386 時代の風20――『セラフ、気付いたか?』
俺は少年と歩きながら連中の装備を見る。随分とご立派な装備だ。とてもゴミ山の下町に隠れ住み、体制に反抗しようとしているような奴らの装備とは思えない。こいつらを援助しているスポンサーが居るのは間違いない。そして、きっと、それは……。
『ふふん。間違いないでしょ』
『だろうな』
セラフに調べて貰うまでも無いだろう。
『こいつらが持っている武器は――ヒューペリオン社とやらの代物だったか?』
『ふふん。ヒュペリオン社ね。そっちが持っているアサルトライフルはHyperシリーズの後期モデルよ』
ラシードが持っている突撃銃はヒュペリオン社製で間違いないようだ。
『ヒューではなく、ヒュか。まぁ、それはいいさ。そのヒュペリオン社は今も存在しているのか?』
『ふふん。すでに解体されているわ』
解体ね。
ヒュペリオン社。キノクニヤで俺に絡んできた連中が持っていたのも、このメーカーの突撃銃だった。それだけ有名なメーカーの代物だということなのかもしれないが、それだけでは無いような気がする。俺の考え過ぎという可能性もある。だが、相手はこの世界を裏から支配している人工知能様だ。何らかの関与があってもおかしくない。
「その武器は? 随分と立派なものに見える」
俺はラシードに聞く。
「驚いたか。俺たちを援助してくれてる商会からの……」
「カシム!」
俺の質問に、ラシードでは無く短機関銃を持った男の一人が答えようとし、すぐにラシードによって止められていた。
「へー、商会の、ね」
俺の言葉にラシードは顔に手をやり、大きなため息を吐く。
「はぁ、聞かれたか。そうだ、上も一枚岩では無いってことなんだ」
「なるほどね」
俺は肩を竦める。
しばらくゴミと瓦礫の山を歩き、そして、ラシードたちは瓦礫の山の一つで止まる。
「ここだ」
「へぇ。俺には瓦礫の山しか見えないな」
「はん。そうだろう、そうだろう。俺たちの隠れ家だからな! ちょっとやそっとじゃあ、分からなくなってるのさ!」
さっき口を滑らした男が得意気な顔でそんなことを言っている。
「隠れ家、ね」
随分とゴミと瓦礫の山を歩かされた。直線では無く、ぐにゃぐにゃと歩いていたのは、ここを隠すため――ここの座標を俺に知らせないようにするためだったようだ。だが、無駄な努力だ。俺の右目にはこの周辺の地図が映し出されている。歩いたルートも、だ。いくらナノマシーンの濃度が濃く、通信が出来なくても事前に把握していたものが消える訳ではない。こいつらは無駄な努力をして、俺を無駄に歩かせただけだ。
「僕だ。開けてくれ」
瓦礫の山が動き、通路が現れる。この奥が連中の隠れ家なのだろう。
俺は連中の後を歩き、その通路を進む。
「私はカツエ。あんたは?」
その途中でラシードと同じ突撃銃を持った女が話しかけてきた。俺は何も答えず肩を竦める。
「ちょっと! 私が聞いてるのよ」
そして、無駄に騒ぎ出す。
「僕も凄腕のクロウズを寄こすとしか聞いていない。名前を聞いてもいいかな?」
騒ぎ出した女に苦笑しながらラシードも聞いてくる。
「それは、今、重要なことか? 何処か落ち着ける場所に案内してくれている途中なんだろう?」
「んだと、餓鬼! 何様のつもりだ! 大将、こんな何も持ってない餓鬼が凄腕のはずがない。こんな礼儀も知らねぇ餓鬼に気を使う必要はありませんぜ」
俺の言葉に分かり易いくらい反応している奴も居る。今にも肩から提げた短機関銃に手を伸ばしそうだ。
「待て、カシム。彼は、みんなの前で自己紹介をしてくれる。そういうことだね?」
俺はラシードの言葉に肩を竦めて返事をする。それを見たラシードは大きなため息を吐いていた。
『あらあら。どうしたのかしら。随分とご機嫌斜めじゃない』
『ここ最近、良いように流され続けてストレスが溜まっているのさ』
『ふふん。雑魚相手にストレス発散なんて、小物みたい』
そして、作戦司令室のような部屋に案内される。そこには10人ほどの武装した連中の姿があった。そいつらは机の上にある地図を見ながら何やら議論を交わしている。作戦会議のつもりなのだろう。
「みんな、戻った」
「リーダー、お帰りなさい」
「すいません、気付きませんでした」
「お帰りなさい」
「大将、待ってました。それで例のものは?」
集まっていた連中がラシードに気付き、挨拶を交わしている。
『セラフ、気付いたか?』
『ふふん。私が気付かないと駄目なようなことがあったかしら』
『こいつらのお馬鹿さ具合だ』
『あらあら。穏やかじゃないわね』
ラシードは、この隠れ家の入り口で自分たちが戻ってきたことを伝えていた。まぁ、そうしないと入り口が開かなかったのだろうから、それはいい。だが、その情報が、ここに伝わっていない。自分たちのリーダーが戻ってきたのに、迎える態勢になっていない? 気付かなかった? 上下の関係もしっかりしていなければ、情報の伝達も出来ていない。俺は思わずため息が出そうになる。だが、それをグッと耐える。今は、まだ、これ以上、こいつらとの関係を悪化させる必要は無い。
「ああ。手に入った」
「それは重畳。ん? 大将、見慣れない顔がありますね」
「彼が僕たちに助力してくれる凄腕のクロウズだ」
ラシードの言葉に俺へと視線が集まる。
「こんな子どもが、ですか?」
「彼は見た目通りではないようだ。その意味、分かるだろ?」
「ああ、機械化ですか」
連中の一人が俺の壊れた左腕を見ている。
「あまりジロジロと見られて気分が良いものではないな」
「すまない。彼の名前はアブジル。僕たちの参謀のようなものさ。それでこっちの――」
俺の言葉を勘違いしたのか、ラシードは連中の自己紹介を始めようとする。
「紹介は不要だ。それで? いつの間にか俺が協力する話になっているようだが?」
「え?」
俺の言葉を聞いたラシードたちが驚いた顔をしている。
『おいおい、大丈夫か?』
『ふふん。大丈夫じゃないから、驚いているんでしょ』
ここまで踊らされ、流されてきたが、その幸先は悪そうだ。




