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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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335 おにのめにも19――『人間らしい云々は別として、コイツらは大馬鹿だろうな』

 俺は持っていた突撃銃(アサルトライフル)を投げ捨てる。戦いは終わりだ。俺は鬼灯(ほおずき)を見る。これで少しは俺を見る目を変えるだろうか。俺にはまだまだ余力がある。残している。最悪、こいつに分からせることも出来るだろう。


 ……。


「素晴らしい」

 その鬼灯は俺ではなくカスミを見ていた。カスミの戦闘技術に驚いているようだ。どうやら、こいつは何処まで行っても俺をカスミのオマケとしか見るつもりはないようだ。


『あらあら、ふふん』

 セラフは面白がって笑っている。

『まぁいいさ』

 俺は肩を竦める。


 鬼灯が何事もなかったかのように案内を再開する。転がっている武装した連中はそのままだ。野次馬よろしく遠巻きにこちらの様子を窺っていたハイエナどもが片付けてくれるのだろう。

『あらあら、お前も武器の一つくらいはもらえば良かったのに』

『俺はこいつらを殺していない。人のものを盗ったらバンディットと同じだろう?』

 俺は武器を借りただけだ。殺して戦利品として手に入れるならまだしも、生きている状態で奪えばそれは盗人行為だ。詭弁のようだが、間違っていない。

『ふふん。つまらないことにこだわるのね』

『おや? 今、俺がやんちゃをしてオフィスに目をつけられれば……お前も困るだろう?』

『ふふん。私のことを心配するなんて』

 セラフの声には意外と言わんばかりの驚きが込められていた。


 俺は肩を竦めて、鬼灯の後をついていく。


 そして、最初に案内されたのと同じ屋敷に辿り着く。最初に案内された時は宿だと思い込んでいたが、もしかするとチョーチン一家の本拠地なのかもしれない。そう考えれば周囲から浮いている昔ながらの趣を残したお屋敷なのも理解が出来る。


「坊ちゃん!」

 屋敷の前では仲居らしき年配の女が鬼灯を待っていた。さっきの年配の女だ。その女は明確な敵意を持ってこちらを睨んでいる。俺たちは何か恨まれることをしただろうか。もしかすると大切な坊ちゃんを(かどわ)かした連中だとか思っているのかもしれない。

「客人として扱えと言ったはずだ」

 鬼灯が独り言のように呟く。

「しかしですね、ぼっ……」

 年配の女がさらに言葉を続けようとして、その口を開けたまま止まる。

「次はないと言ったはずだ」

 鬼灯は腰に差した得物に手を乗せ、分かり易いほどの殺気を放っていた。年配の女が慌てたように頭を下げる。


「こっちだ」

 鬼灯が、頭を下げ動かなくなった年配の女を無視して俺たちを屋敷の中へと案内する。俺は年配の女の前を通る時にその顔を見る。その顔は――怒りに震えていた。怒っているのは坊ちゃんに対してではないだろう。この年配の女は俺たちに対して怒っている。


『下の者が上の判断に、命令に素直に従えないようでは先は長くないだろうな』

『あら? 人の世では主のことを考えての忠言は貴重なんじゃないの?』

 セラフは馬鹿にするように笑いながらそんなことを言っている。

『時と場合によるだろ。無能な働き者の身勝手な忠言なんて迷惑、いや、害悪でしかない』

『ふふん。分かってるじゃない』


 鬼灯の案内で客間らしき部屋に案内される。

「ここで待て。すぐに人を呼ぼう」

 俺は鬼灯の言葉に肩を竦め、その部屋に入る。そこそこの広さだ。十二畳くらいはあるんじゃあないだろうか。十二畳? そう、床は畳だった。俺はその畳の上に土足で上がる。靴を脱ぐつもりはない。何かあった時に裸足で行動する羽目になるかもしれないからだ。


 俺に続いてカスミも部屋に入ろうとする。だが、そのカスミに待ったがかかる。

「あなたはこちらだ」

 鬼灯はカスミを他の部屋に案内するようだ。


『おやおや』

 鬼灯のあからさま対応に俺は苦笑する。

『ふふん。気になるのかしら』

『ああ。少しな。お前(セラフ)に任せる』

 こちらにはカスミとリンクしてやり取りが出来るるセラフが居る。変なことにはならないだろう。


 カスミは少し――わざとらしいくらいの困った顔を作り、それでも鬼灯の後についていく。カスミはカスミで情報収集をするつもりなのだろう。


 さて。


 俺は土足のまま畳の上で寝転がる。


 鬼灯は人を呼ぶと言っていた。それはリバーサイドについて説明出来る奴だろうか。それとも食事を運ぶという意味だろうか。どちらにしても油断は出来ない。


『どうもこの屋敷の連中は俺たちを敵視しているようだからな』

 この俺たち(・・・)に含まれるのは俺とセラフだけだ。カスミは含まれない。別にカスミを仲間外れにしてる訳ではない。俺たちとカスミに違いがあるからだ。それは――この屋敷の連中がこちらに向ける目だ。カスミに対しては非常に温かいものだ。それに対して、俺たちには敵意に近い目が向けられている。もしかするとカスミのオマケだと思われているのかもしれない。しかも排除すべきオマケだ。

『ふふん。人間らしいお馬鹿なことね』

『人間らしい云々は別として、コイツらは大馬鹿だろうな』

2022年10月9日誤字修正

腰に差した獲物に → 腰に差した得物に

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大した歓迎だ! [一言] くつろげなーい。 なんかカスミの好かれっぷりがすごいなw しかし女ひとり口説くのに一家総出で圧力かけるのはものすごくカッコ悪いぞ。 さて、どんな人が呼ばれて来る…
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