表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

403/727

403 時代の風37――『どうした? 何故、止める?』

 闇。


「み、見えねぇ」

「何も見えない。なんで何も見えねぇんだよ!」

「どういうことだよ」

「どうなってるんだい! 出しておくれよ」


 どうやら俺たちは閉じ込められたようだ。同じように閉じ込められた連中が少し騒がしいようだが無視をする。


『とりあえず、どうするか、か』

 俺は目の前の壁を軽く叩いてみる。硬い。だが、金属の硬さでは無い。まるで石のような――そんな硬さだ。


「なんなんだよ、なんなんだよ」

「何が起きたんだ」

「ちょっと、誰か灯り持ってないの?」

「裏切った……だと」


 俺は拳を握る。


 大きく息を吸い、吐き出す。その勢いのまま壁を殴る。


 殴った。


 ……。


 ……。


 ……。


 ……。

 ……。


 拳が砕けた。


 ぐしゃりと気持ちよいくらいの勢いで拳が砕けている。壁に傷は……無いようだ。硬すぎるくらいに硬い壁だ。どんな素材でこの壁が作られているのか、皆目見当がつかない。


「銃を、銃を撃ったらどうだ?」

「おー、火花が飛ぶじゃねえか」

「ちょっと、誰が何処に居るかも分からないのに!」

「上に撃ちゃあ良いんだよ、上に」


 さて、どうする?

 とりあえずこの壁が何処まで続いているかを確認するべきだろうか。サンライス側の壁を確認してみるのも良いだろう。そちら側は最初からあった壁だ。狙撃銃の少年――アクシード四天王フォルミの用意した壁とは違うはずだ。そちら側なら破壊が出来るのではないだろうか。


「よし、撃つぞ、撃つぞ」

「撃てぇ」

「うぉ、眩しい」

「目が、目がパチパチする」


 それに、だ。

 疑問がある。何故、奴は正体を明かした? 死んだ振りまでして隠れていたのに、それを台無しにするようなことを……何故したんだ? 俺を油断させるため? 俺の意表を突こうとしていた? いや、こうやって閉じ込めるつもりなら、それこそ隠れていた方が確実だったはずだ。姿を現してしまえば、攻撃を受ける可能性だってあったはずだ。それとも俺に気付かれたから仕方なく姿を現したのか?


 俺に自己紹介がしたかった?


 ……まさかな。


「ぎゃああああぁぁ」

「痛ぇ、痛ぇ。攻撃だ、攻撃が飛んできた!」

「違う、違う、これは跳弾だ。跳ね返ってるんだよ!」

「止めろ! 撃つのを止めろ! 危ねぇ、撃つなら上に撃て! 銃を下げるな! いや、上にも撃つな! 跳ね返る!」


 そもそも、俺を閉じ込めて何がしたい? こんなことに何の意味がある? 俺が、ここから動けないようにしたかったのか? 時間稼ぎか? 俺を殺したくて……というには弱すぎる。閉じ込めた後で毒ガスをばらまくなり、空気をぬくなりすれば確実に殺せたはずだ。だが、そういったことが起こりそうな気配は無い。となると、やはり時間稼ぎか?


「お、おい、大将、居るんだろ? 居るんだよな?」

「なんで、何も言ってくれねぇんだ」

「今こそ、あんたの指示が居るんだよ!」

「助けて、ねぇ、助けてよ!」


 時間稼ぎ、か。それを狙っていると言うのなら、それを壊そう。俺は拳を強く握り、構える。

 斬鋼拳――それならこの壁を崩せるはずだ。突き抜けることが出来るはずだ。この闇の中を探索するよりも手っ取り早く壁を壊して脱出してしまおう。


 俺が斬鋼拳を放とうとした時だった。


『待ちなさい!』

 突如、セラフの制止が入る。俺は慌てて拳を止め、ナノマシーンへの命令をキャンセルする。

『どうした? 何故、止める?』

『ふふん。今後、戦えなくなっても構わないというなら撃てば良いわ』

『どういうことだ?』

『ふふん。お前も群体(ナノマシーン)が見えるようになったのなら、その目で見てみれば良いでしょ』

 俺はセラフに言われるまま、右目で見る。だが、ナノマシーンは見えない。

『どうした? 何も見え……待て』

 何故、何も見えない?


 何故、ナノマシーンが何処にも見えない?


『セラフ、どういうことだ?』

『私にも分からないから! でも、この状況で群体(ナノマシーン)に違う命令を出して切り離したら、元に戻れない可能性の方が高いから。分かるでしょ』


 それは……つまり、

『斬鋼拳を放てば、俺は右腕を永遠に失うということか』

『ええ。十中八九そうなるでしょうね』


 斬鋼拳で、この壁を必ず貫けるという保証は無い。この暗闇に閉ざされた状況で、それをやってしまうのは――取り返しのつかないことをやってしまうのは、不味いだろう。


 まずは本当に脱出が出来ないか――出口が無いかを確認するべきだ。それに、カスミの存在もある。カスミなら、この異常に気付いてくれるはずだ。カスミなら、いつか、ここに辿り着く。待てば必ず脱出することは出来る。


「大将! 答えてくれよ、大将! ラシード!」

「んだよ! もしかして、ラシードも裏切ってたのか!」

「なんで答えてくれないんだ!」

「ラシード、あたいだけでも助けてくれよ」

 連中は騒いでいる。常に騒がしい。


 連中が呼んでいるラシードだが、何処かに逃げだした訳でも、裏切った訳でも無い。連中の近くの足元に倒れているはずだ。そう、最初の銃の乱射が、運悪くラシードに命中していた。それだけだ。


 連中のトップがこんなにもあっさりと退場するなんて……と、思わないでもないが、人の命なんてものは、こんなものなのかもしれない。


 運が悪ければ、どんな奴でも死ぬ。


 それだけだ。

2022年10月6日削除 勘違いして間違えていました!

→ まるで、あの落とされた場所のように綺麗にナノマシーンが消えている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 八方塞がりだ!? [気になる点] 「落とされた場所」がゴミの山のことなら、ナノマシーンは濃すぎるんだったような? [一言] ラシードェ……まあ仲間からの期待を裏切ったという意味では合ってる…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ