表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

343/727

343 おにのめにも27――『ああ。俺は強いからな。この程度は余裕だろう?』

 目の前の男を殴り飛ばし、蹴り飛ばし、飛んでくる拳を左手でパリングする。素手だからかあまり弾けない。


 素手、か。


 篭手かグローブでもあればもっと攻撃を弾きやすいのだろうが、その場合は掴みや投げが難しくなる。グローブは俺に向いていないだろう。

『あらあら、使えばいいでしょ』

 俺はセラフの言葉に首を横に振る。

『まだ、その必要は無い』

 少しでも攻撃の軌道が逸らせるなら、それで充分だ。


『にしても、戦闘に特化したリバーサイドの出向組が多いとは思えないな』

 俺一人を相手に殴る蹴るの大乱闘だ。数で勝る奴らが行う戦い方とは思えない。

『ふふん。随分と余裕ね』

『ああ。俺は強いからな。この程度は余裕だろう?』

『はいはい。お前も理由は分かっているんでしょ』

 俺は肩を竦める代わりに目の前のクロウズを殴る。そのクロウズは俺の攻撃を躱すこと無く殴られていた。そう、避けない。


 ……まぁ、避けないだろうな。


 俺だって分かっている。気付いている。


 これは一種の通過儀礼だ。


 あの鬼灯に殺されたライオンのような男が言っていた。あいつらはお前が何者か分かっていない、と。だから、舐めたような態度をとるということだろう。分からない、分からないなら、分かるようにすればいい。単純なことだ。


 つまりはこいつらは俺の力量を測っている。自分たちが分かる、分かり易い方法で調べている。


 こいつらは俺に言われたからではないだろうが、武器を使っていない。さすがに銃器はオフィスの職員が止めるからだろうが、それでもナイフなどは使っても問題が無いはずだ。ルールのある喧嘩ではないのだから。だが、使っていない。律儀に俺に合わせて拳一つで戦ってくれている。


 多分、その方が分かり易いからだろう。


 俺は近寄ってきていたクロウズを蹴り飛ばし、距離をとる。息は切れていない、まだまだ戦える。だが、そろそろ時間切れのようだ。

「そろそろいいだろう?」

 俺はジリジリとにじり寄って来ている、こいつらに提案する。

「まだ殴り足りねぇな」

 俺を取り囲んだクロウズの中でも一際凶悪な人相の男がそんなことを言っている。この言葉を訳すと、まだ俺の耐久力が測れていない。どれだけ打たれ強いかも見てみたいってことだろう。


 そう、俺はこいつらからどれだけの強さのクロウズか試されているだけだ。そんなことは分かっていた。


 だが、試す?


 悪意があろうが無かろうが、こいつらが自分たちの方が上だと思っているのは確かだ。


 俺を試すということは、俺を舐めているということだ。舐められている。


『ふふん。もうそこまで来ているわ』

 俺はセラフの言葉に頷く。すぐそこまで鬼灯が来ている。


 俺を試そうと思ったことを後悔させてやろうと思っていたが、仕方ない。


「悪いな。時間切れだ。そろそろ、俺宛のお客さんが来る頃でね、あんたらのお遊びにはこれ以上付き合えない」

 俺は肩を竦める。この程度の戦闘なら呼吸を整える必要も無い。本番の前に体を暖めていた程度だ。


「あ? 客だと。舐めてるのか」

 訳すと、試験から逃げる言い訳じゃないよな? その客というのは誰だ、くらいの感じだろうか。

「あんたらもご存じの相手だ。動きは掴んでいなかったのか?」

 俺の言葉を聞いたクロウズたちの動きが止まる。一瞬にして静かになる。そして、ぼそぼそと何か話し合っている。こいつらの情報網がどの程度か分からないが、さすがにここに鬼灯(ほおずき)が向かってきていることくらいは分かるだろう。そして、俺の言葉で鬼灯の相手が俺だと思ったはずだ。


「まだ殴り足りねぇが仕方ねぇ。次は殺す」

 訳すと、まだ俺の力量の全て測れていないから、次はこちらも本気を出して調べるという感じか。まぁ、言葉通りの意味だな。


 俺は肩を竦める。

「次はよぉ、こっちも武器を使うからな、覚悟しやがれ」

 武器の扱いも見ておきたいというところだろうか。

『ホント、ここの奴らは試すのが好きみたいね』

 力が全ての街。だから、上下がはっきりするように試すのだろう。人の命が軽い世界だ。それが殺し合いに発展してもお構いなしだ。


 俺はため息を吐く。

「それなら、これから起こることを観察でもすればいい」

 そう、俺には予感がある。


 鬼灯がここに向かっている理由。


 あいつがカスミに絡んでいた本当の理由と関係があるはずだ。

『そんなそぶりは無かったけどな』

 鬼灯は旅をしていた。その途中でカスミがオフィスの窓口に居たのを見たのだろう。

『ふふん。自分が気付けなかったことに対する言い訳かしら』

 俺は肩を竦める。

『だが、鬼灯がオフィスに向かっている理由はなんだ?』

『さあ? 虫の居所が悪かったんでしょ』

『カマセなんていうスパイを自分の組織に送っていたからか?』

 それだけでオフィスと敵対するだろうか? 今までオフィスと協力してその恩恵を受けていた組織が、鬼灯(トップ)の一声でそこまでするだろうか?


 オフィスの陰謀を知っていた? あの大蜥蜴――あそこに居たのは偶然では無い? いや、それは無い。無いはずだ。分かっていたのなら、娘と一緒に行く理由が無い。


『分からないな』

『聞けば分かるでしょ』

『確かにな』


 カスミが拘束されている時点で戦闘は避けられない。だが、理由を聞くことくらいは出来るはずだ。

2022年10月9日誤字修正

軌道が反らせるなら → 軌道が逸らせるなら

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] いよいよだ! [一言] そんな試験官だらけじゃ逆に測れなかろうにw シンプルに面倒くさい連中ですねー。 まあ、とりあえずウォーミングアップにはなったようで。 鬼灯はどこまで掴んでいるのか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ