281 最弱の男16――『どこぞの巨人が活動出来なくなりそうな時間だな』
『ここでアレを倒してしまえば、レイクタウンのオーツーからの依頼は達成だろう? これで他の連中に邪魔されること無くオーキベースの攻略が出来るな』
『ふふん。それはどうかしら?』
『ん?』
『アレを見てもそう言えるかしら』
俺はセラフの言葉を聞き、それを見て理解する。
『なるほどな』
バラバラと空気を切り裂く複数の音がこちらへと迫っている。そう、音は一つでは無い。
見えているヘリコプターの数は四機。先行している一機と、その後に続く三機。
『ヘリが一機だけとは誰も言っていなかったな』
『ふふん。その通りね』
グラスホッパー号に搭載したグラムノートの砲身が動く。こちらへと飛んでくるヘリを狙う。
『話し合いの余地は? なんでもかんでも暴力で解決するのは野蛮だろう?』
『あらあら。アレに人が乗っているのならそうかもしれないわね』
セラフの言葉を聞き、俺は改めてヘリを見る。その運転席に人の姿は無い。誰も乗っていない。
『なるほど。自動運転か。アレらを操っている奴がオーキベースに居るってことだな?』
『ふふん。良く分かっているじゃない』
遠隔操作の無人戦闘機ということか。
四機編成のヘリが飛んでくる。
奴らの狙いはウォーミだろう。
『ここに偶然俺が居て良かったな』
『ふふん。さあ、獲物を狩る時間よ。頭に気を付けなさい』
俺は驚き固まっている助手席のフラスコの頭に手をのせ、そのまま下げさせる。
「な、何をするですかぁ」
「いいから、頭を吹き飛ばされたくなかったら、そのまま下げていろ」
そして、グラムノートが動く。砲身と砲身の付け根の辺りにバスケットボールほどの大きさの黒い球体が生まれる。それが一瞬にして黒い粒へと圧縮される。
黒い粒が砲身と砲身の間を抜け、真っ黒な尾を残し発射される。
黒い閃光。
次の瞬間、こちらへと迫っていたヘリの一機に、黒い、小さな穴が開いていた。穴の開いたヘリがぐらりと傾き、そのまま落ちていく。
パンドラの消費は10パーセントほど。パンドラを二つ搭載してもそれだけ消費している。以前のグラスホッパー号では運用が難しかったかもしれないレベルだ。
グラムノートは弾速、命中率、威力、そのどれもが高水準でまとまっているようだ。パンドラの消費は少し多めだが、性能を考えればこれは仕方ないだろう。
『一撃か』
『ふふん。まあまあね』
俺からすると充分な威力のように思えるが、セラフには物足りないようだ。
だが、これで一機。残り三機だ。
無人だからなのか、三機のヘリはこちらを警戒することなく、そのまま迫ってくる。作戦も何も無い動き方だ。それだけ機体性能に自信があるのか、遠隔操作だと細かい命令が出来ないのか、どちらにせよ、これはこちらにとってチャンスだろう。
『セラフ、次が迫っている。次弾の準備を頼む』
俺はセラフにお願いする。だが、グラムノートに動きが無い。セラフからの返事も返ってこない。
『セラフ、次を……』
『待ちなさい』
セラフの少しだけ苛々したような声が頭の中に響く。
……。
『待て。何か問題が発生しているのか?』
『何も問題なんてないから。カビの生えた書式で今のモデルと仕様があわなくてエラーを起こしてフリーズしているだけだから。この程度、すぐに書き換えて修正するから! 問題なんて無いに決まっているでしょ』
俺は思わず大きなため息を吐いてしまう。
『それは問題があるって話だろ。試し撃ちもせず実戦に投入するからこんなことになったんだろ』
『だから、これが試し撃ちでしょ』
分かっていたことだが、こいつはポンコツだ。かなりのポンコツだ。
『武器が一個しか取り付けられないようなグラスホッパー号に乗せるべきではなかったな。もう一個か二個は武器が乗せられるようにグラスホッパー号を改造するべきだったな』
『それを今言っても仕方ないでしょ。馬鹿なの? それにグラムノートを乗せることにはお前も反対していなかったと思うけど?』
俺は肩を竦める。
こちらへと飛んでくるヘリ。そのヘリに搭載されたミサイルポッドが動き、次々とミサイルが撃ち出される。
俺はグラスホッパー号を急発進させ、飛んでくるミサイルを躱す。
『どうやらのんきに会話している場合じゃないようだ。そっちは任せるから急いでくれ』
『ふふん。当然でしょ。今も修正しているから。私を誰だと思っているの』
『ああ、そこは信用しているさ』
次々と飛んでくるミサイルを躱す。回避したミサイルが地面に着弾し、そこから爆発が生まれる。その余波をグラスホッパー号のシールドで受け止める。
グラスホッパー号を動かし、逃げるように、ヘリと距離をとるように動かす。
「ちょ、港はそちらではないですよ!」
助手席で小さくなっていたフラスコが叫ぶ。
「黙ってろ」
俺はグラスホッパー号を走らせる。
容赦なく三機のヘリから放たれるミサイルを躱す。ミサイルをパンドラで生成しているのか、弾切れする様子がない。
「ちっ」
グラスホッパー号の足が砂に取られ空転する。俺はすぐに手動操作でシールドをグラスホッパー号の足元に発生させ、その勢いで砂地から抜け出す。
飛んできたミサイルがグラスホッパー号のシールドに直撃する。その勢いにグラスホッパー号がくるくると回転しながら吹き飛ぶ。
『セラフ、まだか』
『ふふん。終わっているから』
くるくると回転しながら砂地の上を滑るグラスホッパー号から黒い閃光が走る。
次の瞬間、ヘリの一機が落ちていた。
回転して射線が定まらない中で命中させる、か。
機械のような精確さ――セラフだからこその芸当だろう。
『ふふん。次の発射準備が終わるまで三分ってところね』
『どこぞの巨人が活動出来なくなりそうな時間だな』
まったく簡単にいかないことばかりだ。
2021年12月19日修正
実戦に投入するかこんなことに → 実戦に投入するからこんなことに




