296 最弱の男31――「言わなくても分かるだろう?」
「それで、どうするつもりだ?」
俺はシンに聞く。こいつらがこれからどうするつもりなのかは聞いておく必要がある。
「あ? おい、なんでお前が聞くんだよ。シンさんと対等なつもりか!」
豚鼻が叫ぶ。俺は何か戯言をほざいている、そんな豚鼻の顔面に拳を叩きつける。毎度毎度、こいつは何を考えているのだろうか。殴られたくてわざとやっているのだろうか? ああ、なるほど、自己虐待者なのだろう。親切な俺は、今後もことあるたびに殴ってやった方が良いのかもしれない。情けは人のためならずだ。
顔面を殴られた豚鼻は鼻血を垂らしながらふぉごふぉごと鳴いている。
「どうする? くくく、決まっているだろうが」
「そうか。頑張れ」
俺はシンの言葉に肩を竦める。
「ガム、お前はどうするつもりだ?」
「言わなくても分かるだろう?」
俺の言葉を聞いたシンが獲物を前にしたかのような凶悪な笑みを浮かべる。
「くくく、そうか。おい、丸腰のこいつに何か余っている武器を渡してやれや」
「シンさん、こんなヤツに、なんで!」
だらだらと鼻血を流した豚鼻が叫ぶ。これも俺に殴られたいというアピールなのだろう。
「分からないか。こんなヤツだから、借りはなくしておきたいんだろうが」
シンが豚鼻が持っている短機関銃を無理矢理奪い取り、俺の前に持ってくる。
「こいつでどうだ?」
あの蚊のような機械を相手にするなら連射性能の高い武器は役に立つだろう。俺は肩を竦め、短機関銃を受け取る。
「シン、それでお前たちは何処から探索するつもりだ?」
俺は短機関銃の握り心地と残弾を確認しながら聞く。
「俺たちは下を目指す。一度、クルマに戻って準備をし直すつもりだ。探索用のヨロイもないからな」
シンが片眼鏡をとんとんと叩き、豚鼻の方を見る。何かの合図か? シンの片眼鏡には何かあるのかもしれない。
「そうか。それなら俺は上を目指そう」
シンたちとは別行動になるが、誰よりも早く端末を支配したいこちらとしては、これは好都合だ。
「シン」
「なんだ」
俺とシンは扉を開け、吹き抜けの部屋から通路に出る。
「お前はここにあると思っているのか?」
「ここしかないな」
通路に出たシンが銃を構え周囲を警戒する。
「どうしてそう言える?」
「島は……全て調べたからだ」
シンは手で仲間へと合図をし、呼び寄せる。
「そうか」
俺も周囲を警戒する。機械どもが動いている音は聞こえない。近くに敵は居ないだろう。
「ここに送った奴だけが戻ってきてないからな。先ほどからチャンネルに信号を送っているがな、反応が無い」
シンが片眼鏡をとんとんと叩いている。
「この周辺に敵は居ないようだな」
「そのようだな」
シンが銃を構えたまま俺を見てニヤリと笑っていた。
俺とシンが先行して通路を進む。そして、何事もなく階段へと辿り着く。位置的には最初の階段の反対側になるだろうか。こちらも同じように上と下へ続いている。ここから一階まで降りることも出来るだろう。
「シン、ここでお別れだな。まぁ、頑張れよ」
「くくく、餓鬼が偉そうに」
シンの言葉に俺は肩を竦める。
「ガム、気を付けろ。ここにはあいつのヨロイを奪った奴が居る、何故、俺たちを殺さなかったのか、何故、ヨロイ以外を奪わなかったのか、分からないがな」
俺は頷きを返し、シンと別れる。
『それでどうするつもり?』
『言ったとおり上に進むさ』
俺は短機関銃を構え、警戒しながら階段を上がる。
吹き抜けには何も無かった。吹き抜けの通路のシンたちが居た場所には連中が閉じ込められていた部屋への入り口があるだろう。だが、その先には何も無い可能性が高い。
吹き抜けの部屋は蚊のような機械を詰めた罠部屋だったのだろう。
となると、どうするか、だ。
とりあえず五階に上がって通路を進むしかない、か。これならもう少し外から建物の形状をよく見ていた方が良かったかもしれない。そうすればある程度は、ここの構造や部屋のある場所を把握出来ていたはずだ。
シンたちと一緒に一度撤退した方が良かったか?
いや、これで間違っていないはずだ。
俺は首を横に振り、階段を上がる。
「ガム、無事だったんだね」
そこではミカドが俺を待っていた。俺は頷き、肩を竦める。
「そうだ、ガム、こんなものを見つけたんだ」
見つけた?
俺はミカドの案内で通路を進む。
長い通路だ。
『あらあら、急にどうしたのかしら』
このまま進んでも吹き抜けの外側をくるりと一周するだけだろう。
ミカドが足を止める。
「ここだよ。これを見て欲しいんだ」
ミカドがしゃがみ込み何かをしている。
「何をしているんだ?」
『ホント、何をしているのかしら』
俺はミカドを待つ。その何かをしていたミカドが顔を上げる。
「これだよ」
それは床に隠されたスイッチだった。こんな瓦礫に埋まった通路に隠しスイッチか。こんなもの普通では気付かないだろう。ミカドはよく気付いたものだ。
「押してみるよ、いいよね?」
「ああ」
俺が頷いたのを確認したミカドがスイッチを押す。
すると通路の途中の壁が動き出した。
「やったね、隠し通路だよ」
隠し通路、か。隠しスイッチが発見出来なければ、同じところをぐるぐると回っていたかも知れない。最終的には建物の構造から隠し通路がありそうな場所を見つけることは出来たかも知れないが、それが何時になっていたか分からない。これは僥倖だ。
『あらあら、何処に行くつもりかしら』
俺は壁が動き現れた通路へと足を踏み入れる。
2022年8月29日脱字修正
銃を構えたまま俺見て → 銃を構えたまま俺を見て




