327 おにのめにも11――「強い奴が正しいんだろ」
[オフィスはこちらです]
カスミから受けた通信の通りに大通りを進む。どうやらオフィスが大通りにあるのは間違いないようだ。
『さすがは元オフィスの職員だな。担当区域外でも、しっかりとオフィスの場所を把握している』
『あらあら。まるで私だと分からなかったみたいな言い方ね』
俺はセラフの言葉に肩を竦める。確かにセラフなら事前に情報を手に入れているだろうから、知っていてもおかしくない。おかしくないが、セラフの皮肉を聞きながら案内されるよりは、素直なカスミに案内してもらった方が気分的に楽だ。
しばらく大通りを進み、脇道へと逸れる。夜だからなのか、道を走っているクルマは俺たちだけのようだ。
『ふふん。でも、歩いている奴らは多いみたいね』
『こいつらは、夜が遊ぶ時間なんだろ』
そして開けた場所に出る。下品に輝く看板と山ほどの提灯が結びつけられたオフィスらしきビル。そして、そのビルの前には何台ものクルマが駐まっていた。戦車タイプ、スポーツカーのようなタイプ、重機のようなタイプ、様々な種類が見える。ここがオフィスで間違いないだろう。
並んでいるクルマたちと同じようにドラゴンベインと牽引しているシンのクルマを駐める。
[私はここでクルマを見張っています]
カスミはここに残ってクルマの見張りをしてくれるようだ。カスミがあまりオフィスの中に入りたくない気持ちは分かる。それが見張りとして残ってくれる理由なのかもしれないが、それでもその行動は非常に助かる。
いざとなればセラフに頼んで遠隔操作をすることも出来る。セラフなら不審な連中が近づく前になんとかしてくれるだろう。
そう、遠隔操作も出来るのだが――
……。
遠隔操作にはナノマシーンによる通信を使っている。セラフも細心の注意を払ってくれているとは思うが、その通信をノルンの端末に読み取られ、怪しまれてしまう可能性がある。可能性があると知ってしまった――分かってしまった以上、無茶は出来ない。シンのクルマを動かさずに牽引している理由もそれだ。
「助かる」
カスミが見張ってくれるなら安心だ。無駄な心配をする必要が無い。
……。
俺はドラゴンベインのハッチを開ける。
『ふふん。気付いているかしら』
『ああ。カスミは誘き出すためか気付かないふりをしているようだな』
駐まっていたクルマの影に人の姿があった。そして、そいつらは俺がドラゴンベインから姿を見せた瞬間、動いた。
俺はドラゴンベインから飛び降りる。その俺の前に武装した三人の男たちが立ち塞がる。
「邪魔だが?」
動かない。三人の男たちは俺の言葉を無視している。モヒカン、リーゼント、オールバックの三人だ。武器は肩から下げたアサルトライフル。俺を殺すには充分過ぎる武器だろう。
「おいおいおい、おぃおぃおい、おいおい!」
「どんなヤツが乗ってるかと思えば餓鬼かよ」
「パパに買ってもらったんでちゅかー」
三人はニタニタとした嫌な笑みを浮かべながら俺の進路を塞ぐように立っている。
「邪魔だが?」
俺の言葉を無視するように男たちはニタニタと笑っている。
「そこのオフィスに用がある。どいてくれ」
男たちは動かない。俺を取り囲みオフィスへの道を塞いでいる。
『あらあら、どうしたのかしら?』
『このお猿さんたちは言葉が分かるかもしれないだろ? 人間らしくまずは対話をしてみるべきだろう』
俺は動き出そうとしていたカスミを手で止める。
「おいおいおい、おーいおい、おいおい、ボーズ、夜間に出歩いたら怖いお兄さんに食べられるって聞かなかったかァ?」
「そんな立派なクルマに乗ってよぉ」
「そのクルマを置いて、行きな。素直にゆーこと聞くなら痛い目に遭わなくてすむぜ。お前のクルマ、俺たちクロウズが役に立ててやるよ」
三人の男はそんなことを言っている。
なるほど、コイツらの要望は理解した。
俺はクロウズのタグを取り出し、見せる。
「クロウズ同士の争いは禁止されていたと思うが?」
俺のタグを見て、言葉を聞いた三人の男が笑い出す。腹を抱えて笑っている。
「ひーっひーっひー、争いは禁止?」
「東側から来た連中はヌルすぎて笑っちまうぜ」
「禁止されているでちゅかー。そうでちゅよー」
俺は大きくため息を吐く。オフィスの目の前でやることか。確かにオフィスなら、そこに用事のあるクロウズたちのクルマが集まるだろう。クルマが集まる場所だろう。その中で自分たちが勝てそうな奴を待てば……つまり、俺は舐められているという訳だ。
「餓鬼、ここはよぉ、力が全てだ。強え奴に弱い奴が食われるんだよぉ」
「強え奴が正しいんだよ」
「お前ら弱者はよぉー、俺たち強者に差しだしときゃあよぉー、いいんだよー」
コイツらはバンディットで間違いないようだ。
町中にも現れるなんて、随分とキノクニヤは治安の悪いところのようだ。
俺はとりあえず目の前のオールバックの顔面を殴る。オールバックが血の出る鼻を押さえ、喚く。そのボディに拳を叩き込み、蹴り飛ばす。
「げぽああぁ」
オールバックは情けない声を出しながら転がっていく。
「餓鬼が! 大人しくしていれば……」
モヒカンが持っていたアサルトライフルを構えようとする。
遅い。
モヒカンの髪を掴み、そのまま引っ張り、地面へと叩きつける。倒れ込み、無防備な姿を晒したモヒカンの後頭部を思いっきり踏みつける。
俺はリーゼントへと向き直る。リーゼントが怯えたように後退る。
「ひっ。ま、まさか、その首輪に義手――お、お前が全裸のガムか!」
リーゼントが叫ぶ。
「あ?」
誰が全裸だ。誰が。
『ふふん。お前でしょ』
俺はセラフのツッコみを無視する。
「お前、言っていたな。強い奴が正しいってな。なら、これは正しいことだよな?」
俺は組み合わせた拳をポキポキと鳴らす。
「お、おい、これを見ろ!」
リーゼントがその飛び出た前髪を掻き上げる。そこには小さな突起のようなものが出来ていた。
「こ、これが分かるか? 俺はチョーチン一家だぞ。俺に手を出したら仲間が黙ってないぜ」
俺はため息を吐く。
「そうか。それで?」
「おい、分からないのか。あのチョーチン一家だぞ。お前なんか……」
俺はまだ何か言おうとしているリーゼントの腹に拳を叩き込む。リーゼントの体がくの字に曲がり、ちょうど良い場所に頭が下がってくる。
その頭に、額の小さな突起を狙い、殴る。
「ごぱぁぁ」
リーゼントが地面を転がる。
「強い奴が正しいんだろ」
それを口にするなら、ごちゃごちゃと権力をチラつかせるんじゃあないぜ。
2022年8月29日誤字修正
多い見たいね → 多いみたいね




