037 クロウズ試験04――戦闘開始
割れた窓から侵入し、工場の廊下に出る。周囲を見回す。敵の姿は……無い。右目に表示された赤い光点に間違いは無いようだ。
『はぁ? 私の能力を疑うとか馬鹿なの?』
普段の言動や行動を考えたら疑って当然だと思うのだが――いや、自分の能力に絶対の自信を持っているセラフがその能力を疑われるようなことをするだろうか。そう考えると、そういう部分での信用は出来るのか。
『ふふふん、当然でしょ』
セラフは何故か得意気だ。別に俺は褒めてない。
探索を開始しよう。この赤い光点が何を感知しているのか、動いているものだけなのか、熱源なのか、細かいところまでは分からないが、とりあえず近くに危険は無いようだ。いや、トラップなどが残っている可能性はある、か。
でも、工場跡だろう? 罠の仕掛けられている工場か。考えたくない。
ため息を一つ吐き、肩を竦める。
一応、念のために周囲を警戒しながら廊下を進む、か。
廊下にはいくつか大きな扉が並んでいるのが見える。扉は……開かない。自動で開くタイプの扉のようだが電気が来ていないのか動く気配がない。無理矢理こじ開けようにも扉は重く、とてもではないが無理だ。開けるなら、それこそ機械を使わなければ無理だろう。
開かない扉を横目に廊下を進む。すると壁が破壊されている場所があった。どうやら、誰かがここから無理矢理侵入したようだ。
壁の穴から中に入る。その先は……ロッカールームだったようだ。無理矢理こじ開けられたロッカーがいくつも転がっている。ここで準備をして、作業場に入ったのだろうか?
……。
転がっているロッカーの中を見る。そのどれもが空っぽだ。
何も残って無い。
この工場跡を探索して落ちている乾電池でも見つけようと思っていたが、この様子だと難しそうだ。
『すでに探索済み……よく考えれば当然か』
未探索の工場を試験に使う訳が無い。
『ふふふん、それでぇ?』
『ああ。小さな疑問だ。探索済みの場所にしては敵の反応が多すぎるだろう』
そうだ。あの赤い光点の全てが敵とは限らないのかもしれないが、それでも多すぎる。試験官らしき男は数に限りはあると言っていた。つまり、中がどうなっているか把握しているということだろう。
つまり、それは……。
『ふふふん。つまり、用意されたものだって言いたいワケ?』
『だな』
……それが分かったところで何も変わらないか。連中の手のひらの上であるのは試験である以上当然だろうし、ある程度、安全が保証されたと思っておこう。
ロッカールームを抜けると動きの止まったベルトコンベアが並んでいる部屋に出た。ここが、この部屋が、階層のほぼ全てのようだ。かなり広い。
何を作っていた工場だったのだろうか。
周囲を警戒しながら探索する。
動いていないベルトコンベアの横には人型の機械が置かれている。よく見れば剥き出しの胸部に人骨が収まっていた。この工場で働いていた人たちは随分と仕事熱心だったようだ。
しばらく部屋の中を探索するが何も見つからない。探索済みの場所だけあってめぼしいものは回収済みか。
さて、どうしよう。
上の階に進むか、それとも砂に埋まっている下の階層に降りてみるか。
先行した連中が戦闘しているのは――下の階層か。見つからないよう隠れて様子を見てみるか。悪くない。
何も見つからなかったベルトコンベア部屋を出て廊下を進む。するとすぐに階段が見えてきた。そのまま下に降りる。一つ、階層を降り、さらに進もうとするが、その先が砂で埋まっていた。ここからはこれ以上先には進めないようだ。さらに下の階層へ降りるには他の道を見つけないと駄目か。
階段から廊下に出ると、道を塞ぐような形で砂の山がいくつも出来ていた。完全には埋もれていないが、かなり砂に侵食されているようだ。
ん?
とっさに砂山の陰に隠れる。そこから少しだけ顔を覗かせ様子をうかがう。
近未来の短機関銃を持ったおっさんがパスンパスンと光弾を連射しながら何かと戦っている。少し離れたところではドレッドへアーの女が狙撃銃を構えていた。
共闘している?
戦っているのは四角い板に蟹の足がくっついたような機械だ。あまり大きくない。小さな子どもくらいのサイズだろうか。そんな蟹もどきがちょろちょろと動き回っている。
おっさんの放った光弾が蟹もどきに無数の穴を開ける。蟹もどきの足の一つが折れ、倒れる。おっさんがトドメを刺そうと近寄る。その瞬間、蟹もどきが勢いよく飛び上がった。驚くおっさん。次の瞬間、ドレッドへアーの女の放った狙撃銃の一撃が蟹もどきを貫いていた。その一撃で蟹もどきは動かなくなる。
「これで1ポイント!」
「おい、横取りするな」
「あら、助けたのに酷いんじゃない? それにほら、おかわりはいくらでもあるから」
「ちっ、次はこっちにまわせよ」
奥から新手の蟹もどきが現れる。
……共闘している?
よく見れば新しく現れた蟹もどきと一緒にフードの男や震えていた男の姿もあった。各々が手に持った銃で光弾を放っている。
「このように数が多いと! まずは数を減らしてからでしょう」
「ああ。今だけは手を結ぶぜ」
「これで千コイルなんだから、美味しすぎ」
なるほど。敵の数が多すぎて、とりあえず共闘している感じなのか。
さて、俺はどうしようか。




