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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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378/727

378 時代の風12――「何処に向かっているんだ?」

「何を言い出すんでしょうね。廃棄されたら終わりですよ」

 狐顔の男は何処か呆れた顔で俺を見ている。

「そうか。それは楽しみだ」

 俺は腕を組み、ヘルメット男が戻ってくるのを待つことにする。

「まったく知りませんよ」

 狐顔の男は扇子をパチンパチンと開け閉めしながらため息を吐いている。

「まぁ、俺は何とかなるさ。あんたには二人を頼みたい。任せても良いだろうか?」

「はぁ、分かりました」

 狐顔の男が不承不承という感じで頷く。この狐顔の男が何処まで信用が出来るか分からない。ユメジロウと関わっているというだけで疑っても良いくらいだ。そんな男に任せる? 普通に考えればあり得ない。だが、セラフとカスミ、この二人なら大丈夫だろう。何があったとしてもなんとかしてくれるはずだ。


『ふふん』

 セラフは得意気に笑っている。

『セラフ、クルマは?』

 ドラゴンベインにグラスホッパー号、そしてパニッシャー。三台のクルマを置いたままだ。(ロック)をかけているので奪われることは無いと思うが、だからといって安心は出来ない。マザーノルンはパンドラを集めている。俺は三台もパンドラを搭載したクルマを持っている。今回のこと、それが狙いという可能性もある。

『ふふん、任せなさい』

『ああ、任せた』


 しばらくしてヘルメット男が戻ってくる。

「おや? トーマス様。それはどういうことですか」

 ヘルメット男はセラフの人形とカスミを連れた狐顔(トーマス)を苦々しい顔で見ている。

「このお二人は市民IDをお持ちでしたよ」

「それは……」

「せっかくなのでサンライスを案内でもしようかと思いまして」

「サンライスの大商会、その商会主が自ら行うこととは思えませんなぁ」

 ヘルメット男は赤く光る警棒を威嚇するようにポンポンと叩いている。

「いえいえ、街に入ろうとして、いきなり連行されて、彼女たちは、このサンライスに凄く大きな不信感を持ったと思うのですよ。サンライスを知ってもらい、それを払拭するためなら、私なんて! これくらいは簡単なことです」

 トーマスは開いた扇子で口を隠し、細い目だけで微笑む。

「それが許されると?」

「許されますよ」

「その言葉! フェー様が知ればどう思われるでしょうな!」

 ヘルメット男の鼻息が荒い。先ほどまで変な人形を貰って喜んでいた男とは思えない。

「ご心配なく。うちどもの商会は、フェー様とも懇意にさせてもらってますから」

「しかしですな! その女たちは、一緒に行動して……」

 ヘルメット男が何かを言いかける。

「ここら辺が落としどころでしょ。そうでしょう?」

 それをトーマスがわざとらしくパチンと扇を鳴らし、止める。


「ぐっ、トーマス様、フェー様には私がちゃんと仕事をしていたと伝えてくださいよ」

「ええ。お目にかかった時には、ちゃんと、あなた様の仕事熱心なこと、伝えておきます」

 トーマスがニコリと微笑む。胡散臭い笑顔だ。


 フェー。


 どうやら、フェーという奴が今回の黒幕のようだ。

『セラフ、何者だと思う?』

 まず間違いなく――

『ええ。このサンライスの端末でしょうね』


 ノルンの端末(むすめ)。この世界を支配しているマザーノルンが、各街に置いている九つの端末の一つ。


『何故、ノルンの端末(むすめ)が俺を狙う。何処で目をつけられた? ノルンの端末(むすめ)に目をつけられるようなヘマはしていないはずだ。そうだろう?』

『ふふん。そうね。お前の情報は、こちらに都合が良いように修正しているから』

 セラフは領域を支配している。支配地域の情報操作なんて簡単だろう。隠すことは出来なくても騙すことは――偽ることは簡単だ。


 セラフが支配した端末も表向きは今まで通り活動している。疑われるとは思えない。


 疑われているとは思えない。


 フェーという奴は、今、この瞬間も俺を見ているはずだ。俺を観察しているはずだ。


 分からない。


 俺が反抗して、暴れるのを待っているのか?


『分からないな』

 俺は今、クロウズとしてもそこそこ有名になっているはずだ。その有名人を、街に入ったところで拘束し、廃棄する?


 ……。


 だが、こいつの目的は俺だけのようだ。それだけは分かった。


『セラフ、お前の存在がバレた訳では無さそうだ』

『ふふん。当然でしょ』

 と言っても、セラフの本体は俺の右目だ。その右目ごと処理するつもりなのかもしれない。


 ……いや、だとしたら、廃棄なんていう不確かな方法で処理をしようとするだろうか。しないだろう。セラフのことが、ここの端末にバレていないのは間違いない。


『セラフ、お前の人形がサンライスの街で、上手く、そいつから支配権を奪ってくれると助かるんだが』

『あらあら、何を言い出すかと思えば。確かにそれが出来れば一番良いでしょうね。でも、さすがにそれは難しいから』

『おや? 自信が無い?』

『ふふん、人形では無理ね。逆に人形を奪われ、こちらまで侵入されるかもしれないわ』


 どうやら、俺が直接、そいつと会わないと駄目なようだ。


 ……。


「こっちだ。何をぼうっとしている」

 俺はトーマスたちと別れ、ヘルメット男に言われるがままに通路を進む。

「何処に向かっているんだ?」

「いいから黙って来るんだ」

「俺はそこそこ有名なクロウズだと思うんだが、それでいいのか?」

「う、うるさい。俺は見ていない、確認していない。お前のことなんて知らない。いいから来い」

 ヘルメット男は何処まで強い態度に出て良いか迷っている感じだ。俺が突然暴れ出さないか不安なのだろう。


 俺は肩を竦める。


 そしてヘルメット男が通路の奥にある両開きの扉の前で立ち止まる。

「入れ」

 偉そうなヘルメット男に言われるがまま、自動的に開いた扉を抜け、中に入る。そこは何も無い、狭い部屋だ。あるのは――俺は壁を見る。そこには二つのボタンがあった。上と下を示すボタン。


「ここは?」

「上へのエレベーターだ」

 ヘルメット男が部屋に入ると扉が閉まった。

「へぇ。サンライスの街へ連れて行ってくれるのか」

「こっちは裏口だ。つべこべ言わず大人しくしていろ」

 俺は肩を竦める。


 ヘルメット男が壁にあるボタンを押すと、一瞬、グッと体に負荷がかかった。どうやら、かなりの勢いで上昇しているらしい。


 そしてエレベーターの扉が開く。

次回の更新は2022年8月9日(火)の予定になります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 到着だ! [一言] どういう街か見れるかな? 殺人は禁忌っぽいけども。 サンライスはフェーかあ。ビッグマウンテンもカリウムだったし、やっぱ元素系しばりなのね。 そういや名前を聞く暇なかっ…
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