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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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385/727

385 時代の風19――『セラフ、こいつは……』

 俺は現れた連中を改めて見る。


 短機関銃(サブマシンガン)を持った男が五人、ラシードに寄り添っている突撃銃(アサルトライフル)を持った女が一人、そして、狙撃銃ボルトアクションライフルを持った少年が一人、か。


 こいつらが現れた場所、方角から、俺が気配を察知出来なかったのは、この少年である可能性が高い。


 狙撃銃?


 俺が気配を察知出来る範囲の外に居たのか? いや、それならばこいつらが一緒に――連中と一緒に駆け寄れたのはおかしいだろう。合流してから近寄ってきたなら、俺が気付くはずだ。近寄られるまで――目の前に現れるまで気配を察知出来なかったのだから、俺の察知出来る範囲の外に居た訳ではないだろう。


 俺が察知出来ないほど上手く気配を消していた? その可能性はある。いや、そうとしか考えられない、か。俺は自分の力をそれなりのものだと思っている。だが、自分より上が居ないと思うほど自惚れてはいない。上には上が居る。当然のことだ。


 だが、こんな少年がそれを可能とするだろうか。掛けた年数は裏切らない。確かにそれを覆すほどの才――天才は居る。だとしても、だ。俺が察知出来ないほど上手く気配を消す? 数年で到達出来るレベルだとは思えない。


 こんな少年の……、


 ……。


 いや、外見で判断しては駄目だな。この世界、この時代、割と何でもありだ。がわ(・・)だけ若返らせている可能性はある。見た目に騙されてはならない。


 この少年は要注意対象として見ておこう。


「悪かったよ」

 ラシードが謝罪の言葉を口にする。自分の方から攻撃を仕掛けたという負い目があるのだろう。

「ああ。次から見た目で侮るな。あんたのとこのお仲間にも居るだろ?」

 俺は狙撃銃を持った少年を見る。


 その姿を見た短機関銃を持った男の一人が腹を抱えて笑い出す。


「おいおい、何を勘違いしているんだ。あんたが、そのなりで凄腕なのは確かだろうさ。でも、こいつは数合わせのただの餓鬼だぜ」

「そうそう、こいつは、ただ大将が心配でついてきただけだ。あんたと同じと思っちゃあ駄目だぜ」

 男たちは少年を馬鹿にするように笑っている。

「こいつが居たから! きっと、ラシードも同じだと思って!」

 突撃銃を持った女が騒いでいる。同じだと思って何だというのだろうか。同じレベルだと思って舐めてかかったと言いたいのだろうか。


 この女は色々と勘違いしている。


 同じだと思ったから舐めて良いということにはならない。それが言い訳になると思っているのだから、とても幸せな脳みその作りをしているのだろう。そして、もう一つの勘違いは、この少年の実力を大したものではないと思っていることだ。


 この少年は、そう思わせたいのだろう。こいつらを油断させておきたいのだろう。何故、そんなことをする必要があるのか? 考えられるのは、この連中のグループに疑われることなく潜入したいからとかだろうか?


 ……。


 となると、俺が気付いたと教えたのは不味かったか。脳内がお花畑なこいつらは少年の実力が低いと信じ切って、俺が言ったことを冗談か何かだと疑わなかったようだが、この少年には、俺が見抜いたことが分かったはずだ。


 ……。


 俺に気付かせた――それすらわざとか。


「とりあえず彼をアジトに案内したい」

 ラシードが集まった連中を見回し、そんなことを言いだした。


 アジト?


「大将、それは!」

「まだ信用出来るって決まった訳じゃ……」

 男たちが騒ぎ出す。ラシードがそれを手で鎮める。

「これを持ってきてくれた。それだけで信じる価値がある」

 ラシードが俺から受け取ったカード型のチップを連中に見せている。


『信じる、ね』

『あらあら、何か言いたそうね』

『俺はまだ手伝うとは言っていない。なのに、そんな奴を自分たちの拠点に案内すると言いだしているのだから、愉快だな、と。しかも、こちらの都合も聞かず、それがとても良いことのような言い草だ』


 こいつらは体制に反抗する自分たちに酔っているだけだ。なるほど、ノルンの端末(むすめ)が用意した舞台で踊るにはちょうど良い連中(こま)なのかもしれない。


「こっちだ」

 ラシードが手を振っている。俺を案内してくれるようだ。


 俺は肩を竦め、ゴミと瓦礫の山を踏みしめ、連中の後をついていく。


 歩きながら、狙撃銃を担いだ少年の隣につく。

「お前はどっち側だ?」

 そして聞く。


「質問の意味が分からないよ」

 少年が答える。


「本当に分からないのか?」

 俺の言葉を聞いた少年が大きなため息を吐く。

「邪魔はしないで欲しいよ」

 少年のその言葉を聞き、俺は肩を竦める。

「何が邪魔になるか分からないからな」

「彼らを彼らのまま動かしてくれたらいいよ」

 少年は俺にだけ聞こえるように小さな声で喋っている。

「もちろん、そのつもりさ」

 俺はそう答える。


 さて、

『セラフ、こいつは……』

 少年の姿をしているが、見た目通りで無いことは確定だろう。

『ふふん。お前も気付いているように人造人間では無いようね』

 だが、人造人間では無い。つまり、ノルンの端末(むすめ)側では無い。と言って、マザーノルンに敵対しているとも言いきれない。


 特等席で、この茶番劇を見ようとしているようだが、何者だ?

2022年10月9日修正

この茶番劇を見ようとしているだが、 → この茶番劇を見ようとしているようだが

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― 新着の感想 ―
[良い点] 役者が揃ってきた! [一言] シリアスと思い込んで演じてるのが喜劇なんて(頭が)お気の毒な連中ですねー。 台本ももらえないし、とりあえずはアドリブを決めていくしかないのだった。 これで素…
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