407 時代の風41――セラフ、この濃度だが、行けると思うか?
アクシードの連中の背後から現れたグラスホッパー号とパニッシャーが攻撃を繰り返している。
パニッシャーの機銃が銃弾をばらまきアクシードの兵隊たちを蹴散らす。追い打ちの主砲が装甲車を牽制する。そして、グラスホッパー号に搭載したグラムノートから放たれた黒い球体が攻撃担当の装甲車を貫く。盾役の装甲車をこちらが引きつけ、その隙を突いた形だ。
だが、狙いが甘かったのか、貫通能力の高いグラムノートでもあまり大きなダメージになっていないようだ。攻撃担当の装甲車はガタガタと車体を揺らしながらも元気に攻撃を返してくる。
狙いが甘い?
セラフらしくないミスだ。
いや、これは障害が起きるほどナノマシーンが濃すぎることと、そんな中で二台ものクルマを遠隔操作していることが原因だろう。
背後からの不意打ちは成功したとは言いづらいが、強力な援軍が来たことには変わりない。グラスホッパー号とパニッシャーには、このまま攻撃を続けて貰おう。アクシードの雑兵を倒すくらいなら、今のままでも充分だ。
『しかし、良くここまで運べたな』
『ふふん。エレベーターを使えばすぐだから』
セラフは余裕なフリをして笑っている。そのエレベーターの前にも、ここに来るまでにも、アクシードの連中が居たはずだ。カスミがドラゴンベインを運ぶ際に、ある程度は、そいつらを蹴散らしたかもしれない。だが、それでも簡単なことではなかったはずだ。
『あら、それとも、この濃度のことを言っているのかしら』
セラフは通信障害が発生している擬似不感地帯の中にありながら、ここまでクルマを運んだことを褒めて貰いたいらしい。
『さすが、セラフだ』
『ふふん。当然でしょ』
ドラゴンベインに搭載した150ミリ連装カノン砲が轟音を響かせる。放たれた砲撃が盾役の装甲車を揺るがす。
『しかし、装甲車か』
『あら? どうしたのかしら』
『どれも同じにしか見えない』
『あらあら、死にすぎて目が腐ったのかしら』
『片方はお前だろう?』
俺はわざとらしく右目のまばたきをする。
装甲車。要は車に装甲を貼り付けたものだ。鋭角なお弁当箱みたいな姿をしている。パンドラを搭載し、シールドによって攻撃から身を守るクルマに装甲は必要だろうか? 無駄とは言わないが、優先するほどでもないだろう。どちらかというと、デザインのため――それこそ所属を分かり易くするためデザインを統一したように見える。
……。
可能性。キノクニヤでも装甲車は数が揃っていた。同じ遺跡で大量に見つかったという可能性はあるだろう。だが、もう一つ、可能性がある。
生産だ。何処かで今でも作られている。その可能性は考えていた。だが、もしそうだとすると、アクシードの連中は――
「弾幕薄いぞ! こちらまで砲撃が届いている。濃度をもっと上げろ!」
アクシードの連中の中に、偉そうに指示を出している馬鹿がいた。こいつがこの部隊のリーダーなのだろう。
とりあえず、そいつが居る辺りに150ミリ連装カノン砲の三連続砲撃を撃ち込んでおく。
「ぐぎゃあああ」
問題は盾担当の装甲車だ。挟み撃ち状態になったことで攻撃担当の装甲車を気にしなくても良くなった。攻撃担当の装甲車は、グラスホッパー号とパニッシャーの攻撃から逃げることで手一杯だ。反撃もそちらに集中している。グラスホッパー号とパニッシャーのシールドは削られてしまうだろうが、それでも、雑兵と合わせて、そのうち倒せるだろう。
『セラフ、この濃度だが、行けると思うか?』
『あらあら。出来ないと思っているの?』
俺はセラフの言葉に肩を竦め、ため息を吐く。
『セラフ、少し任せた』
『あら、二台動かすだけでも結構な負担なのに?』
『出来るだろう?』
『ふふん』
俺はセラフの笑い声を聞きながら、操縦席を離れる。ハッチを開け、そこから上半身だけを外に出す。ボロボロになって動かない機械の腕九頭竜を台座代わりにして、右腕を盾役の装甲車へと向ける。
俺は大きく息を吸い込む。空気が美味い。
腹に力を入れる。
「斬鋼拳」
俺の右腕が消える。
その反動に俺は吹き飛び、ハッチの縁に体を思いっきりぶつける。その衝撃に体の中のものが吐き出そうになるが、俺の体の中には胃液しか残っていない。出るものは無い。
そして、盾役を担当していた装甲車が真っ二つになった。
辺りはナノマシーンが充満している。濃すぎるくらいだ。レーダーは効かなくなり、銃火器の命中精度は落ちている。俺の斬鋼拳もナノマシーンを使ったものだ。外れる可能性もあった。最悪、その濃度に飲まれて元に戻らなくなる可能性だってあった。
だが、俺は行けると思った。
そう、俺はただ出来ると信じるだけでいい。
俺の斬鋼拳はパンドラが生み出したシールドごと装甲車を斬り裂いていた。
盾役の装甲車はもう一台居る。だが、そいつは真っ二つになったお仲間を見たからか、逃げだそうとしていた。
俺の右腕が戻る。俺は息を吐き出しながら、ハッチの中へ戻る。
『セラフ、殲滅するぞ』
『はいはい』
ミノなんちゃら粒子。




