402 時代の風36――「お前は何者だ?」
ロビーから伸びていた通路を抜ける。
通路の先――そこには光が見えていた。
「外か」
俺の呟き。
「……」
未だ納得が出来ないのか、不満げな顔で、しかし無言でラシードたちは俺の後をついてきていた。
差し込む眩しいくらいの陽射し。
外だ。
どうやらサンライスの街の入り口に出たようだ。いや、裏口だろうか。
そして、そんな俺たちを待ち構えるように大きな壁が立ち塞がっていた。街を取り囲む防壁だろう。
『ここを抜ければサンライスの街か』
『ふふん。そのとおり。サクッと抜ければ良いでしょ』
俺が事前に確認していた地図ではここが最終防衛ラインになっていた。警備兵に見つかっていなければ、ここを隠れながら進むだけで攻略が出来たはずだ――だった。
『とりあえず、敵が居ると思って進むか』
俺たちは、見上げても先が見えないほど大きな壁へと向かう。大きすぎて日陰が凄いことになっている。
「サクッとやっちまおうぜ」
「壁かぁ、頼むぜ」
「ああ、このお方がいれば、ここも楽勝だぜ」
「おうさ、ささ、頼みますぜ」
俺が助けた四人が何故か非常に調子の良いことを言っている。これはこれで苛々するのは何故だろうか。
俺は大きくため息を吐く。
大きな壁には分かり易く入り口らしき扉がついている。そこから壁の中に侵入が出来るのだろう。そして、そこを抜ければサンライスの街だ。だが、最後だけあって警備は厳重なはずだ。とりあえずこれ以上被害が出ないように俺が先頭を行くべきだろう。
俺は扉まで歩き、手をかける。
『……これは、どういうこと?』
俺の頭にセラフの少し戸惑った声が響く。
『どうした?』
俺は扉に手をかけたまま立ち止まる。
『……』
セラフの沈黙が続く。
扉を開けない方が良いのか? 待ち伏せでもあるのだろうか。いや、それは予想出来たことだ。
……。
その割には、この扉の向こうに何の気配も無い。
どういうことだ?
『セラフ、どうした?』
俺はもう一度、セラフに声を掛ける。
『……全滅したわ』
全滅?
セラフの声を聞き、慌てて振り替える。そこには……普通にラシードたちの姿があった。全員、生きている。ラシードたちは俺の慌てた様子を見て首を傾げていた。
『どういうことだ?』
『全滅したって言っているの。上で映像を見ていると言ったでしょ。そこではこいつらがこの壁に、無謀に、突撃して、全滅していたの。賭けの終わり。このままだと賭けが終わるから』
……。
全滅?
俺はもう一度、ラシードたちを見る。生きている。死んでいない。
どういうことだ?
『それは映像がいじられているということか?』
『ええ、そういうことみたいね』
そういえば白壁の中、タレットを破壊していた時も映像がいじられていた。結局、やらせでしか無いということか。だが、そんなやらせをしてどうする? バレないつもりなのか? 俺たちを確実にここで殺せる自信でもあるのか? 俺たちがここを抜け、街に入ったらどうなる? 全てが茶番になるだろう。いや、茶番なのは元からか。
!
振り向いていた俺は気付く。
気配は無かった。
だが、確かにそいつは居る。
ニヤニヤと笑いながら歩いてくる。
そいつは口に指を突っ込み、頬を引っ張りながら喋る。
「ほー、ほぉ、俺様に気付くか。さっきは気付かなかったのになぁ。へー、ほぉ」
その言葉を聞き、ラシードたちも気付く。ラシードたちが振り返る。
「へ、え?」
「生きてたんだ! 良かった」
「ホント良かったぜ」
連中がそいつの元へと駆け寄る。そして、それを、そいつは殴り飛ばした。そのまま髪を掻き上げる。
「鬱陶しいよなぁ。俺様に集まる雑魚がなぁ」
狙撃銃を持っていた少年が笑う。
やはり、こいつか。こいつがゲームメーカー。最後の最後で盤上をひっくり返しにかかったか。
つまり、死んでいたのも偽装か。
いや、偽装?
あれは確実に死んでいた……はずだ。
何かトリックがあるのだろう。きっとそういうことだ。そして、それは、今、あまり重要では無い。こいつがここに居る理由――それが問題だ。
「賭けをひっくり返すために、か。必死だな」
俺の言葉を聞いた狙撃銃の少年が首を傾げる。
「賭け? ああ、ここの街の連中がやっているお遊びか」
狙撃銃の少年が腹を抱えて笑っている。まるで自分は関係無いと言っているかのようだ。
「お前は何者だ?」
俺は狙撃銃を持っていた少年に聞く。腹を抱えて笑っていた少年が涙目をこすり、こちらを見る。
「あー、自己紹介が未だだったか。ミメラスプレンデンスとコックローチから君のことは聞いているよ、ガムくぅん」
ミメラスプレンデンス?
コックローチ?
「まさか、お前は……」
狙撃銃を持っていた少年がニヤニヤと笑いながらうやうやしくお辞儀をする。
「アクシード四天王が一人、賢愚のフォルミ。フォルミ様さぁ! 俺様はさぁ、工作は得意なんだよ、工作は! 破壊工作? 隠蔽工作? 図画工作? 工作と名前が付くものなら、なんでも! そう、なんでもさぁ!」
アクシード四天王。
こいつが、か。
「アクシード四天王のフォルミ? アクシードはこのサンライスの街と手を組んだのか」
俺の言葉を聞いたフォルミが指を振る。
「ちっちっち。俺様が街と? 笑えないなぁ。俺様の目的はお前だよ。ガム、お前が目的だ」
「仲間をやられた復讐か?」
俺の言葉を聞いたフォルミがきょとんとした間抜け顔を晒す。
「復讐? ああ、うん、それでいい。そうそう、復讐が目的だなぁ。俺様の目的は復讐だなぁ。だから、死んでくれ。そういう要望だからなぁ。死んでくれよ」
フォルミは笑っている。ニタニタとこちらを嘲るような顔で笑っている。
俺は光る刃を生み出す筒を握る。
このまま――
俺が動こうとした時だった。
フォルミの足元の床が突然、隆起する。
「おっと。まだ俺様はガムくぅんと戦うつもりはないから、大人しくそこで死んでいてくれよ」
壁が――フォルミを乗せたまま、ぐんぐんと地面が隆起し、大きな壁が生まれる。
「せぇぜぇ、頑張ってくれよぉ」
遙か上空からフォルミの声が聞こえる。
壁。壁が生まれていた。
俺たちを取り囲むように壁が生まれていた。
そして、その壁が閉じられる。
光が、太陽の光が消える。
まさか……閉じ込められた?
2022年10月9日修正
自己紹介が未だったか → 自己紹介が未だだったか




