374 時代の風08――『それで正解は?』
しばらく進むと舗装された綺麗な道が現れた。舗装された道は半透明な球体の下まで続いている。
『この道は……無事なんだな』
最前線からの流れ弾が飛んでくるとセラフは言っていた。先ほど、俺も実際にそれを目にした。そのはずだが、道だけは随分と綺麗だ。
『ふふん』
セラフは何も答えず笑っている。
『……もしかして、壊れるたびに直しているのか』
『ふふん。そんな訳、無いでしょ』
『そんな訳はないのか』
綺麗な道の上をドラゴンベインで走る。振動を感じないほど平らに舗装されている。この歪みのなさ――その都度、直しているとは思えない。
『まさか、この道もシールドで守っているのか?』
パンドラを使ってシールドを張り、この道路も守っているのだろうか。いや、違う。シールドはあくまで半透明な球体――サンライスの街を覆っている部分だけだ。
となると……まさか、道の上には攻撃が来ないようになっているのか。普通に考えればあり得ないことだが、その可能性はある。飛んでくるのは最前線からの流れ弾だ。つまり、その攻撃の殆どがマザーノルンの支配する機械によるものだ。マザーノルンが、自分の端末が管理する街にとって不利益になるようなことをするだろうか。
だとしても、道まで守るのはやり過ぎではないだろうか。
……。
『それで正解は?』
『ふふん。群体を見ないようにしているから気付かなかったみたいね。正解は――』
ナノマシーン? 俺は、今、サンライスの端末に察知されないように、あえてナノマシーンを見ないようにしている。だから、気付かなかった? セラフはそう言っているのか?
……つまり、そういうことか。
『それで、正解は?』
『ふふん。この道は元に戻るようになっているってこと』
目に見えないほどの小さな機械――ナノマシーンで造られた道路ということか。バラバラになったとしても、元に戻る命令によって直るということか。
『つまり、正解は直しているのではなく、直る、ということか』
『ふふん。そういうこと』
そうだとすると随分と高性能な道路だ。
『なんでもナノマシーンか。通信から何からナノマシーン。壊れても直るなら、全てのものをナノマシーンで造れば良かったのでは?』
だが、この世界、そうはなっていない。なっていないだけの理由があるのだろう。コスト問題とか、燃料問題――そんなところか。
『ふふん。そうね……ええ、そうね』
セラフは楽しそうに笑っている。
俺は肩を竦める。
偶に飛んでくる砲撃を横目に舗装された道を進む。そして、半透明な球体の真下へと辿りつく。
『ん?』
そこには壁があった。垂直の壁だ。サンライスの街が半透明の球体の中にあるのだから、その下が壁になっているのは分かる。
だが、どうやって街に入る?
道は壁で止まっている。
『ふふん。もう少し近づけば分かるでしょ』
セラフに言われるままドラゴンベインを動かし、垂直に反り立つ壁へと近寄る。すると、その壁が自動ドアのように開いた。
俺はドラゴンベインをその先へと進ませる。
中は大きな吹き抜けの部屋になっていた。何処か格納庫を思わせる部屋だ。天井が見えない。そして、そこには俺たち以外のクルマと、そのクルマの持ち主とやり取りをしているヘルメットをかぶった集団の姿があった。
「あー、君君、そこで待ちなさい。それ以上進むなら攻撃するよ」
ヘルメット集団の中から一人の男が赤く光る警棒のようなものを振り回しながらこちらへとやってくる。
「攻撃?」
俺の言葉にヘルメット男が頷き、赤く光る警棒を天井の方へと向ける。そこにはこちらを狙う大型の機銃があった。
「そう、攻撃。順番だから大人しく待ちなさい」
ヘルメットの男はそんなことを言っている。
『セラフ、どう思う?』
『ふふん。機銃の口径から考えると……もって数分でしょうね。その間に殲滅するのは、お前でも少し難しいでしょ』
俺は肩を竦める。俺が聞きたいのはそういうことではない。だが、まぁ、大人しく従った方が良いことは分かった。
『はいはい。大人しく順番待ちをした方が良さそうだな』
目の前のクルマとヘルメットの男のやり取りが終わったのか、クルマが前に進み、そのやり取りをしていたヘルメット男がこちらへと歩いてくる。
「次、こっちだ」
ヘルメット男の誘導に従ってドラゴンベインを前に進める。
「はい、そこで止まって。はいはい、それじゃあ、市民IDを出して」
ヘルメット男が随分と偉そうな態度で、こちらに命令をする。
……市民ID?
持ってないな。
「クロウズのタグでは代わりにならないか」
俺は聞いてみる。
「クロウズ? あんたらはクロウズか。いいぞ、見せてみろ」
偉そうなヘルメット男がカスミのグラスホッパー号の方へと歩いて行く。どうやら、カスミに確認しようとしているようだ。グラスホッパー号はオープンカータイプだから、その座席に座っているカスミが目立つのは仕方ない。
「いや、待て。こっちだ、こっち。タグはこっちだ」
俺はドラゴンベインのハッチを開け、そこから顔を出す。クロウズのタグを持っているのは俺だ。カスミに確認を取られても困る。
「ん? なんだこの餓鬼。餓鬼にクルマ? 餓鬼に与える玩具にしては贅沢すぎだろ」
偉そうなヘルメット男はそんな訳の分からないことを言いながら、再び、カスミの方へと歩いて行く。
『こいつは何を言っているんだ?』
『さあ?』
俺はため息を吐き、タグを持った手を振る。
「こっちだ、こっち。タグを確認しなくていいのか」
「餓鬼が何を言っているんだ。タグ? ああ、お前が預かっているのか。分かった分かった、お前から確認してやるよ」
偉そうなヘルメット男がため息を吐きながら、こちらへと戻って来る。
『そもそもこれは――このやり取りはなんなんだ?』
なんとなく予想は出来るが、さも当たり前のように行動されても困る。
『ふふん。検問でしょ』
『ああ、そうだろう。街に入るための検問なんだろう』
それは分かった。
だが、なんで、こんな頭の悪そうな男が検問所に居るのだろうか。サンライスの街はそれだけ人手不足だということか?




