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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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389/727

389 時代の風23――『やれやれ、とんだイベントに参加させられたものだ』

『賭け? なるほど』

 どうやら俺もこいつらのために用意された武器の一つだったようだ。

『あらあら。お前が武器? どれだけ自意識過剰なのかしら』

『さあな』

 これは俺にセラフとカスミという仲間が居なければ分からなかったことだ。何も知らなければ俺はただの盤上の駒として見せ物になっていただろう。


 なるほど。


 ……俺を使って賭け事をしようとしたこと、後悔させてやらないと駄目なようだ。


 山のように積み上がっていたゴミと瓦礫が見えなくなる。そして、綺麗な白い壁が見えてくる。サンライスの街の本来の外壁だろう。


「ん? この壁が気になるのかよ」

 俺によく絡んでくる連中の一人が再び絡んでくる。

「こいつあよ、白壁(しらかべ)だ」

 そして見れば分かることを教えてくれる。戦闘領域に入っているはずなのに緊張感が無さ過ぎる。ここが比較的安全だと手に入れた情報を盲信している可能性もある。無能は無能でも、まだその方が緊張感がない理由としてマシだが……。


 俺は連中の顔を見る。


 ……。


 いや、無いな。


 情報の共有も出来ていないくらいだ。単純に馬鹿なんだろう。


「分かんねぇのかよ。ここから連中の支配するエリアだってことだ」

 さらに言わなくても分かることを教えてくれる。


「白壁っていやぁ、ハルカナにもあったんだろ?」

「普段、俺たちが近寄ればすぐに警備の奴らが駆けつけてくるんだが、その様子がねえぇな」

「それだけ、これがチャンスだってことだろ」

「いいから、今のうちに進んじゃおうよ」

 さらに雑談を始めている。


「皆さん、ここで止まってください。今、上では商人たちの会合が行われています。警備の殆どがそちらに回っているようです」

 参謀君が得意気に話し始めた。雑談を注意しようとはしないようだ。


『にしても、本当に情報を共有しない奴らだ。それで……本当なのか?』

『上で商人が集まっているのは本当。ふふん、会合が行われているのも本当ね。だけど……』

『警備が手薄なのは俺たちを誘い込むための罠だから、か』

『ふふん。その通り。上では中継が始まっているわ。今のところ、ここで警備兵に見つかって全滅が50パーセントと一番人気ね』

『なるほど』

 上では最初すら突破が出来ないと思われているようだ。確かに、連中のこんな様子を見ていたら、そんな予想になるだろう。


『ちなみに賭けの内訳は?』

『今は……ふふん、そうね。最後まで到達が1パーセント、サンライスの街に到達が2パーセント、防壁前で全滅が1パーセント、連絡路の途中で全滅が12パーセント、連絡路前で全滅が50パーセントって感じ。誰がどれに賭けたか分からないようになっているから、分かるのはこれくらいね』

『意外と大雑把な賭けなんだな』

『ええ。商談の間の時間潰しみたいなものだから、こんな感じなんでしょ』

 合計しても100パーセントにならないのは商談には参加しても賭けには参加しない奴が居るからなのだろう。思っていたよりもただの見せ物としての意味合いが強いようだ。


 賭けは、オマケか。


『それで、お前は賭けたのか?』

『ええ。お前の働き、楽しみにしているわ』

 俺はセラフの言葉に肩を竦める。


 この白壁の先に連絡路とやらがあるのだろう。そこを抜け、賭けている奴が少ない防壁前とやらまで到達してからわざと負けるというのも面白いかもしれない。だが、セラフの言った内訳の殆どが全滅だ。俺たちを生かして返すつもりはないのだろう。作戦が失敗したからと退却しようとしても、逃がしてはくれないだろう。何処までも追い詰め、殺そうとするはずだ。


『やれやれ、とんだイベントに参加させられたものだ』

『ふふん。頑張りなさい』

 俺が選ばれた理由――それだけ俺がオフィスで悪目立ちをしていたのだろう。実力をつけ、有名になってきた厄介な若手を潰せて、さらにパンドラも手に入る。オフィスとしては万々歳だ。


 これは……俺がサンライスの街に入ったところから全て仕込まれていたか。

『お前の方は大丈夫なのか?』

 俺とカスミ、セラフの人形は一緒にサンライスの街に入った。そして、俺だけが下町に落とされている。セラフたちは上で、今、俺がこの作戦に参加していることを見せられている。

『ふふん。私が疑われるようなヘマをするとでも?』

 もし、これが普通の商団だったらどうだろうか? 仲間が下町の連中と行動をしている? しかもそれが賭けになっている? 気が気ではないだろう。もしかすると、それすら含めて見せ物なのかもしれない。セラフはサンライスの街の10パーセントほどの支配をもぎ取り、上流階級の仲間入りをしたから、賭けに参加が出来たと思っているようだが――そういう裏があってもおかしくない。セラフは意外とポンコツだから、そういう裏があることを読めてない可能性がある。


「巡回している警備兵は……情報では一人だけです。それを沈黙させれば、中まで簡単に進めます」

 参謀君が得意気にブリーフィングを始める。現場に到着してから説明を開始するのだから、面白すぎる。

「おう。それなら俺に任せてくれ」

 短機関銃(サブマシンガン)を持った男が、その警備兵を黙らせる役に立候補をする。俺は狙撃銃を持った少年を見る。少年は静かに首を横に振っていた。


 これは――俺でもここで全滅に賭けたくなる。


 どうやらすぐに俺の出番が来そうだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 忙しくなりそうだ! [一言] そりゃまあガム君でも投入しないと賭けすら成立しないだろうな、この連中じゃ。 しかし商人風情もほぼほぼ全滅に賭けるとは、凄腕のクロウズを舐めていらっしゃるなあ…
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