034 クロウズ試験01
「おいおい、餓鬼が混ざってるとか聞いてないんだぜ」
ガタゴトと揺れるトラックの荷台に作られた座席ではナイフを持った冴えない感じの男が喚いていた。
「餓鬼がクロウズとか終わってるんだぜ。なぁ、あんたもそう思うだろ」
ナイフを持った冴えない男は喚きながら妙にガタイの良いおっさんに話しかけていた。
ふ、ん?
そのガタイの良いおっさんは無言でナイフを持った冴えない男を睨み付ける。ナイフの男は小さく舌打ちし、トラックの荷台の中を動く。
「なぁ、あんたはどう思うんだぜ?」
ナイフを持った冴えない男は次にフードで顔を隠した細身の男に話しかける。
「この世界を救うのに年齢は関係ありません。世界のため、この年齢で志願していることを褒めるべきでしょう」
フードの男の言葉を聞いたナイフの男は再度、小さく舌打ちする。
「これから試験で不安なのは分かるが、そこのナイフ野郎、ちょっと静かにしとけ」
「おいおい、俺は別に不安じゃないんだぜ。そういうお前が不安なんだろ」
荷台の奥で長い棒を抱え持ち、腕を組んで静かに座っていた女がナイフの男を睨み付ける。
「ちっ、ここに居る連中はどいつもこいつも駄目なんだぜ。そりゃあ、今更、クロウズになろうって連中だからよぉ」
ナイフの男が、手に持ったナイフを顔に近づけ、そのままぺろりと舐める。
汚いな。毒でも塗ってあったら死ぬぞ。
俺は小さく息を吐き出し、トラックの荷台に詰め込まれた連中を見る。
目の前のナイフを舐めている冴えない男。
何処かの軍隊にでも居そうなガタイの良い短髪のおっさん。
フードを深くかぶり顔を隠した細身の男。
長い棒を抱え持ったスタイリッシュな格好のドレッドへアーの女。
膝を抱えてガタガタと震えている男。
そして俺。
この、俺を含めた六人が今回のクロウズの試験に参加したヤツらだ。
どんな試験かは分からないが、コイツらが俺の同期になるという訳だ。
やれやれ、随分と面白い話だ。
俺は謎の皮で作られた手作りの背負い鞄をおろし、その中に手を突っ込む。
「お、餓鬼、やる気か。受けて立つんだぜ」
ナイフの男が楽しそうにしゅしゅっとナイフを振り回している。
俺はそれを無視して鞄の中のものを取り出す。
それは四角い箱――お弁当だ。
お昼ご飯だな。
蓋付きの弁当箱を開けると中には見るからにヤバそうな緑色の謎肉を使った焼き肉、良く分からないキノコと野菜を炒めたもの、何故か蠢いているお米のようなものが詰まっていた。
見るからにヤバそうなお弁当だ。
「おいおい、美味そうな弁当じゃないか」
「そうか?」
先ほどまで無言を貫いていたガタイの良いおっさんが話しかけてくる。これが美味そうなのか。ということは、食べても大丈夫なのか。現地の人が言っていることは信じよう。
とりあえず一緒に入っていた箸を持ち、お米のようなものを掴む。何故かぐちゃぐちゃと蠢いている。動く米とか怖いな。だが、弁当箱に入っているということは食べられるのだろう。
ぐちゃり、ぐちゃぐちゃと噛みしめ、食べる。あー、味は普通に米だな。口の中で動いているのは気持ち悪いけど。
これを作ったのはゲンじいさんの孫娘のイリスだ。俺がクロウズの試験を受けに行くと聞いて、何を思ったのか、用意してくれた。
鉄くず屋のゲンじいさんと孫娘のイリス。
あのアクシードのカバ頭との戦闘の後、レイクタウンのゲンじいさんの元になんとか戻り壊れているクルマがあることを伝えると、ゲンじいさんと孫娘のイリスは、その場に俺を残して、すぐに車が入りそうなコンテナがくっついた大きな車で出かけた。
俺はそこでアクシードの連中から巻き上げた食料を食べながら、ゲンじいさんたちが戻って来るのを待った。
そして、次の日には車にあの小型の軍用車のようなクルマを乗せてゲンじいさんと孫娘のイリスが戻ってきた。
という訳で、今、あのクルマは修理中だ。直ったら俺に譲ってくれるらしい。まぁ、ゲンじいさんは俺の借金に足しておくと言っていたが、それでもクルマが手に入るのは有り難い。どうせクルマを持つならスピードマスターが持っているような戦車の方が望ましいが、最初からそこまで高望みをするべきじゃないだろう。
「弁当を食べてのんきなもんだぜ。餓鬼、荷物はそれだけかよ。クロウズの試験を舐めてるんだぜ」
ナイフの男は喚き続けている。
『ふふふん。随分と余裕じゃん。前回の絡んできた馬鹿みたいに相手しないのぉ?』
頭の中にセラフの声が響く。まったく鬱陶しい。弁当の味が分からなくなりそうだ。
『本気じゃないヤツの相手をする必要もないだろう』
『はぁ? それってどういうこと? 分かるように喋れないとか馬鹿なの?』
セラフは俺のことを馬鹿だ馬鹿だと言うが、こいつ自身も大概だと思う。
『はぁ! 馬鹿に馬鹿って言って何が悪いの』
この人工知能、知識はあっても経験値が足りないのだろう。
もしゃもしゃ。
ごちそうさまっと。普通に美味しかった。物欲しそうにしていたナイフ男を無視してお弁当の空箱を手製の鞄にしまう。
そのままトラックは走り続け、やがて砂漠の中に廃墟が立ち並ぶ場所へと辿り着く。
「降りろ」
ここまで俺たちを運んだ男が命令してくる。
「けっ、偉そうなこったぜ」
ナイフの男が真っ先に降り、その後にぞろぞろと皆が降りる。俺も降りよう。
「ここで武器と食料を支給する。お前たちはこの工場跡で三日間生き延びろ。それが試験だ」
どうやら、そういう試験のようだ。




