361 おにのめにも45――『おかわりか』
雄叫びを上げた荒くれとハンザケの群れがぶつかる。無数の銃弾が飛び交い、ハンザケを撃ち抜いていく。撃ち抜かれたハンザケが動かなくなる。だが、そのハンザケが盾のようになり、荒くれの攻撃から後続を守っていた。後続のハンザケは死骸を押しながら前進する。
「んだ、こいつら、なんで止まらねぇ。怖くねえのかよ!」
「死んだ奴が壁になって、どうすんだよ!」
荒くれたちが叫んでいる。
「んがー、どいてろ!」
「まぁっくすぱうわー」
作業用のロボットのようなヨロイに乗り込んだ荒くれたちが動く。後続によってズリズリと押されていたハンザケの死骸を持ち上げ、投げ飛ばす。邪魔なハンザケを退かし、現れた後続を目掛けて装甲車の一撃が放たれる。
「俺たちが俺たちのキノクニヤを守る!」
「行け! 進め! 潰せ!」
俺とカスミは、正面を荒くれたちチョーチン一家に任せ、ハンザケの群れの側面へと回る。
戦闘は続く。
そろそろ全体の半分くらいを処理しただろうか。
俺が、そう思った時だった。
パニッシャーに衝撃が走る。シールドが削られ、その回復のためにパンドラが消費される。
『攻撃を受けた、だと?』
『ふふん。どうやらあの個体のようね』
一部のハンザケが顔を持ち上げ、大きく頭を振り、その口から水の塊を吐き出していた。
『遠距離攻撃がないと思って、完全に油断していたな』
『ええ、そうね。ふふん、そういうこと』
ハンザケがぺっぺっぺと、水弾を吐き出し、周囲に攻撃している。射程距離は、だいたい四、五百メール――1キロもないくらいだろうか。そこまで脅威になる距離ではない。クルマの主砲の方が射程距離はあるだろう。だが、弧を描き飛んでくるため、躱しづらく、他のハンザケが盾となり、遠距離攻撃型のハンザケに攻撃を届かせることが難しい。
『ふふん。油断して近寄ったお馬鹿さんでもなければ問題無いでしょ』
『だが、鬱陶しいな』
飛んできているのは、ただの液体だ。シールドのあるクルマなら、少々パンドラが削られるだけで問題無い。だが、生身では命の危険があるかもしれない。
『ふふん。オフィスからの追加情報。ハンザケの上位個体は体内にある水袋に溜めた水を飛ばして攻撃してくるみたいね。この水袋は砂漠を渡る上で重要になる、貴重な水分らしいわ。上位個体を狩れば、沢山の水が手に入るから、これでお前もお金持ちね』
『そういう情報はもっと早くくれ』
俺はハンザケの攻撃を予測する。パニッシャーを動かし、その運動性能で飛んできた水弾を回避する。パニッシャーに搭載されていた機銃を掃射し、盾代わりの通常個体を撃ち抜く。通常個体の足を止めさせ、パニッシャーの主砲で撃ち抜き、殺す。だが、水弾を飛ばす上位個体まで攻撃を通すことが出来ない。盾代わりの通常個体が死んだ後も邪魔をする。
『だが、上位個体の足を止めることは出来た』
『ふふん、そうね』
そして、そこにカスミのグラスホッパー号が合流する。グラスホッパー号のグラムノートが盾になった通常個体を貫通し、その後ろに隠れていた上位個体を撃ち抜く。
『うーん、主砲の威力はパニッシャーよりドラゴンベインの方が上か?』
貫通性能と射程距離では負けているが、メインとなる主砲だ、さすがに威力はグラムノートに勝っている。だが、ドラゴンベインの150ミリ連装カノン砲と比べれば、一段、いや数段落ちる。
『ふふん。当然でしょ。あれを手に入れるのがどれだけ大変だったか分かっているのかしら』
『お前、簡単に手に入ったように言っていなかったか?』
『あら? そうだったかしら』
前の持ち主のシンには悪いが、パニッシャーの主砲はもっと一撃の威力を重視したものに変えるべきかもしれない。爆発する榴弾砲よりも射程距離が長くほぼ真っ直ぐに飛ぶカノン砲の方が良いだろう。
統一規格になっているのか、後で武装の交換が簡単なのはクルマの大きなメリットかもしれない。
『俺の知っている戦車は砲塔から主砲を外して交換するなんて簡単に出来なかったからな』
砲身が壊れたか、寿命が来た時くらいではないだろうか。
『ふふん。その戦車とやらに似ていても、これはクルマだから』
『確かに、そうだな』
『ふふん。でも、ええ、お前が言っているのと同じようなクルマもあるわ。クルマの中には専用武装と呼ばれる取り外しが出来ない武装を搭載したタイプもあるから。全てが全てクルマだから武装の変更が簡単という訳じゃないわね』
『専用武装、か。壊れた時が大変そうだな』
正面を受け持っているチョーチン一家の連中は現れた上位個体に苦戦しているようだ。邪魔になっているハンザケの死骸を退かそうにも、その作業途中で上位個体から攻撃を受ける。
「うおおおおお、ぶっ殺してやる!」
「巻き込まれんなよ!」
ハンザケの死骸を乗り越え、集団に突っ込んでいる勇敢な荒くれも居た。苦戦しているようだが、なんとかはなるだろう。
俺とカスミは上位個体を狙って攻撃を繰り返す。
そして、パニッシャーの高性能なレーダーがそれを捕らえる。
『おかわりか』
こちらへと迫る別の集団。
「ひゃっはー、獲物だ、獲物が居たぜ!」
「ひっひー、街がピンチで俺たちでピンチ。俺たちが美味しいぜ」
「お、おで、街壊す。部品、手に入れる」
「クルマに武器だぁぁぁ。ひょおお、今回も大漁!」
現れたのは足の生えた大砲のような機械に跨がったバンディットたちだった。
もちろん、俺たちを助けに来た訳じゃない。キノクニヤの街が襲撃を受けているのを知って、それに便乗しようとしているのだろう。
「俺がリーダー、俺が先頭。俺が奪う、俺が一番乗り!」
そう叫び、先頭を走っていたバンディットの頭が、次の瞬間には吹き飛んでいた。
狙撃。
バンディットたちの頭が次々と吹き飛んでいく。狙撃されていることに気付いたバンディットたちが足の生えた大砲の下側に張り付き、隠れる。
『ふふん。こちらも増援ね』
キノクニヤの街の方から武装した連中が、クルマがやって来る。
『クロウズ? リバーサイドの連中か』
『ええ。やっと動くみたいね』
バンディットたちは連中に任せても良さそうだ。
2022年10月9日修正
足の生え大砲のような → 足の生えた大砲のような




