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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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376/727

376 時代の風10――「何処まで連れて行くつもりだ」

『あらあら。突然、何を言い出すのかしら』

 セラフまで同じようなことを言っている。確かに、突然、電波を受信したようなことを言いだしたら、俺だって同じことを言うだろうし、思うだろう。


 だが、俺には確信があった。


『この状況を作り出した奴が居る。そうだろう?』

『あらあら』

 セラフは気付いていないようだ。これは別に俺の被害妄想でも、思い込みでも、狂気でも無い。


 ……。


 セラフが気付いていない? いや、結びつけることが出来ていないだけだろう。そういうところは人工知能らしい。


『ふふん、何が言いたいのかしら?』

 俺は改めてヘルメット男を見る。ヘルメット男の表情は変わらない。可哀想なものでも見るような目で俺を見ている。

『この男が嘘を言っているのはお前も気付いているんだろう?』

『ふふん』

 セラフは笑っている。セラフもそこには気付いている。


 この男は俺が誰だかを知っている(・・・・・)


 俺がクロウズのガムだということを知っている。俺は、このサンライスの街に近い重要拠点である天部鉄魔橋(あまべてつまきょう)を占拠していた最高額賞金首のコックローチを倒している。サンライスの街、その入り口を守る守衛が――一番、外との接触が多い者が、それを知らない? そんなはずがないだろう。

『あらあら、有名人になったつもりなの?』

『俺は有名だろう?』

『ふふん。そうね、全裸のガムさん』

 セラフは笑っている。七つのオフィスを支配したセラフなら俺の名前が何処まで売れているか把握しているはずだ。自意識過剰なようだが、俺が有名になっているのは間違いない。


 このヘルメットの男が俺を知らない可能性はゼロではない。可能性としてはある。


 だが――


 俺は奥で控えている他のヘルメット集団を見る。全員が俺を知らない? そんなことがあるだろうか? 最高額賞金首を倒したクロウズと揉めていると分かったら、仲裁するか、何か言いに来るくらいはするのではないだろうか。


 ……。


 分からないのは、何故(・・)、こんなことをするのかということだ。


 何故、俺を知らない振りをして、俺を怒らせるように絡んでくる? 賄賂を求めているのかと思ったが、それにしては、このヘルメット男は怯えすぎている気がする。無理矢理、言わされているような、従わされているような……。


『セラフ、お前ならこの男の嘘、怯え、見えているんだろう?』

『ふふん。ええ、この男の体温、発汗――確かに怯えているようね』


 ヘルメット男は可哀想な(・・・・)ものでも(・・・・)見るような目で(・・・・・・・)俺を(・・)見ている(・・・・)


 ……。


「それで、俺をどこに連れて行くつもりだ?」

「ふぅ。クルマから降りてこちらに来い。取り調べだ」

 ヘルメット男が何処かホッとした様子で偉そうな態度に戻りながら、そんなことを言った。


 さて、どうする?


 このまま付き合うか。


 従うべきなのか、それとも一度撤退するべきなのか。


 ……。


「分かった」

 俺は肩を竦める。虎穴に入らずんば虎児を得ず、だ。ここは何者かの思惑に乗っておくべきだろう。


 俺がドラゴンベインのハッチに手をかけ、そこから飛び降りる。


「こっちだ」

 ヘルメット男が赤く光る警棒を振り回す。

「クルマはここに置いといて大丈夫なのか?」

「邪魔にならなければ構わん。早くしろ」

 俺は偉そうな態度のヘルメット男の言葉に肩を竦める。


 俺とカスミ、セラフの人形の三人でヘルメット男に促されるまま格納庫(ハンガー)のような部屋を奥へと進む。

「何処まで連れて行くつもりだ」

「黙って着いてこい」

 ヘルメット男は偉そうだ。


 格納庫(ハンガー)から通路へと出る。さらに奥へと進む。

「この奥にはサンライスの街があるのか?」

「サンライスはエレベーターの上だ……無駄な口を聞いていないで早く来い」

 俺は偉そうなヘルメット男の言葉に肩を竦める。


「おやおや、どうされました?」

 と、そこに通路の奥から一人の男が現れた。


 サンライスの街からか?


 現れたのは見えているのか分からないほど細目の狐顔の男だ。上品な和服に身を包み、手には扇子を持っている。


「これはこれはトーマス様。こんな場所に何の御用ですか?」

 ヘルメット男が現れた狐顔の男を苦々しい顔で見る。

「外から客人が来ると聞いて、そのお出迎えですよ」

 狐顔の男が俺を見る。そして、胡散臭い顔で微笑み、袖の下から何かをチラリとこちらに見せる。


 それは子と書かれた割り符だった。


 割り符だと?


 狐顔の男がヘルメット男の方へと向き直る。

「何やら、揉め事のようですが、どうされました?」

「いや、そうですなぁ。少し怪しい者たちが現れたので取り調べをするところでして……」

「それはそれはお仕事ご苦労様です」

 狐顔の男は胡散臭い顔のまま微笑んでいる。


 これは偶然か。いや、ユメジロウから渡された割り符のもう片方を持っているのだから偶然では無いだろう。


 では、この狐顔の男が今回のことを仕組んだのか?


 俺は胡散臭い顔で微笑んでいる狐顔の男を見る。


 ……分からないな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんとも不可解! [一言] どこまで虚言でどこから偶然なのか……ひっくるめて茶番なのかな? 意図が読めない以上、しばらくは乗るしかないか。 まったく、思わせぶりにする奴ばっかりで困るぜー。…
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