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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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331 おにのめにも15――『強制されているようで面白くないな』

 ザー、ガガガとノイズが走るような音が聞こえる。まるで何処かのスピーカーから雑音が流れているかのようなそんな音が――俺は、その音が何処から流れているのか見る。


 それは真っ二つになったライオンのような男の首の辺りから流れていた。よく見れば、四角い機械のようなものが喉の中に収まっている。その機械も真っ二つになっており、壊れたのかノイズのような雑音を発している。もしかすると、このライオンのような男の声が重なって聞こえていたのは、この機械が原因なのかもしれない。


 ……。


 これと似たようなものを何処かで見たような覚えがある。アレは何処でだっただろうか。

『ふふん。そんなことも覚えていないなんて、もう耄碌したのかしら』

『もうろく、ね。そうかもしれないな』

 この機械がなんの役割をして、何故、このライオンのような男の喉に入っていたのか。何故、何故、何故、何故ばかりだ。


「これは?」

 俺は駄目で元々という感じで角の生えた男に聞いてみる。

「分からぬな」

 本当に分からないのか分からないふりをしているのか、角の生えた男の顔からは読み取れない。分からないと言うなら仕方ない。


 俺は肩を竦める。

「こいつにはリバーサイドという場所に案内してもらう予定だったんだが、知っているか?」

「分からぬな」

 やはり、その顔からは嘘なのか本当なのか読み取れない。


「……長く離れていた故、な。家の者なら知っている者も居るだろう」

 だが、角の生えた男は、そう続けた。


『なるほど』

『あらあら、何がなるほどなのかしら』

『この角男の言っていることが本当なら、こいつがこの街を飛び出す前には、リバーサイドという場所は無かったということだろう? それが分かったということさ』

『ふふん。何も分かってないと同じじゃない』

 確かに分からないことだらけだ。セラフはこう言っているが、裏で情報収集を行ってくれていることだろう。そこはセラフを信頼している。いや、今はそこも、か。一番良いのはここのマスターをセラフが支配することだ。そうすれば裏の事情も含めて全て分かるだろう。だが、会えないのだから仕方ない。その前段階で躓いてしまっている。


 ここのキノクニヤのお偉いさんとの伝手が必要になる。


 ……。


 どうやら、結局は、この角の生えた男の用意した宿に行く必要があるようだ。遠回りしただけとも言える。


 だが、

『強制されているようで面白くないな』

『ふふん』

 セラフは笑うだけで何も答えない。


 これが物語なら運命の強制力というのだろうか。そうなるように誘導されている気がする。これが俺の気のせいで無ければ良いのだが……。


「この死体はどうするんだ?」

 俺は真っ二つになって転がっているライオンのような男を見る。

「明日には消えている」

 角の生えた男がどうでも良いことのように答える。消えている、か。このライオンのような男はクロウズだけあって、それなりの格好だ。懐にはコイルだってあるかもしれない。ハイエナのような連中が片付けるのかもしれないし、この角の生えた男の仲間が片付けるのかもしれない。


「分かった。あんたのとこに行こう。だが、その前に一つ聞きたい。あんたはチョーチン一家とやらの仲間なのか?」

 これは重要な質問だ。その答えによって俺のこいつへの関わり方は変わる。まず間違いなく関係者だろうが、だが、どういう立場なのかが重要だ。


 俺の質問に角の生えた男が首を横に振る。


 違うのか。それとももう家を出た身だと言うつもりなのか。


 角の生えた男が口を開く。


「名乗りが遅くなったが、改めて名乗らせてもらう。自分の名前は鬼灯(ほおずき)。自分がチョーチンだ。自分こそがチョーチン一家だ」

 角の生えた男――鬼灯が名乗る。


 なるほど。こいつが、この角の生えた男がトップだと。チョーチン一家の親分だと、そういう訳か。チョーチン一家の御曹司か何かかと思っていたが、トップか。


 ある意味、腑に落ちた。


 ライオンのような男が襲いかかろうとした理由だ。もし、俺が、そのチョーチン一家と敵対していて、そのトップが自分の目の前に現れたら……そういうことだったのだろう。そんなチャンスがあれば、思わず動いてしまうだろうな。


 はぁ。


 思わず大きなため息が出てしまう。


 だが、これで……。

『ふふん。これで? 何が言いたいの? どういうことかしら?』

『ああ。こいつがトップなら、こいつにオフィスのマスターを紹介してもらえばそれで終わりだろ?』

『ふふん。確かにそうね』

 どうして組織のトップが幼子を連れてあんな場所にいたのか分からないが、恩は売っている。その恩返しとして、ここのオフィスのマスターを紹介してもらえば全て終わりだ。


 ライオンのような男の事情やリバーサイド、チョーチン一家のことなど色々と気になることは多いが、それはここを支配してしまえば全て分かることだ。一々、調べることも詮索する必要も無い。


「分かった。あんたの用意してくれた宿? まぁ、そこに行くよ。カスミ、構わないな?」

「はい。私はそれで構いませんよ」

 グラスホッパー号のカスミが頷く。

「ああ。これで恩返しが出来る」

 角の生えた男は満足気に頷いていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 早々に恩が返ってきた!? [一言] あー、角→鬼→鬼灯→鬼灯提灯か。洒落てる。 てか、まさかの親分……なら子分をしっかり教育してくださいよー。 このまま全部上手くいく、って気がしないのだ…
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