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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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370/727

370 時代の風04――『サンライス、か』

 俺はドラゴンベインから飛び降り、ユメジロウのじいさんの方へと歩いて行く。


「とりあえずクルマの洗車を頼む」

 俺はユメジロウじいさんに乾電池を投げ渡し、洗車用のコインを受け取る。受け取ったコインをカスミに投げ渡す。洗車はカスミとセラフの人形に任せれば良いだろう。


「それで、どういうことだ?」

「ふむ」

 杖を持ったユメジロウじいさんが、その杖でコンコンと地面を叩く。

「それで?」

「あれなら、他の街に行っているだあよ」

 他の街に?

「なんだ、じいさん。逃げられたのか」

 あのランドセルを背負った修理屋はかなり若く見えた。こんな癖しかないじいさんの下で働くよりは新天地を求めた方が良いだろう。

「ひっひっひっひ、凄腕と呼ばれるようになって随分と生意気になったで」

 ユメジロウじいさんが眼帯に隠されていない、残った方の目を細める。

「俺の態度は最初から変わらないだろう?」

 俺は肩を竦める。


『セラフ、情報はあるか?』

『ふふん。私が掌握している場所での目撃情報は無いみたいね』

 俺はセラフの言葉で理解する。セラフが知らない場所?


 レイクタウン、ウォーミ、マップヘッド、ハルカナ、ビッグマウンテン、オーキベース、キノクニヤ――東部、中部、そして西部の殆どをセラフは掌握した。もう残っている場所は二つしか無い。


「絶対防衛都市ノア……では、無いか。となるとサンライスか?」

 俺の言葉を聞いたユメジロウじいさんが楽しそうに笑い、杖で地面を強く叩く。

「情報をただで得ようとは悪い奴だでよ」

 ユメジロウじいさんの言葉に俺は肩を竦める。

「そういえば、あんたらはこの街の裏社会を牛耳る情報屋だったか」

「なんのことかぁのぉ」

 ユメジロウじいさんはわざとらしく俺の言葉が聞こえたなかった振りをしている。

「ビッグマウンテンの貸しを、と言っても良いが、これくらいはアフターサービスのうちだろう?」

 俺は綺麗に斬り裂かれた機械の腕(マシンアーム)九頭竜(ハイドラ)をポンポンと叩く。

「それなら付け替えをお勧めだあよ。ひひひひ、良い医者を紹介するで?」

「良い医者というのは、この機械の腕(マシンアーム)九頭竜(ハイドラ)を移植した時の医者だろう?」


 俺はため息を吐く。


「じいさん、悪いが他の機械の腕(マシンアーム)に変えるつもりはない。割と気に入っているんだよ、こいつを」

 これからも愛用して良いと思うくらい機械の腕(マシンアーム)九頭竜(ハイドラ)は俺に馴染んでいる。さすがに直す手段が無いというなら考えるが、そうでないなら、直して使い続けたい。それくらい愛着が湧いている。


「誰も使えんかった、それをのぉ。おぬしは変わってるで」

「道具は大事に使うべきだろう?」

 俺の言葉にユメジロウじいさんがニヤリと笑う。

「ひっひっひっひ、サンライスだあよ」

 ユメジロウのじいさんが懐から、半分に割れたカマボコ板のようなものを取り出し、こちらへと投げる。

「これは?」

 俺はその札を受け取る。割れた札には『米』と一文字だけ描かれていた。

「割り符だあよ。割り符も知らんだか」

 俺は肩を竦める。このユメジロウじいさんは俺が何を聞きたいか知っていながら、わざと誤魔化している。俺が困っている姿を見て楽しむつもりなのだろう。


『セラフ』

 困った時のセラフだ。

『はいはい。少しは自分で動くようにしたら?』

『それで?』

『サンライスの商業組合に入るための割り符みたいね』

 商業組合――マザーノルンが支配している世界で、その直下にあるオフィス以外の組織がまともに活動なんて出来るのだろうか。嫌な予感しかしない。


「サンライスの商業組合の割り符か」

 俺の言葉を聞いたユメジロウじいさんが大きく目を見開き、驚いた顔でこちらを見る。まさか俺が知っているとは思わなかったのだろう。


「凄腕のガム――さすがよ。侮っていたのはわしの方じゃった」

「それで、これは?」

 俺は改めてユメジロウじいさんに聞く。

「サンライスで会合があるだて、あの子はその付き添いだぁよ。それがあればおぬしも会合に入れるで」

 会合?


 商業組合というくらいだから、商人同士の会合なのだろう。


 ……。


 俺は改めて受け取った割り符を見る。これを用意していたということは俺の用件なんて最初から知っていたのだろう。


 どうやって、その情報を入手したのか、どこに伝手があったのか。本当に食えないじいさんだ。


「礼は言わないでおく」

「ひひひ、おぬしに礼なんて言われても、わしにゃあ1コイルの得にもならん」

「俺の礼には1コイル以上の価値があると思うぞ」

 俺の言葉を聞いたユメジロウのじいさんはかっかっかと楽しそうに笑い、洗車機の方へと歩いて行く。

「洗車、洗車、戦車で洗車、楽しい洗車ー」

 そして、その横で陽気に歌を歌い始めた。


 俺は大きくため息を吐く。


『サンライス、か』

 ()しくも目的地が重なるのか。これも運命の巡り合わせというものなのだろうか。


 サンライス。街の名前だ。


『何故、そんな名前になったのか……どういう意味だと思う?』

『はぁ? そんなことどうでもいいでしょ。変なところを気にして、考え過ぎなお馬鹿さんね』

『サンライ()なら日の出だろう? だが、サンライ()だ』


 サン、太陽。ライスは米か?


 俺は渡された割り符を見る。そこに書かれている文字も米だ。


 太陽米?


 良く分からないな。


 そこに必ず何か意味があると思うのは、俺の深読みのし過ぎだろうか。セラフが言うように考えすぎなのか?

風……なんだろう、吹いてきてる確実に。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 情報通のガムさんだぜ! [一言] 恒例の助けてセラえも~ん。実際、便利w 恩には礼で返すし、無礼にはお礼参りするのがガム君なのだった。 なんにしても次の行き先、決定! すごい一体感を感…
[良い点] ガムは最初から生意気な口をきいているんだ!だから大事!
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