362 おにのめにも46――『おいおい、あんなのどうやって倒すんだ?』
狙撃から身を守るために歩く大砲の陰に隠れたバンディットたちだったが、その大砲が狙撃され、ひっくり返される。張り付いたバンディットが剥き出しになる。次の瞬間には、その頭が吹き飛んでいた。
『相変わらず良い腕だな』
バンディットたちはリバーサイドの連中がすぐに処理してくれそうだ。
『ふふん。相変わらず? お前にはこれが同じ人形の仕業に見えるのかしら?』
『人形? リバーサイドもノルンの端末たちみたいに機械人形を使っているのか?』
機械が狙撃をしていた? そういうことなのか?
『いいえ、こいつらが使っているのは生身の人形みたい。脳に針を差し込んで操っているようね。性能差が殆ど無いように、誤差程度になるようにしているみたいだけど、上手くいっていないようね。個体差があるのは生身だからかしら?』
『つまり、洗脳みたいなものか?』
なるほど。孤児院で戦った奴らが、ちぐはぐな――感情が無さそうなのに抑えきれないほどの殺気を放っていた理由はそれか。
『人の命を何だと思っているのやら。リバーサイドも碌な場所じゃないな』
『ふふん。分かっていたことでしょ』
本当にろくでもない時代、ろくでもない世界だ。
……。
俺たちは巨大蜥蜴の駆除を続ける。ミュータントだからなのか、目からビームを出したり、口から炎を出したり、体から電気を発したり、腕を伸ばしたりしながら戦っている奴らも居た。ミュータント――なかなかに芸が達者なようだ。
『あまり戦闘の役に立っているようには見えないけどな』
『あらあら? どれも戦うために組み込まれた因子なんだから、その才能を否定するなんて可哀想じゃない』
俺はセラフの言葉に肩を竦める。ミュータントして目覚めた時はそうだったかもしれないし、それを求められていただろう。だが、今はもうそういう時代じゃないんだろう?
『可愛そうって上から言う方が失礼になるだろ』
『ふふん。こちらが上なんだから哀れんでも良いでしょ』
俺はセラフの言葉に大きくため息を吐く。
『お前が哀れみなんて感情を理解しているとは思わなかったよ』
ハンザケをパニッシャーの機銃で撃ち抜く。
俺は周囲を見回す。すでにリバーサイドとクロウズの一団はバンディットたちを追い払うことに成功して、ハンザケの駆除に合流していた。
ハンザケは残り百を切っているのではないだろうか。
オフィス、チョーチン一家、リバーサイド――このキノクニヤで対立しあっていた組織が共通の敵を得て協力している。
元々のノルンの端末の思惑は、このキノクニヤを一度まっさらにリセットしようというものだった。だが、ここに来て、その思惑とは大きく離れた。
強大な敵が現れたことで団結することが出来た。
『後は殲滅するだけか』
『ふふん。このまま何事もなければ、昨日の敵は今日の友とやらになるでしょうね』
セラフが不吉なことを言う。
そして、その不吉な言葉通り、それが現れる。
大きな砂埃。
残り数十体のはずなのに何百人規模の集団が動いているような砂埃が舞っている。
その中心に居るのは巨大な蜥蜴だった。
巨大――そう、巨大だ。
通常のハンザケもびっくりするような、人を丸呑み出来るほど大きな蜥蜴だ。
だが、今、キノクニヤの街に迫っているそれは規模が違う。
大きすぎる。
ちょっとした体育館くらいのサイズはあるのではないだろうか。想像してみて欲しい、体育館が動き、こちらに迫ってくる姿を。
この超巨大なハンザケは、まさにそれだ。
チョーチン一家、クロウズ、リバーサイドの連中が慌てたように逃げだしている。そう、近寄れば巻き込まれてしまう。飲み込まれてしまう、踏み潰されてしまう。
クルマでも危ないだろう。シールドを張ったとしても、そのシールドごと踏み潰される可能性が高い。
『最後の最後で化け物が出てきたな。アレも一匹なのか?』
『ええ、当然でしょ。アレを含めて988だから』
水球を飛ばす上位個体も、今、迫ってきている超巨大なハンザケも、同じく一匹か。納得したくない数え方だ。
チョーチン一家たちは逃げながらも攻撃を続けている。だが、ハンザケの体が大きすぎるからなのか、ハンザケの特性なのか、攻撃が効いている様子は無い。
銃弾では倒せないのか?
『おいおい、あんなのどうやって倒すんだ?』
『攻撃するしか無いでしょ』
幸いなことに超巨大なハンザケは動作が鈍い。今もゆっくりと前足を持ち上げている。
ん?
超巨大なハンザケが持ち上げた前足を落とす。それだけで砂の大地が揺れる。地形が変わりそうな一撃だ。
『おいおい、こんなのが近寄ってきているのに誰も気付かなかったのか?』
『あら? 私は気付いていたけど?』
セラフの言葉に俺は思わず、なら言えよ、と突っ込みたくなる。
超巨大なハンザケの頭にいくつもの小さな穴が空く。リバーサイドの連中の狙撃だろう。だが、超巨大なハンザケは、そんな攻撃なんて無かったかのように前進している。
鈍感すぎるからなのか、何度攻撃を撃ち込んでも怯むことなく、マイペースに前進している。少しずつキノクニヤの街へと迫っていた。
『どうやって、倒せば良いか想像が出来ないな』
パニッシャーの主砲を何発も撃ち込んでいるが効いている様子が無い。チョーチン一家の装甲車の一撃も、ミュータントの能力も、リバーサイドの狙撃も、クロウズたちの攻撃も、全て受け止めている。
受け止めた上で普通に前進している。
こいつの進路上に街があることなんて、何も心配していないのだろう。
ただ蜥蜴は歩いているだけだ。
勝てるのか?
倒せるのか?
『ふふん。もう忘れたのかしら。お前なら倒せるでしょ』
俺はセラフの言葉を聞き、思い出す。
そうか、それがあったか。
サンブレイクに間に合わせるようにMHRiseのSteam版を始めました。二日ほどで上位に。このペースなら間に合うかもしれません。ああ、スイッチとのクロスセーブがあったら良かったのに……。
2022年10月9日修正
セラフの言葉聞き、思い出す → セラフの言葉を聞き、思い出す




