364 おにのめにも48――「作戦はこうだ」
俺はパニッシャーを走らせ、バラバラに別れ、デタラメに戦っているクロウズたちの元へ向かう。
『一見、協力することなくバラバラになって戦っているように見えるな』
『ふふん、そうね』
セラフは得意気に笑っている。セラフも気付いているのだろう。
よく見れば、クロウズの一部が同じ動きをしている。かと思えば、それを誤魔化すかのようにわざとタイミングをずらし、そのグループ同士でワンテンポ遅れた動きをしている。
仮にそのクロウズたちをABCDとアルファベットをつけようか。そいつらはわざとらしいくらいに離れた位置で戦っている。他のクロウズに紛れているから分からないと思っているのか、ABCDが同じタイミングで一斉に右を向き、手に持った銃を撃つ。次は左だ。次は正面。敵が居ないのに、その方向を向いてしまった奴も居る。そんなことをやっていると思えば、今度はAが動き、次にBが動き、次にCが動き、最後にDが動く、みたいな順番に行動をしている。
一緒に戦っていれば気付かないだろう。少し離れた位置から俯瞰して見たから気付けた違和感。
こいつらで間違いないだろう。
怪しい動きをしているクロウズの前までパニッシャーを動かす。
「ちょっと良いか?」
俺はそのクロウズAに呼びかける。ぎょろりとした目の骸骨のような男だ。
「何の用だ、うだ」
クロウズA――骸骨男の言葉は、震えているのか声が重なって聞こえた。
「お前のところのトップとクロウズの連中に伝えてくれ。俺に作戦がある」
「何のことだ、とだ」
骸骨男が聞き返してくるが、俺はそれを無視する。
「作戦はこうだ」
「……何をするつもりだ、りだ」
もしかするとこいつらは調整のし過ぎで普通に喋れなくなっているのかもしれない。だから、喉にスピーカー代わりの機械を入れ、そこから声を出しているのだろう。それはこいつ自身の言葉なのか、それともその機械を仕込んだ何者かの言葉なのか。
どちらにせよ、こいつに伝えれば、そいつに伝わるはずだ。
「……という訳だ。順番も俺が言ったとおりで頼む」
「何故だ? 奴らに、らに、協力して、して、そんなことをする必要がある? がある?」
「何故? 勝つためだ。あの大物を倒すためだ。分からないのか?」
俺はパニッシャーの中で肩を竦める。このスピーカーを使って喋らせたり、人を操ったりする手法は以前に戦った賞金首――新人殺しを思い出させる。
『奴は糸で死体を操っていたが、やり方が似ている』
違うと言えば違うかもしれない。だが、根底にあるものが同じ、いや、似ている、か。そう感じられるのだ。
『ふふん。出所が同じだからでしょ』
新人殺しの人形師――クロウズ試験に現れた異様に賞金額の低い賞金首だ。そいつは裏でオフィスと繋がっていた。
出所が同じ、か。もしかすると、新人殺しもこのキノクニヤの街の……リバーサイド出身のミュータントだったのかもしれない。
俺は改めて骸骨男を見る。銃の撃ち方、戦い方――クロウズとしての腕はそこそこのようだ。凄腕とか熟練者と呼ぶほどではないが、それなりに戦える……一番多いであろう中間層の、普通に普通なクロウズだ。
『まるでモブだな』
『ふふん。そうなるように調整しているんでしょ』
『だろうな』
作戦は伝えた。鬼灯、リバーサイド、オフィス――そして、俺たち。
全員が力を合わせれば、この超巨大な蜥蜴を倒すことが出来るはずだ。
クロウズと荒くれたちが超巨大なハンザケの周囲に居た取り巻きのような通常サイズのハンザケを攻撃し続け、ついに殲滅する。
これで残るは超巨大なハンザケ、ただ一匹。
一番厄介な奴が残った状況だ。
夜の闇に輝くキノクニヤの街はすぐ後ろに見えている。もう後がない。
ここで倒す。
『セラフ、カスミを動かしてくれ』
『ふふん、任せなさい』
チョーチン一家の荒くれやクロウズたちが後退する。カスミが操るグラスホッパー号だけが超巨大なハンザケの前に残る。
グラスホッパー号のグラムノートの一撃は、この超巨大なハンザケの皮下脂肪まで届いていた。内臓まではいかなくても、中までは通っている。
作戦開始に相応しい一撃だろう。
準備は完了だ。チョーチン一家の荒くれ、クロウズ、リバーサイドの狙撃――全ての攻撃が止まっている。作戦が共有されている。
一台残ったグラスホッパー号に超巨大なハンザケが迫る。その巨体は、シールドだとかクルマだとか関係無い。グラスホッパー号程度、簡単に踏み潰してしまうだろう巨体だ。ただ大きい。それが脅威になる。
『ふふん、作戦開始ね』
『ああ、頼む』
グラスホッパー号に搭載されたグラムノートの砲身と砲身の間に黒い球体が生まれる。生まれた黒い球体は圧縮され、黒い粒となって砲身と砲身の間を抜ける。黒い粒は真っ黒な尾を残し発射される。
黒い閃光。
その一撃が超巨大なハンザケに小さな穴を作る。
穴。
巨体に穿った一撃。
攻撃が――通った。
奴の皮を破ったようだ。だが、それだけだ。超巨大なハンザケの動きに変化はない。まったく効いていないのだろう。
だが、これでいい。
この一撃は――狙う場所を、的を、目印をつけるための一撃だ。
グラスホッパー号が巨大なハンザケに踏み潰されないように急いで後退する。
そして、その的を狙い次々と攻撃が飛んでいく。狙撃だ。リバーサイドの狙撃手たちがカスミのグラスホッパー号がつけた目印を狙い攻撃する。
『グラムノートが連射出来れば簡単だったんだがな』
『あら? グラムノートが五個くらいあれば、それを一サイクルにして常に連射出来るけど?』
『グラムノートが、五個ね。それを用意するだけのお金を何処から捻出するんだ? それに五個も現存しているのか? そもそもクルマに五個も搭載出来ないだろ』
パンドラの容量的な問題もある。
『ふふん、そうね。それならクルマを五台用意した方が良いかしら』
『はいはい』
とにかく作戦は始まった。
これで倒す!




