392 時代の風26――『いや、そこか』
俺は初戦を終え気勢を上げる連中を見る。
何人死んだか分からないが、生き残ったのは二十人。俺とラシードが会った時についてきていた護衛連中や幹部だと思われる連中は全員が生き残っている。
『二十、か』
ぴったりすぎる数字に嫌な予感がする。
『あらあら、何人死んだかも分からないの?』
『興味が無かったからな』
こいつらが賭けの対象になっているとは思いもしなかったし、まさかここまで酷いとは思わなかったので連中がどれだけの人数で戦いに出たかなんて数えていない。ここにはいくつもの死体が転がっている。連中の死体だけではなく、突撃してきた間抜けな警備兵もだ。警備兵の死体を除けてまでわざわざ数える気にはならない。それに重要なのは、今、生き残った数だろう。
「……この先は何も無い一本道のようですね」
「なるほど。しばらくは休めそうだ」
「へ、これだけ殺してやったんだ。連中も慌てているだろうさ」
連中は開いた白壁の前でのんきに作戦会議を開いていた。作戦会議? 違うな、勝利の余韻に浸った雑談だろう。
だが、無視出来ない言葉があった。
『セラフ、例のチップの情報はバックアップされているか?』
『ふふん。私を誰だと思っているのかしら』
俺の右目に地図が映し出される。例の侵入ルートもだ。
この白壁の先を確認する。
……。
確かにただの通路に見える。
だが、何も無い?
『セラフ、こことここを拡大してくれ』
『はいはい』
俺は地図を拡大し、その詳細を確認する。
……何も無い訳が無い。
よく見れば自動砲台が設置されている。見つかっていない状態だったなら安全に通れたのかもしれないが、今の、相手に警戒されている状況で素通りが出来るとは思えない。
いや、上で今も中継されているような――見られている状況だ。どちらにせよ素通りは出来なかったか。
俺は大きく息を吐き出す。面倒だが仕方ない。
俺は作戦会議とも言えない雑談を繰り広げている連中の――その中心に居る参謀気取りの軍師君のところへ。
「ちょっといいか?」
「何の用ですか? 今、忙しいのが分からないんですか」
参謀様は大変忙しいようだ。だが、気付いた以上は言っておくべきだろう。
「本当にこの先に何も無いと思っているのか?」
「何が言いたいんです?」
参謀君がキッとこちらを睨んでくる。一丁前にプライドが高く頭が良いつもりらしい。
「その情報……地図をよく見てみたらどうだ?」
「何を言って……」
参謀君が俺の言葉に反感を持ちながらも端末から地図を呼び出し確認する。そして、あっと小さく呟いた。どうやら気付いてくれたようだ。パッと顔を上げ、引き続き睨むような目で俺を見てくる。
「お前は! 運び屋の分際で情報を盗み見たとは!」
そして、そう言った。
……。
『いや、そこか』
『ふふん。愉快ね』
思わずため息が出そうになる。
『いや、確かに情報は見ているか』
だが、フェーを名乗る少女から見てはいけませんとは言われていない。盗み見たと罵られるのは筋違いだろう。
「こんな警戒態勢の中で何も無い通路があるとは思えなかったからだ。そうだろう?」
上の連中はお遊びだが、警備兵たちは本気のはずだ。出てきた警備兵を全て倒したら警戒態勢が解除されるなんて馬鹿げたことが起きるはずがない。
『それに、まだまだ警備兵は残っている、そうだろう?』
『そりゃあもう』
セラフの人形は上のパーティ会場で俺たちを見ている。そこなら、この先の情報も映し出されているはずだ。
「私たちよりも頭が良いと言いたいんですか」
参謀君はなんだか面倒なことを言いだした。
「いや、経験だ」
「子どもにどれだけの経験が出来るって言うんですか!」
なんだか参謀君は面白いことを言い続けている。どうやら、とても感情的になっているようだ。
「それで? 何かあったんだろう? 参謀様はどうするつもりだ?」
俺は仕方なく話を進めるように促した。
「ちっ。これから大事な話があります。子どもは向こうに行ってください」
感情的になっている参謀君が俺を追い払おうとする。
「いや、彼にも聞いて貰う」
と、それをラシードが止める。
俺はため息を吐き、肩を竦める。仕方ない。どんな作戦が出てくるか聞いておくのも今後のために重要だろう。
「はぁ、大将が言うなら仕方ないですね。聞いてください。安全だと思われたこの通路ですが、こことここに砲台が設置されています」
「んだと! そんなの情報になかっただろ。適当な情報を送りやがって!」
なんだか怒っている奴も居る。その情報からタレットの存在に気付けたんだろと突っ込みたくなるが我慢する。こいつらに突っ込み始めたらキリがない。
「アブジルどうすればいい?」
ラシードが参謀君に聞く。
「何、簡単ですよ。連中は隠していたようですが、砲塔の場所はすでに把握済みですよ。俊敏で素早い者を選抜して壊してしまえばいいんです」
と、それに参謀君はそんな答えを出していた。
まさかの力押し。脳筋な答えにため息が出る。
「何か言いたいんですか?」
参謀君がキッとした感情的な顔で俺を見る。彼は俺のため息に気付いたようだ。
仕方ない。
「そこに頑丈な盾が転がっているだろう? それを使ったらどうだ?」
俺は警備兵の死体を指差す。この連中とは比べものにならないほど良い防具を装備している。タレットからの弾よけには充分だろう。
「死体を使う! 凄腕だかなんだか知りませんが、意地汚いクロウズらしい発想ですね。そんな重たいものを持ったら身動きが出来なくなるって気付きませんか。いい的になるだけですよ」
「アブジルの言う通りだ」
「死体を盾? 子どもの発想だな」
連中は好き勝手なことを言っている。確かに俺の策が必ずしも正しいとは限らない。俺は提案しただけだ。決めるのはこいつらだ。
ラシードが俺を見る。そして目を逸らす。
「今回はアブジルの策で行く。皆もそれで良いか?」
そして、そう告げた。どうやら脳筋戦法に決めたようだ。
俺は肩を竦める。




