365 おにのめにも49――『セラフ、これで五割なのか』
一ヶ所を狙った狙撃によって超巨大なハンザケの皮膚が剥がれ落ちる。超巨大なハンザケは痛みにもだえ苦しみ、足が止まる。
だが、まだ足りない。
まだ奴の皮膚を――表層を剥がしたに過ぎない。中にぷりぷりとした筋肉の繊維が見える。
「次は俺らの番だよな!」
名も無きチョーチン一家の荒くれが飛び出す。それを無視し、並んだ装甲車の砲塔が動き、一斉に砲撃する。ぷりぷりとした筋繊維が弾け飛ぶ。
「ビーストを狩るのは俺たちクロウズに任せな! 街のならず者に負けるかよ!」
クロウズたちも動く。
「チョーチン一家をならず者扱いとか、あいつ死んだな」
「ぜってぇ、報復されるぞ」
「俺は無関係だぜ」
「お、おい! 俺はみんなで頑張ろうって思って言っただけでだな、卑怯だろ!」
クロウズ連中はじゃれ合いながら超巨大なハンザケに攻撃している。随分と余裕があるように見えるのは、狩りになれているからなのか、それともここで負けて街が滅んだとしても他の街に流れるだけだとでも考えているからだろうか。
……。
俺が考えた作戦。それはとても単純で正統派で王道なものだ。
相手は超巨大だ。そして統制が取れてない集団が各々好き勝手に攻撃していた。どうしても攻撃はバラけてしまうだろう。
それを一ヶ所に集中させたらどうだろうか?
それが今回の作戦だ。
つまり火力による力押し。
今のところ、その作戦は成功している。
一ヶ所に集中砲火を受け、足を止める超巨大なハンザケ。そのハンザケが身をくねらせる。
ん?
何をするつもりだ?
「おいこら、てめぇーら、ブレスが来るぞ!」
「盾耐準備!」
「耐えるぞ、こら!」
先行していたクロウズや荒くれたちが慌てて後退する。
盾を持ったヨロイが、シールドを前面に特化させたクルマが、一塊になって守りを固める。
キノクニヤの街で暮らし、ハンザケを狩ってきた奴らだ。その行動を、その習性を把握しているのだろう。大きくなっても行動はあまり変わらないのかもしれない。
そんなハンザケの習性をよく知っている連中が盾を用意し、寄り集まってシールドで身を守る?
不味い。
『セラフ!』
『ふふん。予想はパンドラの消費を五割ね』
パニッシャーのシールドを他の連中がやっているのと同じように前面に――攻撃が予想される方向に特化させる。
チョーチン一家の荒くれが、生身のクロウズが盾役のヨロイやクルマの影に滑り込む。そして、それを待っていたかのように超巨大なハンザケが口から水を放出する。
水?
それはもうレーザーとしか言えない代物だった。まずは自身がその威力に耐えられなかったかのように、水は縦向きに放出される。超巨大なハンザケが首を回す。吹き出された水がレーザーのようになって薙ぎ払われる。
衝撃が走る。
シールドを前面に特化させたパニッシャーを水のレーザーが通り過ぎる。それだけでパニッシャーは吹き飛ばされ、簡単に転がった。俺はパニッシャーの中で身を竦ませ、体を守る。
耐える。
そして、衝撃が消えた時には、パニッシャーの中にあるメインディスプレイはノイズしか映さなくなっていた。
『セラフ、これで五割なのか』
『不味いわね。衝撃でレーダーと演算制御装置が破損したみたい。ホント、お前って運がないわね』
俺はセラフの言葉に肩を竦め、ハッチを開けて外に出る。
……。
『酷い有様だな』
『ええ、そうね』
ヨロイは全てなぎ倒され、その手に持っていた盾は真っ二つになっていた。クルマも、装甲車も、動くことが困難なほど破壊され尽くしている。ただ水のレーザーが薙ぎ払われただけ、ただそれだけで半壊していた。
カスミのグラスホッパー号はグラムノートを撃った後、後退していたからか、なんとか無事だ。だが、シールドを張るのにパンドラを使い切ったのか、パンドラ切れで動けなくなっている。
『カスミは無事か』
『ふふん。当然でしょ』
俺はもう一度周囲を見る。
「おらぁ、生きてるかー!」
「生きてるぜ」
「なんなんだよ! 通常の百倍くれぇ、凄かったぞ」
「死ぬかと思ったぜ」
チョーチン一家の荒くれも、クロウズたちも元気に騒いでいる。
一応、無事か。
幸いなのは負傷者はあっても死者が無さそうなことか。
……。
今回はなんとか凌いだ。だが、次は無いだろう。
半壊。
たった一撃でこれか。
ただ水が薙ぎ払われた。それだけで、チョーチン一家の荒くれが、ヨロイが、装甲車が、クロウズのクルマが、再起不能になっている。
『天災みたいなビーストだな』
『ふふん。確かに。あら? お前がそう言ったからじゃないけど、オフィスは街を破壊するほどのビースト――天災級ビーストって命名するみたいね』
次の攻撃は耐えられない。俺たちは全滅するだろう。
『まさしく天災級だな』
『ふふん。それでどうするつもりかしら?』
『オフィスが名付けたってことは賞金が出るのか?』
『ええ、そうね。オフィスから出るみたい』
『そうか』
俺はナイフを一本だけ持ち、パニッシャーから飛び降りる。
『あらあら、そんな玩具でどうするつもりかしら』
『セラフ、パニッシャーを頼む』
俺は超巨大なハンザケを見る。
体に深い穴が空いている。
後少し……だ。
俺は走る。
超巨大なハンザケの体に深く開いた穴に銃弾が撃ち込まれる。
『狙撃か』
リバーサイドの狙撃手たちは健在だ。まともに動けなくなったパニッシャーも砲塔を動かし、主砲で攻撃を続ける。俺はその援護射撃を横目に走る。
攻撃を一点に集中させる。
そして、超巨大なハンザケの体に――
2022年10月9日修正
そして、衝撃が消え時には → そして、衝撃が消えた時には




