306 最強の男01――「ふふん」
「ガガンボという虫を知ってる? 長く伸びた大きな足が特徴の蚊と良く似た姿をしている虫なんだよ。その蚊のような見た目から血を吸う虫だと誤解されることもあったんだってね。吸血鬼みたいにね。この虫がどういう風に言われているか知ってる? 大きな姿をしているのに、足がすぐに折れて死んでしまう最弱の虫なんて呼ばれているんだよ。そう、最弱! 最弱だよ、最弱、最弱、最弱ゥ! 最弱というのはもっとも弱いということなんだよね。ああ、僕の声が聞こえているかな? 聞こえてないんだよね。残念だよね。今も夢のような世界で頑張っているんだよね。幻だけど君にとっては現実の世界なんだよね。惜しいよね。もう少しで真相に辿り着けそうなのに辿り着けない。もどかしいよね。急に仲間が裏切って不安だよね。どうしてこうなったか分からないよね。あ、でも、もう少しで分かりそうだったのかな? そうそう、こう思ったのかな? ゾンビとか吸血鬼みたいに襲われると感染して増える、とかかな? そう思うかな? そうだよね、そう思うよね。でも、違うんだよなぁ。違うんだよね。ヒントをあげよう。ヒントはね、みんなが活用しているものだよ。そうだね、今の世界だと当たり前になったあるものだよ。分かるかな? 分からないかな? 怪我をしたら何を使うかな? 大ヒントだね。そう、回復薬だよね。再生薬だったかな? とにかくお薬を使うよね。そう、それが答えなんだよ。お薬に含まれているものは何かな? そう、ナノマシーンだよね。くくくっく、もう答えが分かっちゃったよね。あー、でも君に僕の声は届いていないのかな。届いていないよね。答えを教えてあげているのに分からないなんて酷い話だよね。医療用のナノマシーンは人の神経や細胞を操作するんだよ。え? もっと詳しい話が聞きたい? でも、これ以上は専門的な話になってしまうからね、駄目なんだよ。え? もうその話はいい? それよりも僕が誰かだって? 僕を忘れたのかい? 君の友達のミカドだよ。ミカドガガンボだよ。思い出したかな? なんてね。僕の声が聞こえないなんて残念だよね。くくく、聞こえない君にあえて、改めて名乗ろう。僕が何者かを告げよう。僕は最弱。最弱だ。悪質で一途なミメラスプレンデンス、しぶとく最強なコックローチ、愚鈍で賢いフォルミ、そして最弱な僕。アクシード四天王で最弱、もっとも弱いクレンフライ。それが僕なんだよ。そう最弱。一番弱いんだ。クレンフライはアクシード四天王で最弱。殴り合い、喧嘩、殺し合い、なんだって僕は負けてしまうだろうね。だって、一番弱いんだから。でもね、最弱が、最弱だからこそ、最弱が一番恐ろしいんだよ。最弱こそが、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも、もっとも恐ろしい! 最弱こそが最強にたり得る。相応わしいんだよ。くくく、君は今さ、もう少しで何か分かりそう、何処か違和感を覚えている、そんな状態だよね。そう、もう少しで打開出来そうだからこそ、届かない。そこが引っかかり、答えには辿り着けないんだよ。おかしいと感じているからこそ、抜け出せない。どうしてもそこに引っ掛かってしまう。そちらに答えがありそうだからと正解に辿り着けない違う道に迷い込んでしまうんだよね。人は自分の感覚が絶対だからね。自分を基準にするしかないからね。抜け出せる訳がないんだよ。まぁ、元から正解なんてないんだけどね。再生薬に含まれたナノマシーンが錯覚させ続ける。永遠に錯覚する。そう永遠だ。死ぬまでそれが偽りの現実だとは気付けないんだよ。普通の人でもそうなんだから、体がナノマシーンで造られた君は抜け出せない。これほど僕と相性の良い相手もないだろうね。錯覚させ放題だものね。もう終わったんだよ。終わっているんだよね。ミメラスプレンデンスのお願いで動いたけど期待外れだったね。君が器だとは思えないよ。君は違う。外れだ。ミメラスプレンデンスのお願いでなければナノマシーンを暴走させて終わらせているところだよ。君が生き延びている理由はそれだけなんだよ。ミメラスプレンデンスのお願いだから、ただ、それだけ。あの一途に狂った女はあれでも四天王の仲間だからね。仲間とは仲良くしないとね。運が良かったね。でも、そのおかげで出口がない永遠の迷路を彷徨うことになっているんだから、その方が残酷かもしれないね。君にとっては残酷かもしれないね。何処までが現実で何処までが虚構か分からないよね。分からないから迷う。最弱な僕だからこそ、ナノマシーンを操ることが出来たんだよ。最強の力だよね。最弱な僕だからこそ最強なんだよね。ああ、ここまで話したのに君は聞こえていないんだよね。わざわざ僕が名乗って答えまで教えてあげているのに聞こえないなんて! なんて酷い話なんだろうね!」
「ふふん」




