408 時代の風42――似たような馬鹿を見た気がするな
アクシードの一団を撃破する。逃げだそうとしていた奴らも居たようだが、残らず殺す。生かしておいても碌なことにならないだろうから、ここで禍根を断っておく。
盾役だった装甲車も貫通力に優れたグラスホッパー号のグラムノートと、パニッシャーの主砲による集中砲火の前では、ただの硬いだけの的でしかなく、ゴミクズ同然だ。
俺はドラゴンベインでの攻撃を控え、パンドラの回復に努めていた。カスミがドラゴンベインをここまで運んでくれるまでに、かなりパンドラを消費していた。だが、今は幸運なことに日中だ。しばらくすれば回復するだろう。パンドラは、移動するにも、攻撃するにも、防ぐにも、全てに関わってくるクソみたいな仕様のエネルギーだが、日中であれば回復していく。回復するなんて、夢のような――まさに無限エネルギーだ。
『あらあら、褒めているのかしら、けなしているのかしら』
『全てを一つで賄うのはクソだと思ったが、パンドラが無事なら、それ一つで済むというのはメリットでもあると思い直しただけだ』
このエネルギーが何処からやってきているのか? 本当に無限なのか? 疑問に思うところはある。無限だと? 際限なく、何も消費せず、永遠に使用し続けることが出来るエネルギーなんてある訳が無い。そして、それに近いものがあったとして、それがお綺麗なエネルギーであるはずが無い。
……。
アクシードの連中は気になることを言っていた。ナノマシーンの濃度を上げろ? 確かにそう言っていたはずだ。連中はナノマシーンの制御が可能なのだろうか?
ナノマシーン。要は目に見えないほど小さな機械だ。マシーンと言っているが機械らしい姿をしたものだとは限らない。それこそ、ウィルスであったり、人の細胞のようなものであったり、様々だろう。色々な種類があるはずだ。連中は言っていた。『濃度を上げろ』と。それは同一の規格だということではないだろうか。この世界に散布されている多くのナノマシーンと同一の規格。それをアクシードが持っている?
そして、もう一つの疑問。ナノマシーンのエネルギーは何処から来ているのか? ナノマシーンは目に見えないほど小さな代物だ。目に見えないほど小さいからといって何のエネルギーも無く動くようなものではない。無から有は生み出せないのだ。どんなに小さかろうとエネルギー保存の法則に縛られる。
パンドラのエネルギー、ナノマシーンのエネルギー。どうにも共通点があるようにしか思えない。何か根底にあるものが同じ……そんな気がする。
それを扱うアクシード、か。奴らは俺が思っているよりもヤバい連中なのかもしれない。連中がこの世界を支配しているマザーノルンの実行部隊だったとしても驚かないだろう。だが、そうすると、マザーノルンの支配にある街を襲撃する理由が分からなくなる。
自作自演?
あり得そうだが、あり得ないだろう。それをマザーノルンの端末たちが知らないのはあり得ない。
……まぁいい。
考えることは後回しだ。
今はこのくそったれなおもてなしに落とし前をつけるのが先だ。
『セラフ、頼む』
『ふふん。任せなさい』
グラスホッパー号とパニッシャーを動かし、サンライスの街を守っていた防壁に穴を開けて貰う。そこから、街の中へと侵入する。
『さすがにクルマならあっさりと破壊して侵入が出来るな』
『あらあら、何をお馬鹿なことを言っているのかしら』
セラフのこちらを小馬鹿にしたような笑い声が頭の中に響く。
『セラフ、どういう意味だ?』
『お馬鹿さんにも分かるように言えば良いのかしら。最前線から飛んでくる流れ弾を防ぐ街が、クルマの砲撃程度でどうにかなると思っているの? と、そう言えば分かるかしら』
セラフはわざとらしく、かしらかしらと歌っている。
『なるほど』
この街を守っていたシールドが無くなっているということだろう。
『ふふん。理解が出来たのかしら。今のこの街の状況も分かったでしょ』
『つまり、街を守っていたシールドが無くなっているということは、流れ弾をシールドで守れないということか』
『その通りなんだけど、そういう説明だとなんだか、お馬鹿な感じね』
サンライスは最前線に最も近い街だ。いつ、最前線から流れ弾が飛んでくるか分からない。これは、どうやら急いだ方が良さそうだ。
『進路は任せる』
『ええ、任せなさい』
サンライスの街の中をドラゴンベインがグラスホッパー号とパニッシャーを引き連れて進む。街は徹底的に破壊されている。壊されてから日数が経っているからか、人の気配は無く、辺りは静かだ。
アクシードの連中の姿も見えない。
『ふふん。連中が待っているのは……』
『ああ、そうだろうな』
目的地が見えてくる。
クルマでもそのまま侵入が出来そうなほど大きなビル――クロウズのオフィスだ。
ノルンの端末が隠れていたであろう施設。
そのオフィスの前にはアクシードの連中が居た。アクシードの連中はサンライスの街の住民だったものを囲み、楽しそうにクソみたいな宴を開いていた。
連中がこちらに気付く。
「お、クルマだ」
「また馬鹿がやってきたぜ」
アクシードのゴーグル兵士たちが突撃銃を構える。
「キキー! 待て待て、ここはアクシード四天王次期候補と呼ばれた、このシカーダ様に……」
そのゴーグル兵士たちの中から大柄な猿のような男が現れる。猿のミュータントなのだろう。
俺はその集団に150ミリ連装カノン砲による三連撃をぶち込む。色々なものと一緒に連中が吹き飛んでいく。大見得を切って登場した馬鹿もバラバラだ。
『似たような馬鹿を見た気がするな』
『ふふん。馬鹿が多すぎてどれも同じにしか見えないから』
インチキ科学による少し不思議世界。




