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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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371/727

371 時代の風05――『あまり後味はよろしくない』

 ハルカナを出てビッグマウンテンを左手に北上する。そしてある程度北上したところで西に進む。このまま進めば天部鉄魔橋(あまべてつまきょう)が見えてくるはずだ。その先にサンライスの街がある。


 そこが、今回の目的地だな。


 ……。


『ふふん、気付いている?』

『ああ、気付いている』

 最初にカスミのグラスホッパー号が止まる。次にセラフの人形が乗り込んでいるパニッシャーが動きを止める。

 それに合わせるように俺はドラゴンベインを停車させる。


『囲まれているな』

 俺はハルカナの街で補給した、カロリーバランスを考えたチョコの塊に見えるスティックを囓る。もさもさしてあまり美味しくはない。

『ふふん。いつもの連中みたいね』

 そう、いつもの(・・・・)連中だ。


 俺たちを取り囲んだ連中から、うーうーと威嚇するような低い唸り声が漏れている。


 犬だ。


 機関銃を背負った子犬たちがこちらを取り囲んでいる。どうやら待ち伏せされていたようだ。


『また犬か。確か、あのキノクニヤで出会った男が犬を操っていたとか言っていたな。確かそうだったはずだろう?』

『あら? もうこのお馬鹿さんは忘れたのかしら』

『最近、物忘れが激しくてね。俺のナノマシーンが劣化しているのかもしれないな』


 こちらを取り囲み、唸り声を上げている子犬たちの中に一人の老人の姿があった。双眼鏡のようなゴーグルをつけた老人だ。


「こちらを取り囲んでいるようだが、なんのつもりだ?」

 俺はドラゴンベインの中からマイクを使って、その老人に話しかける。


 老人がニタリと笑い、こちらを見る。

「我が輩はブリーダーの一人。お前に殺された家族の復讐に来たぞ。言い訳は許さぬぞ。降伏も許さぬぞ。(なぶ)り、いたぶり、痛めつけ、分からせるぞ。懲らしめるぞ。後悔させてやるぞ」

 そして、そんなことを言い始めた。


 ブリーダーの一人(・・)


 家族の復讐?


「じいさん、俺に分かる言葉で喋ってくれ」

 このじいさんは犬を殺された恨みを晴らすと言っているのだろう。それは分かった。分からないのは、何故、今になって姿を現したか、ということだ。


『ふふん。どうやら、こいつも賞金首みたいね。名前はブリーダー(ワン)、賞金額は八千コイル』

『随分としょっぱい相手だ。これ、無理に倒す必要があるだろうか?』

『あらあら、随分とお優しい。でも、こういう輩ってしつこいと思うけどぉ?』

 セラフの言葉に俺は肩を竦める。確かにしつこそうだ。あの筋肉だるまの件がなくても、ストーカーのように追いかけ回されそうな予感がする。

『セラフのパニッシャーで頼めるか?』

『はいはい』

 セラフの人形が操るパニッシャーの砲塔が動く。


 こちらを見て笑っている老人を捕らえる。


「ひゃひゃひゃひゃ、そんな砲撃が、効く……」

 次の瞬間、老人はパニッシャーの一撃で粉みじんになっていた。


 ……。


『何をやろうとしていたんだ? 随分と自信がありそうだったから、主砲から身を守る術でも持っているのかと思ったら、何もしなかったな』

 一瞬だ。一瞬でこの賞金首の老人は死んだ。

『どうやら簡易シールドを持っていたようね。ふふん、そんなもの持っていても、必ず当たるタイミングで攻撃すれば良いだけ。ホント、雑魚よねぇ』

 セラフは楽しそうに笑っている。


 この賞金首は自分が囮になって攻撃を集中させ、それをシールドで防ぎ、その間に仲間の犬の攻撃で……という作戦だったのだろう。


 だが、必ず当たるタイミングで攻撃が出来るパニッシャーがあれば、そんな作戦は無意味で無駄でしかない。


 老人という群れのリーダーを失った子犬たちがてんでばらばらに背中の機関銃で攻撃を開始する。そのどれもクルマのシールドを突破出来るような代物ではない。攻撃を一点集中されれば、シールドに穴が開いたかもしれない。だが、そんなIF(もしも)は存在していない。


 ドラゴンベインに搭載したHi-FREEZERを使い、周囲に氷を振りまく。空気が震え、凍る。凍っていく。


 子犬たちが血反吐を吐き、次々と倒れていく。


 俺はHi-FREEZERから氷を放出し続ける。


 パタリ、パタリと子犬が倒れ、ピクピクと痙攣している。


 最後まで残っていた子犬も力尽きたようにゆっくりと倒れ、動かなくなる。相変わらず生身の相手なら心強い武器だ。


 これで終わりだ。


 俺は転がっている子犬の死体をそのままにその場を去ろうとする。と、そこに先ほど倒れた子犬が、生まれたての子鹿のようにぷるぷると震える足で立ち上がり、背中の機関銃を動かし、銃弾をばらまく。


 ……。


 そのばらまかれた銃弾は全てドラゴンベインのシールドが防いでいた。


 子犬が倒れる。


 ……こちらにダメージはない。少しシールドを削られたが、それだけだ。


 これで、終わりだ。


『あまり後味はよろしくない』

『ふふん。賞金額が少ないのはしょうがないでしょ』

 俺はセラフの言葉に肩を竦める。


 これ以上、何か起こる前に天部鉄魔橋を渡ろう。


 その先がサンライスの街だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 人間相手なら全く心は傷まないんだが、子犬は辛いよなぁ……。
[良い点] いざ進め! [一言] あ、パニッシャー直ったんですね。やったぜ。 俺だよじゃなくてもビーストを操る技術はあるのかな? それともこいつらも操られてるのか。 物理的にダメージはないけど心理的…
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