394 時代の風28――『こいつらは似たようなことしか言えないのか?』
俺は白壁へと歩く。
「おいおい、そんな使えない武器を担いでいくのかよ」
「はは、武器を持ってないと不安なんだろうよ」
「へぇ、見た目通りお子ちゃまなのね」
連中は俺を見てなかなか楽しいことを言っている。
『こいつらは似たようなことしか言えないのか?』
『ふふん。基本が同じなんでしょ』
俺はセラフの言葉に肩を竦めながら歩く。
さて、入り口はここか。
白壁に開いた通路。そこに突入する前に白壁を叩いてみる。
『これは……石膏か?』
防壁のような壁に石膏を使っているのは謎だ。だが、これは脆そうだ。クルマで突っ込めば障害を無視して街まで突っ込めるだろう。
クルマ、か。無い物ねだりをしてもしょうがない。今はこの身を使って働くとしよう。
開いた通路に入る。
直線通路のはずだが、特に何も見えない。ゆっくりとした坂が続いている。まだタレットは見えない。
『ふふん。タレットが設置されているのはもう少し先みたいね』
『ああ』
俺は持っていた光刃を生み出す筒をしまい、拾った狙撃銃を持つ。出来れば両方使いたいが今は片手しか使えないのだから仕方ない。
坂を登る。
『なるほど』
そこには壊れたタレットと銃弾に撃ち抜かれた二つの死体があった。残りは三人。タレットを一つ壊すのに二人が犠牲になったのは、どうなのだろうか。大きな犠牲か、小さな犠牲か、それとも必要な犠牲だったとでも言うべきなのだろうか。
と、そこで銃声が聞こえる。
この先だ。
まだ戦闘は続いているようだ。間に合ったのか、間に合わなかったのか。俺はいつでも撃てるように狙撃銃を構えたまま走る。
二台目のタレットだ。そこに人の姿は無い。あるのは、銃弾に撃ち抜かれた一つの死体。これで三人。残りは二人、か。
いくつもの交差するような銃声が聞こえる。近い。
戦っているのは、あの狙撃銃を持った少年だろう。俺が気配を感じることが出来なかったレベルの奴がそうそうやられるとは思えない。奴はこの賭けを盛り上げるためのゲームメーカーの可能性は高い。となると賭けを盛り上げるために苦戦した振りを、戦闘を長引かせるくらいはあるだろうか。
走る。
そして、坂の先には、地面に無残な姿で転がっている死体と狙撃銃を構えた少年の姿があった。
『残り一人、か』
間に合ったとみるべきか、それとも間引きが終わってしまったとみるべきか。
『ふふん。どうするつもり?』
俺は狙撃銃を構えたまま突っ込む。
狙撃銃を持った少年が俺に気付き、振り返る。そして、その脳天がタレットから放たれた光線によって撃ち抜かれる。狙撃銃を持った少年がゆっくりと倒れる。倒れながらも狙撃銃の引き金を引く。そこから放たれた銃弾が設置されていたタレットを撃ち抜き、破壊する。
撃たれた?
死んだ?
『ふふん。死んだみたいね』
『あ、ああ』
怪しいと思っていた狙撃銃を持った少年があっさりと死んだ。
俺が駆けつけなければ――俺の方へと振り返らなければ死ぬことは無かったかもしれない。
……。
『これでタレットは終わりか?』
『あらあら。この先に最後の一個があるみたい』
『そうか』
残るタレットは一個――それは俺が破壊しよう。
俺は地面に横たわる少年の死体を横目に一本道の通路を駆ける。そして、すぐに最後のタレットが見えてくる。
こちらに気付いたタレットが砲身に熱を溜める。思ったよりも射程距離は長いようだ。
『セラフ』
『ふふん。問題無いから』
俺は走りながら手に持った狙撃銃のスコープを覗く。これなら届く。タレットから光線が放たれる。俺はそれを飛び退き、回避しながら、引き金を引く。放たれた銃弾がタレットを撃ち抜く。終わりだ。
『これで全部か』
『ふふん。そう言っているでしょ』
『そうだったな』
狙撃銃を背負い直す。とりあえずこれでしばらく戦闘は無いだろう。
だが――
そう……だが、だ。
銃声は交差していた。だが、ここに設置されているタレットはどうだ? 光線を放つタイプだった。だが、銃声は? 転がっていた死体は?
多分、そういうことなのだろう。
『そうだろう?』
『あらあら。上の映像では普通に光線で撃ち抜かれていたけど?』
『それはおかしいな。転がっていた死体は銃弾で撃ち抜かれたものばかりだったろう?』
『ええ。なかなか面白いものを見せられているようね』
どうやって映像を映し出しているか分からないが、それすら偽り――賭け事もお遊びか。
俺が追いつかなければ、あの少年は適当なところで雲隠れしていたのではないだろうか。だが、俺が来たことで作戦が狂った。そして、ミスをした、と。
だが、ここまでした奴がそんなミスをするだろうか?
俺は少年が死んだ場所まで戻る。
……。
そこには――少年の死体が転がっていた。眉間に大きな穴が開いている。焼け切れているからか血は流れていない。口元に手を置く。息はしていない。胸元に耳を近付ける。心臓の音は聞こえない。
死んでいる。
確かに死んでいる。
俺は少年の見開かれた目に手を置き、そのまぶたを下ろす。
本当にミスったのか。
そういうこともあるか。ただの間抜けにしか思えないが、ミスをしない人間は居ない。不意を突かれればこういうこともあるだろう。戦場では何が起こるか分からない。ゲームメーカーだったとしても死ぬことはある。
『とりあえず連中を呼んでくるか』
『ふふん。そうね』
2022年10月9日修正
そこ人の姿は無い → そこに人の姿は無い




