385 時代の風19――『セラフ、こいつは……』
俺は現れた連中を改めて見る。
短機関銃を持った男が五人、ラシードに寄り添っている突撃銃を持った女が一人、そして、狙撃銃を持った少年が一人、か。
こいつらが現れた場所、方角から、俺が気配を察知出来なかったのは、この少年である可能性が高い。
狙撃銃?
俺が気配を察知出来る範囲の外に居たのか? いや、それならばこいつらが一緒に――連中と一緒に駆け寄れたのはおかしいだろう。合流してから近寄ってきたなら、俺が気付くはずだ。近寄られるまで――目の前に現れるまで気配を察知出来なかったのだから、俺の察知出来る範囲の外に居た訳ではないだろう。
俺が察知出来ないほど上手く気配を消していた? その可能性はある。いや、そうとしか考えられない、か。俺は自分の力をそれなりのものだと思っている。だが、自分より上が居ないと思うほど自惚れてはいない。上には上が居る。当然のことだ。
だが、こんな少年がそれを可能とするだろうか。掛けた年数は裏切らない。確かにそれを覆すほどの才――天才は居る。だとしても、だ。俺が察知出来ないほど上手く気配を消す? 数年で到達出来るレベルだとは思えない。
こんな少年の……、
……。
いや、外見で判断しては駄目だな。この世界、この時代、割と何でもありだ。がわだけ若返らせている可能性はある。見た目に騙されてはならない。
この少年は要注意対象として見ておこう。
「悪かったよ」
ラシードが謝罪の言葉を口にする。自分の方から攻撃を仕掛けたという負い目があるのだろう。
「ああ。次から見た目で侮るな。あんたのとこのお仲間にも居るだろ?」
俺は狙撃銃を持った少年を見る。
その姿を見た短機関銃を持った男の一人が腹を抱えて笑い出す。
「おいおい、何を勘違いしているんだ。あんたが、そのなりで凄腕なのは確かだろうさ。でも、こいつは数合わせのただの餓鬼だぜ」
「そうそう、こいつは、ただ大将が心配でついてきただけだ。あんたと同じと思っちゃあ駄目だぜ」
男たちは少年を馬鹿にするように笑っている。
「こいつが居たから! きっと、ラシードも同じだと思って!」
突撃銃を持った女が騒いでいる。同じだと思って何だというのだろうか。同じレベルだと思って舐めてかかったと言いたいのだろうか。
この女は色々と勘違いしている。
同じだと思ったから舐めて良いということにはならない。それが言い訳になると思っているのだから、とても幸せな脳みその作りをしているのだろう。そして、もう一つの勘違いは、この少年の実力を大したものではないと思っていることだ。
この少年は、そう思わせたいのだろう。こいつらを油断させておきたいのだろう。何故、そんなことをする必要があるのか? 考えられるのは、この連中のグループに疑われることなく潜入したいからとかだろうか?
……。
となると、俺が気付いたと教えたのは不味かったか。脳内がお花畑なこいつらは少年の実力が低いと信じ切って、俺が言ったことを冗談か何かだと疑わなかったようだが、この少年には、俺が見抜いたことが分かったはずだ。
……。
俺に気付かせた――それすらわざとか。
「とりあえず彼をアジトに案内したい」
ラシードが集まった連中を見回し、そんなことを言いだした。
アジト?
「大将、それは!」
「まだ信用出来るって決まった訳じゃ……」
男たちが騒ぎ出す。ラシードがそれを手で鎮める。
「これを持ってきてくれた。それだけで信じる価値がある」
ラシードが俺から受け取ったカード型のチップを連中に見せている。
『信じる、ね』
『あらあら、何か言いたそうね』
『俺はまだ手伝うとは言っていない。なのに、そんな奴を自分たちの拠点に案内すると言いだしているのだから、愉快だな、と。しかも、こちらの都合も聞かず、それがとても良いことのような言い草だ』
こいつらは体制に反抗する自分たちに酔っているだけだ。なるほど、ノルンの端末が用意した舞台で踊るにはちょうど良い連中なのかもしれない。
「こっちだ」
ラシードが手を振っている。俺を案内してくれるようだ。
俺は肩を竦め、ゴミと瓦礫の山を踏みしめ、連中の後をついていく。
歩きながら、狙撃銃を担いだ少年の隣につく。
「お前はどっち側だ?」
そして聞く。
「質問の意味が分からないよ」
少年が答える。
「本当に分からないのか?」
俺の言葉を聞いた少年が大きなため息を吐く。
「邪魔はしないで欲しいよ」
少年のその言葉を聞き、俺は肩を竦める。
「何が邪魔になるか分からないからな」
「彼らを彼らのまま動かしてくれたらいいよ」
少年は俺にだけ聞こえるように小さな声で喋っている。
「もちろん、そのつもりさ」
俺はそう答える。
さて、
『セラフ、こいつは……』
少年の姿をしているが、見た目通りで無いことは確定だろう。
『ふふん。お前も気付いているように人造人間では無いようね』
だが、人造人間では無い。つまり、ノルンの端末側では無い。と言って、マザーノルンに敵対しているとも言いきれない。
特等席で、この茶番劇を見ようとしているようだが、何者だ?
2022年10月9日修正
この茶番劇を見ようとしているだが、 → この茶番劇を見ようとしているようだが




