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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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390/727

390 時代の風24――『なるほど、それを確認するために叩きながら動いていたのか』

 短機関銃(サブマシンガン)を持った男が白壁に寄りかかり、こんこんと叩きながら進む。その意味は分からないが、なんとなく形だけは熟練の戦士のように見える。


 男が白壁沿いにゆっくりと進む。


 そして、その白壁の一部が、男の前で突然、開いた。


『なるほど、それを確認するために叩きながら動いていたのか』

 ただの間抜けではなかったようだ。

『ふふん。それはどうかしら?』

 俺は改めて白壁と男を見る。


 男は壁が突然、開いたことに驚いていた。


 ……。


 知っていた訳では無さそうだ。上層に上がるためのマップから、ルートから、攻略するための殆どの情報がチップに入っていたはずだ。なのに知らなかったのか?


 俺は参謀君を見る。


 参謀君は間抜けな顔をさらして白壁を見ていた。


『なるほど』

 ただの間抜けだったようだ。


 その開いた壁から警備兵が現れた。こいつが、情報にあった一人だけ残った警備兵だろう。ちょうど道を開けてくれたことだし、こいつを上手く処理すればその後の攻略はかなり楽になるはずだ。


 短機関銃(サブマシンガン)を持った男が慌てた様子で引き金を引く。狙いの定まっていない銃弾は流れ、現れた警備兵を逸れ、白壁を穿つ。


 ……。


『なるほど』

 ただの間抜けどころか大間抜けだったようだ。


「くっ、下町(アンダー)のゴミか!」

 警備兵が叫び、四角い端末を取り出す。そのまま何かの操作をする。


 そして、瞬く間に周囲へと警報音が轟く。


『これは凄いな』

『ええ。私の予想を上回るなんて驚きだから』

 セラフが予想出来ないほどの逸材がここには揃っているようだ。


「や、やらせるかよ!」

 男が手に持った短機関銃(サブマシンガン)を撃ち放つ。適当にばらまかれた銃弾が警備兵を襲う。武器が良かったからか、どう見ても致命傷にはなっていない撃たれ方をした警備兵が呻き声を上げ倒れる。


『倒したようだな』

『ええ、そうね』


 だが、もう遅い。


 警報が鳴り響いている。


 短機関銃(サブマシンガン)を持った男がこちらへと戻って来る。

「悪ぃ、少しミスった」

 そして、悪びれずにそんなことを言っている。


『少し?』

『ふふん。これって少しだったかしら』

 セラフも俺と同意見のようだ。


「あれは仕方ありません。あのタイミングなんて……予想の出来なかったことですから、あなたが行って駄目なら、誰でも同じだったでしょう。今はこの後、どうするかですよ」

 参謀君が面白いことを言っている。この短機関銃(サブマシンガン)を持った男が失敗した理由の一つは、この参謀君が情報の共有をしなかったからだろう。


『共有? ふふん。こいつらに任せたことが大きな失敗でしょ』

『そうだな。敵が一人しか居ないと分かっていて、狙撃ではなく、弾をばらまく銃を選択するくらいだからな』

 俺は狙撃銃を持った少年を見る。少年はなんとも言えない顔で連中を見ていた。もし、この少年が、この戦闘を演出しているマッチメイカーの一人だとしたら、今の状況は、とても面白くないことだろう。だからといって、この少年が出しゃばりすぎれば、それは賭けが無効とされてしまうのではないだろうか。

『そんなところか』

『ふふん』

 セラフは笑っている。多分、何も分からないから誤魔化すために笑っているだけだろう。


 それで、だ。


「皆さん、敵が来ます。そうですねぇ、迎え撃ちましょう。逆に考えるんです。こちらのタイミングで戦闘が出来るんですよ。自分たちに有利な状況で迎え撃てますね」

「おー、さすがはアブジルだな。ピンチをチャンスにってとこか」

「ああ、彼の言う通りだ。ここが踏ん張りどころだ」

 なんだか連中だけで盛り上がっている。参謀君が口に出した言葉の殆どが理解出来ない。何がこちらのタイミングなのだろうか。有利な、という言葉は何を見て、何を考えて出てきた言葉なのだろうか。


「増援だ!」

 そして、開いた壁の通路から何人もの警備兵がやって来る。


『まぁ、警報が鳴り響いているのだから、こうなるよな』

『なるでしょうね』


 警備兵が次々とやってくる最悪な状況だ。だが、参謀君の言葉ではないが、今が有利な状況であることも確かだ。


 警備兵が現れている入り口は一つ――つまり、狙い放題ということだ。間抜けな会話を続けている暇があれば、すぐに突撃して、警備兵が通路から出てくる前に撃ち殺すべきだろう。


 ……。


 だが、何を思ったのか連中は動かない。警備兵が出揃うのを待っているかのようだ。


「武器はこちらの方が上だ。こちらにやって来たところを撃つんだ」


 ……。


 短機関銃(サブマシンガン)の射程は短い。だが、その代わりに止め処なく多くの銃弾を撃ち出すことが出来る。だから、突撃ではなく引きつけることを選んだのだろう。


 そして、撃ち合いが始まる。


 警備兵が中距離から単発の攻撃を繰り返す。その飛び交う銃弾を抜けるように短機関銃(サブマシンガン)を持った連中が突撃する。


 ……って、結局突撃をするのか。


 間抜けすぎる。


「そろそろ、君の出番ではないか?」

 突撃していった連中を見ていたラシードがチラリとこちらを見る。


 確かにそろそろ俺の出番のようだ。


 警備兵を撃ち殺し、警備兵の撃った弾に撃ち殺される。これ以上、こちらに被害が出るのは本当に不味いかもしれない。


 本当にここで全滅もあり得る。


 賭けを終わらせないためにも、ここは少し頑張ってみるべきか。


 俺はフェーと名乗った少女から受け取った筒を取り出す。そして、そこから光刃を生み出す。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヘイヘイ、オーディエンス盛り上がってるー!? [一言] 茶番も過ぎるとシュールの域に達するんだなって。 なんだかもう、この連中にやるデータを律儀に作った奴が気の毒になってきたのですよ。 …
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