395 時代の風29――『今度は何を言われるのだろう。少し楽しみだ』
さて。
連中を呼ぶのは良い。しかし、だ。
『今度は何を言われるのだろう。少し楽しみだ』
『あらあら、そんなことを楽しみにするなんて頭がおかしくなったのかしら』
俺はセラフの言葉に肩を竦め、連中の元へと歩いて戻る。
「おい、奴が戻ってきたぞ。って、一人かよ」
「随分と遅かったじゃない」
「怖くなって逃げだしてきたんじゃねえか」
何か色々と言っている連中を無視し、参謀君と会話しているラシードのところへ向かう。
「見てきたぞ」
「その割には誰もいませんねー。もしかして、本当にただ見てきただけとか言うつもりですか? はぁ、そうですか。そんなこと凄腕のクロウズがやることとは……」
「悪いが俺はラシードに話しかけている」
俺は突っかかって来た参謀君をひと睨みし、黙らせる。こいつのくだらない話を聞いていたら日が暮れてしまう。
「それで、中はどうでした?」
ラシードがぐぬぬといった顔の参謀君を見て苦笑し、聞いてきた。ラシードは、彼も悪い奴ではないのですが、とか言い訳を付け足しそうな顔している。
「タレットは全部破壊されていた」
まずは当初の目的がどうなったかを話す。
『あらあら、一つはお前が壊したのに、自慢しなくても良いのかしら』
『不要だ。たかだかあの程度のタレット、壊したことは自慢にもならないだろう?』
それに、言ったところでこいつらが信じるとは思えない。
「それは朗報だ」
「ええ。どうやら私たちの作戦が良かったようですね」
参謀君が得意気な顔で俺を見下ろしている。
『ああ、なるほど。こいつは突撃を作戦だと思っているのか』
『ふふん。一応、作戦ではあるでしょ』
『下策だな』
俺は肩を竦める。
「こ、この何を!」
「落ち着け、アブジル」
「え、ええ。すみません、大将。こいつの馬鹿にした態度に少し……らしくありませんでした。ふぅ、それで皆はどうしたんですか。砲塔を排除して、さらに先行しているんですか?」
俺はラシードと参謀君の茶番を冷めた目で見る。
また揉めそうだが、事実を伝えるべきだろう。
「連中は全滅していた」
「全滅!」
二人の叫び声。
二人は信じられないという感じで酸素を求める魚のように口をパクパクと動かしている。
そして、流れる沈黙。
……。
「ま、まってくれ、それはどういう意味だ?」
復活したラシードが俺に聞いてくる。
「言葉通りの意味だ。突撃したのは五人だろう? 五人全員が死んでいる」
俺の言葉を聞いた二人がよろよろと後退る。
「全滅、そんな……間違っていたというのですか。こ、こんなことが」
「アブジル、君の作戦は完璧だった。君が気にする必要はない。皆に頼んだのは僕だ。いや、だが、これは予想外だ」
いや、予想通りだろうと突っ込みを入れたくなるような言葉だ。
「大将、さっき全滅って聞こえたんだが、どういうことだ?」
短機関銃を持った男の中でもいかにも力自慢という風貌の男がこちらにやって来る。
「聞こえてしまったか」
ラシードがやって来た男の方を向く。聞いてくださいと大きな声で叫び、それで聞こえていないと思っていたのなら、こいつは本当に馬鹿だろう。
「こ、これは皆にも話した方が良いですね」
「ああ」
参謀君とラシードが頷き合う。
「皆、聞いてくれ」
ラシードがこのタイミングで人を集める。
「彼に中の様子を見てきて貰った。突入した皆は砲塔を壊すのに成功していた!」
歓声が沸き起こる。ラシードと参謀君は、こいつらと通路にタレットがあること、それを破壊するために五人を突撃させたという話を共有していただろうか? こいつら、何も考えずに何か上手くいっているという感情だけで喜んでいないだろうか?
「だが、そのために突入した皆が犠牲になってしまった」
ラシードの言葉に歓声が消える。
「死んだ?」
「あいつが、あいつらが?」
「嘘だろ」
ざわざわとした騒ぎが起こる。
「おい、お前が見に行ったって言ったよな?」
先ほどこちらにやって来た力自慢君が睨むような目で俺に話しかけてくる。
「俺は言っていないが、見に行ったのは確かだ。それが?」
この男、何を言い出すつもりだろうか。
「お前が殺したんじゃないだろうな? 俺はこいつを信用出来ねぇ! あいつらがそんなに簡単にやられるはずがねぇ。こいつが後ろから……」
何を言い出すかと思えば、そんなことか。
『付き合いきれないな』
『ふふん。馬鹿なんでしょ』
全滅したことが信じられなくて、誰かに責任を転嫁しようとしての言葉なのだろう。
だが、だ。
俺は男の腕を取り、そのまま捻り上げる。
「がっ、何しやがる。やっぱり、お前が……」
「もういい。喋るな」
「くそが、は、離しやがれ!」
捻り上げた腕をさらに強く押さえる。そのまま地面に口づけをさせる。
「俺は喋るなと言っている」
「が、ひゅ、く」
本当にこいつらはどうしようもない。
「お前は自分の言葉に責任が持てるのか? ちゃんと少ない脳みそで考えて喋ったのか? 口に出した言葉は取り消せないぞ? 分かっているのか?」
俺は力自慢君に親切に教えてあげる。
「な、何のつもりですか」
ラシードが慌ててこちらにやって来る。
「何のつもりだと? ふざけたことを言った馬鹿に躾をしているだけだが?」
俺は周囲を見回す。連中は困惑した様子でこちらを見ていた。なるほど、状況が分かっていない。
『持っている銃で仲間を助けるために反抗しようとする、そんな気概を持った奴は居ない、か』
『ふふん』
セラフは楽しそうに笑っている。
「こいつは俺がお前達の仲間を殺したと言った。お前たちもそう疑っているのか? そんなことをして俺に何のメリットがある。それに俺が持っている武器は、お前たちが言うには扱えないのだろう? それで、殺した? なかなかに愉快なことを言う」
まぁ、武器はセラフのおかげで問題無く使えるのだが。
「申し訳ありません。ガムさん、彼も反省しているでしょうから離していただけませんか?」
ラシードが下手に出てくる。
「反省? 反省したら無かったことになるのか? 口に出した言葉の責任は誰がとる?」
「彼には後でしっかりと言っておきます」
あくまで自分たち本位、か。
「ラシード、配下の管理がなってないな」
「配下ではなく仲間です」
ラシードはそんなことを言っている。今、言っているのはそういうことではないのだが、こいつには分からないらしい。
俺は大きく息を吐き出し、手を離す。
本当に付き合いきれない。




