359 おにのめにも43――『これから、こいつの名前はパニッシャーだ』
まずは祝砲代わりにぶちかまそうか。
砂煙を目掛けて、ドラゴンベインに搭載した150ミリ連装カノン砲を撃ち放つ。マズルブレーキが動き轟音とともに三連続の爆発が起こる。狙い通りに、集団から先行していた巨大蜥蜴が吹き飛んでいた。巻き込めたのは二、三匹程度だろうか。半身になってもしぶとく動き、こちらへと走っている個体も居る。
『焼け石に水だな』
『ふふん。千里の道も一歩からでしょ』
俺はセラフの言葉に肩を竦める。
俺の戦闘開始の合図を受け、カスミのグラスホッパー号が動く。まずは挨拶代わりにグラムノートの一撃が放つ。グラスホッパー号から放たれた黒い球体がハンザケを貫いていく。ドラゴンベインの150ミリ連装カノン砲よりも射程距離が長いからか、多くのハンザケを貫けたようだ。といっても、ドラゴンベインの150ミリ連装カノン砲が三匹ほど巻き込んだのに対し、グラスホッパー号のグラムノートが七、八匹といったところだろうか。
ハンザケの総数からすれば誤差でしかない。しかも、グラムノートの一撃を受けた個体は何事もなかったかのようにこちらへと動いていた。
『内臓が焼け爛れているだろうにお構いなしか』
『ふふん。知ってたでしょ』
ハンザケは酷く単純な生物なのだろう。面ではなく点で攻撃し、中身にダメージを与えるグラムノートとは非常に相性が悪い相手だ。
そしてグラムノートはチャージが必要な関係上、連射が出来ない。一発撃った後は次が撃てるようになるまでグラスホッパー号は逃げるしかない。
と、俺はそう思っていた。
カスミがグラスホッパー号を加速させる。こちらに迫るハンザケへと突っ込む。
『まさか体当たりでもするつもりなのか?』
『ふふん。さあ、どうするつもりでしょうね』
だが、そのハンザケたちの目の前で、カスミはグラスホッパー号を急旋回させる。そして、ハンドルを片手に身を乗り出し、手に持ったゴツい機関銃でハンザケたちを掃射していた。
なるほど。グラムノートが次弾を撃てるようになるまでの間、自分で攻撃するのか。ドラゴンベインのような戦車タイプではなく、オープンカーのように屋根が取り外されたグラスホッパー号だからこそ出来る戦闘方法だ。
『しかし、カスミは、よくあんなクルマに装備されてそうなゴツい機関銃を片手で持てるな』
『ふふん。あの子が片手で持てるのはリミッターを解除しているから。そして、アレはリベレーション20ミリ機銃。毎分100発もの弾丸の発射を可能とした、その反動、その重さから機械化が必須の面白い機銃ね。なかなかの出物でしょ?』
セラフは得意気にそんなことを言っている。
リベレーション20ミリ機銃?
それがあのゴツい機関銃の名前か。
……。
『待て。お前、また買ったのか。買う前に一言、俺に言えと、そう俺は言っていた気がするんだが、俺の勘違いか?』
『勘違いでしょ』
セラフはそんなことを言っている。俺の目の前にセラフが居たら思いっきり睨み付けてやるところだ。
『それで?』
『本当に出物だったんだから。チャンスだったの。お前に相談している間に売れてしまったらどうするの! 役に立っているんだから無駄じゃないでしょ?』
俺は大きくため息を吐く。こいつ、反省の色がない。
『いくらだったんだよ』
『ここで、こいつらを狩りきれば元が取れるから!』
俺は、セラフの開き直った態度にもう一度大きくため息を吐く。
セラフが準備していたおかげで少しは有利になった。今はそう思っておこう。
俺はセラフとそんなやり取りをしている間も攻撃を続ける。
千匹もの数の巨大な蜥蜴だが、幸いなことに、こいつらは一塊になることなく大きく縦に伸びて移動している。それは個体差なのか、ハンザケたちの習性なのか分からないが、横一列になって攻められたり、一塊になって攻められるよりはマシだ。
そのおかげで俺達はまだ対応出来ている。
……それでも二人では厳しいか。
俺はドラゴンベインを動かし後退しながら砲撃を続ける。ジリジリと押されている。数が多すぎる。
そして、ドラゴンベインの動きが止まる。
パンドラ切れだ。リバーサイドに向かった時に攻撃され、三分の二ほど削られていた。そして、今はパンドラの残量が回復しない夜間だ。いずれこうなるのは分かっていた。分かりきったことだった。
……。
ドラゴンベインが鉄の棺に変わった。
『走りなさい!』
セラフの声が頭の中に響く。
『言われなくても分かっている』
俺は急ぎ片手でハッチをこじ開け、外に転がり出る。ハンザケの集団が巻き起こす砂煙はすぐ近くまで迫っている。このままだと飲み込まれる。
俺はドラゴンベインから飛び降り、ハンザケの集団から逃げるように走る。
そして俺はそれに飛び乗る。
――シンのクルマ。
『ふふん』
ハッチを開け、中に滑り込む。セラフが遠隔操作してここまで運んだクルマ。パンドラはほぼ満タンだ。
シンのクルマの中に火が灯る。
『ふふん。それでなんて名付けるのかしら?』
シンのクルマ?
今は俺のクルマだ。
『そうだな……』
シン、か。罪があるなら罰が必要だろう。
『これから、こいつの名前はパニッシャーだ』




