035 クロウズ試験02――試験説明
トラックを降りた俺たちの前に武器などが入ったコンテナが積み上げられる。
「おー、武器なんだぜ!」
ナイフの男がコンテナに飛びつく。
「待て。まずはこれを身につけるんだ」
だが、それに試験官らしき男が待ったをかける。そして、武器などが入ったコンテナからちょっと大きな腕時計のような腕輪を取り出す。
「最初に、全員、これを取り付けろ」
「なんだよ、これ。ちっ、仕方ない、取り付けるんだぜ」
コンテナの一番近くに居たナイフの男が腕輪を受け取り、身につける。素早いな。いや、一番に選ぶ必要があったということだろうか。
「どけ」
ガタイの良いおっさんがナイフの男を押しのけて腕輪を受け取り身につける。
「これも救世のために必要なこと」
顔を隠した細見の男も腕輪を身につける。
「なぁ、これ、必要なのかよ」
「嫌なら帰るんだな」
ドレッドへアーの女は試験官らしき男の言葉を聞いて大きなため息を吐き出し、腕輪を受け取る。
ガクガクと震えている男も腕輪を受け取り、身につける。
『ふふふん?』
何か言いたそうなセラフを無視して俺もリストバンドのような腕輪を受け取り、身につける。時刻? 数字が表示された文字盤とボタンが一つ、か。大きさの割りに機能は少なそうだ。
「よし、全員身につけたな」
試験官らしき男がこちらを見回す。そして、それに応えるように全員が頷いていた。
「先ほども言ったように、この工場跡で三日間過ごして貰う。腕のそれを――パスを見ろ。残り時間が表示されているはずだ。私たちはその数字がゼロになった三日後にお前たちを迎えに来る」
「おいおい、それだけとは余裕なんだぜ。俺は安全な外で襲われないように隠れて寝ていることにするんだぜ」
ナイフの男のそんな言葉を聞いた試験官が呆れた顔をして肩を竦める。
「お前たち、焦る気持ちもあるだろう。だが、まずは説明を聞け。試験の目的は、この工場跡で三日間生き延びることだ。範囲外に出ようとすると腕に付けたパスが警告音を発する。そのままで居ると失格だ」
なるほど。この腕輪によって工場跡に縛られる訳か。安全な場所に逃げるという手段は取れないということか?
「この工場跡には多くのマシーンやビーストが棲息している。だが無理に倒す必要はない。あくまで目的は生き延びることだ。だが、倒せば、倒した相手の強さに応じてポイントを与えよう。そのポイントに応じて賞金を出す。一ポイントが千コイルだ。さらにクロウズになった後のランクアップにも有利になるだろう」
「ほう、そいつはいい」
ガタイの良いおっさんが両手を叩き合わせ喜んでいる。
「覚えておけ、すでに死んでいる工場跡だ。マシーンどもの数には限りがある」
「は、取り合いかよ」
ドレッドへアーの女が唇の端を持ち上げ、いやらしく笑う。
「どうしても助からないと思った時は、そのパスのボタンを三十秒間押し続けろ。試験はそこで終わる」
「なるほど。最悪、助けて貰えると言うことですね」
顔を隠したフードの男の、そんな言葉を聞いた試験官が肩を竦める。
「では、このコンテナの中から武器と鞄を受け取れ。武器は狙撃に敵したもの、中距離連射に優れたもの、携帯にすぐれたものの三種類だ。一人二つまでだ」
コンテナの中に入っていたのは試験官らしき男が言うように小さな鞄、それと三種類の近未来的な流線型の銃だった。
砲身の長い渦を巻くような流線型の銃。これが狙撃銃だろう。
短機関銃のようなもの。これが中距離連射型の銃だろうか。
卵に持ち手が付いたような武器。これが携帯に優れた武器だろうか。
それらが三つずつだ。
で、武器を二つまで、か。
三かける三は九だ。俺たちは六人。つまり……、
「数が合わないな」
「そうだな」
試験官らしき男に聞いてみるが返ってきた言葉はつれないものだった。つまり、早い者勝ちということか。
「俺はこれにするぜ」
ガタイの良い男が流線型になった短機関銃のような武器を二つ取る。
「ちょっと、同じの、二つ取るとか!」
ドレッドへアーの女が叫び、慌てて狙撃銃と卵銃を取る。
「救世のための力は、それを必要とした者に与えられるべきです」
フードの男は狙撃銃と短機関銃を取る。
ガクガクと震えていた男が卵銃を二つ取り、抱きしめるように持つ。
残りは近未来的なフォルムの狙撃銃だけか。
「おい、餓鬼、お前が取るんだぜ」
ナイフの男がそのナイフをぺろりと舐めながらそんなことを言っている。
……。
俺はとりあえず肩を竦める。
「あ? 武器がなくてもなんとかなるとか思ってるとは甘いんだぜ。それとも自殺志願か」
「使い方が分からないから不要だ。あんたこそ必要無いのか?」
「は! 俺にはこれがあるから不要なんだぜ」
ナイフの男が手に持ったナイフを煌めかせる。なるほどな。
『ちょっと、早くそれを取りなさいよ』
『さっきも言ったが使い方が分からない』
使い方が分からない武器を持って、その武器に振り回されてもろくなことにならない。
『それはユーレカ社製のRuler&Loserね。エネルギー充填型の狙撃銃。エネルギー減衰を考えて射程は百ってところ。お前程度が持つなら悪くないんじゃない』
セラフがそう言うということは意外と悪くない武器なのかもしれない。いずれはこういった近未来的な武器に慣れ、扱えるようになる必要もあるのだろう。だが、それは今じゃない。
『はぁ? 馬鹿なの? 素手でなんとかなるとか思ってるなら本当に馬鹿。ここにはマシーンが徘徊しているのに、わかっているの? 馬鹿なの? お前の攻撃なんてどれも通らないのに馬鹿なの?』
何度何度も馬鹿馬鹿鬱陶しい。
あの試験官は何度も生き延びることが試験達成の条件だと言っていた。つまり、無理に戦う必要はない。使えない武器に固執して戦いに挑む方が危険だ。
「おい、こいつ、この銃、エネルギーはどうなってるんだ!」
ガタイの良い男が叫ぶ。
「一応、フル充填されている。使い切った後は自分たちで考えるんだな」
試験官らしき男がガタイの良い男の叫び声を拾い、親切にも答えてくれている。
「ちょっと、これ! 食料が一日分しかないじゃない!」
今度はドレッドへアーの女が叫んでいる。
食料が一日分?
受け取った小さな鞄を開けると、そこに入っていたのは栄養が満点という感じのチョコバーが三本、水が入ったペットボトルが一本だけだった。あー、確かにこれは足りないだろうな。
「ちっ、そういうことかよ」
ガタイの良い男が試験官らしき男を睨む。だが、試験官らしき男は、その鋭い眼光を受けても肩を竦めるだけだった。
「では、試験を開始する。一番に武器を取ったものから工場跡に侵入しろ。次の者はその五分後に突入だ」
なるほど。
となると、俺とナイフの冴えない男は、どちらかが最後になるということか。
これは……場合によっては工場跡に入った瞬間、攻撃を受ける可能性がある。
俺はナイフを持った冴えない男を見る。男はナイフをくるりと回し肩を竦める。
「首輪付き、どうするんだぜ?」
「俺は最後で構わない」
ナイフの男がもう一度肩を竦める。
「そいつはちょっと困るんだぜ」
……。
俺はナイフの男を見る。そして小さく息を吐き出す。
「分かった。あんたが最後だ」
さて、ろくでもない試験が始まりそうだ。




