そんなもの通じないのに』
『牽制くらいにはなる』
『無駄なのに馬鹿じゃないの』
どうやら心強い味方もいるようだし、無駄では無いだろう。
ただ、少し疑問なのは、あの地下室で手に入れたハンドガンは機械にも有効だった。あそことここ、そんなにも装甲に違いがあるのだろうか? セラフは何か知ってそうだが、素直に答えてはくれないだろう。
『ふふふん。あれはHK11LR。heavenly&knifes社の11番モデルを改良して長射程にしたもの。そんなゴミから回収したゴミとは違うんだから』
意外にも答えてくれた。にしても、無駄に解説を入れようとしてくるセラフは武器マニアというか……武器オタクなのかもしれない。
『はぁ? 馬鹿なの? 知識としてデータを収集するのは当然のことでしょ』
とにかく、あの地下施設にあったハンドガンは思っていたよりは特別製だったようだ。だが、弾も火薬を使った普通の弾丸だった。反動も普通のハンドガンだった。どうやって威力の違いを出しているのか分からない。
『はぁ? ふふふん、あの程度で特別製? マテリアルコーティングされたマシーン装甲を侵食するコードが組み込まれているだけでしょ』
また良く分からないことを言い出した。
とにかく、この短機関銃は俺の爪と同じように生物ならともかく機械には効果が無いってことだろう。連中が持っている配給された良く分からないエネルギーを飛ばす銃を活用するしかない、か。
なかなかハードなことになりそうだ。
そして、機械が現れる。
昨日倒したのと同じ蟹もどき。だが、その蟹足が生えている平らな板の上には機関銃が乗っかっていた。
「おい、なんだ、ありゃあ……」
蟹もどきの機関銃が火を噴く。
これは、不味いな。




