268 最弱の男03――「それなら提案がある」
「それと……」
俺がショーヘーに次の仕事を頼もうとした時だった。
「ご飯ですよ」
イリスが料理を運んできた。
「まずは食事にしようかね。外のカスミさんも呼んでくるといい」
ゲンじいさんも料理を運んでくる。
俺はショーヘーと顔を見合わせ、肩を竦める。会話は終わりだ。仕事の話よりもまずは食事だな。
「おっと、それなら俺が呼んでくるぜ」
ショーヘーが飛び出すように動き、カスミを呼びに行く。なんとも素早い反応だ。
『人造人間に食事は必要なのか?』
『食べることは出来るから』
人に擬態するためなのか人造人間は最低限の食事は出来るようになっている。
『確か、水があれば良い、だったか?』
だが、無理に食事をする必要はない。水さえあれば活動は出来るらしい。
……。
水だけ、か。水だけで動くためのエネルギーを賄っていると聞くと、何か無理をしているのではないだろうかと思ってしまう。まるで使い捨てにしているかのような……。
オフィスの地下に投げ捨てられた人造人間たち。俺はそれを知っている。
俺は首を横に振る。
「おっと、レディは見回りを続けるそうだ」
カスミを呼びに行っていたショーヘーが戻って来る。カスミは食事には参加しないようだ。
「ふむ。では食事にしようかね」
ゲンじいさんはこのまま食事にするようだ。決断が早い。もしかするとカスミが食事に参加しないのは今回に限ったことでは無いのかもしれない。
ゲンじいさん、イリス、ショーヘー、俺――四人の食事会が始まる。いや、セラフを入れれば五人か。
『ふふん。私は何も食べないから。右目に料理でも突っ込むつもり?』
『して欲しいなら、やるぞ?』
『ふふん。はいはい』
セラフは呆れたような声で笑っている。
「ショーヘーも食事に参加するのか?」
俺は夢中になって料理にパクついているショーヘーに話しかける。
「おっと、今、俺のことをタダ飯食らいだと思ったな? 思っただろう? ちゃんとじいさんの仕事を手伝っているからな? これは仕事の正当な報酬さ」
ショーヘーがカウボーイハットをパチンと弾き、そのまま料理に貪りつく。俺はゲンじいさんの方を見る。
「本当なのか?」
「ふむ。一応、な。助かっているよ」
ゲンじいさんが頷く。ショーヘーはどうにも軽い感じだが、セラフが認めるくらい腕は確かなようだ。そのショーヘーが手伝っているのだから、助かっているのは本当なのだろう。素人同然だった俺が手伝うよりも役に立つのは間違いない。
「それで何があったんだ?」
俺はゲンじいさんを見て、聞きたかったことを聞く。
「攻撃を受けたのだよ」
ゲンじいさんが食事の手を止め、俺を見る。
「攻撃? バンディットたちだろうか?」
俺は、その攻撃が海上にあるオーキベースとやらからのものだということを知っている。だが、あえて知らない振りをした。
「あれは海から来た。ヘリが……ヘリコプターを知っているかね? 回転する羽根で空を飛ぶ機械だが、それによる襲撃を受けたのだよ」
ヘリコプター?
『空を飛ぶ機械があったのか! 残っていたのか!』
『あらあら。どうしたの珍しく興奮しているじゃない』
『それを奪えば空を飛べるということだろう?』
『ふふん。空を飛ぶ乗り物はマザーノルンによって制限されているから、無理ね。それに、もし奪えたとしても高度が出ないようになっているから、壁を越えることも出来ないでしょうね。そんなものを奪ってどうするつもり?』
セラフのこちらを馬鹿にしたような笑い声が頭の中に響く。
どうやらヘリは微妙な代物のようだ。
「そうか。ところで、ここに来る途中で瓦礫を売っている連中とそれを買っている奴らを見たんだが、何が起きている?」
せっかくだから気になっていたことも聞いてみる。
「あれかね。オフィスが買い取りをしているからだね。クロウズのポイントも貰えるそうだ。君もやってみるつもりかね」
……。
なんだ、と。
聞いてみればなんということはない。短期間で瓦礫の撤去をするためにオフィスが餌をばらまいただけか。瓦礫を集めるだけでランクを上げるポイントが貰えるなら必死になるクロウズもいるだろう。金が余っているクロウズ、戦いが苦手なクロウズ――そいつらにとってはポイントを稼ぐ大きなチャンスになるはずだ。
瓦礫一つでどれだけのポイントとコイルが貰えるか分からないが――
『ふふん。それなら調べたから。一キロ当たり……』
『いや、どうせやらないから、その情報は不要だ』
一キロ単位で必要になる時点でやる気にならない。今の俺が撤去作業をするのは時間の無駄だろう。
「それでどうするつもりなんだ?」
俺はゲンじいさんとイリスを見る。
「ふむ。襲撃はまだ続くだろうね」
ゲンじいさんがぽつりと呟く。
そうだ。ゲンじいさんの予想通り、この一回で襲撃が終わるとは思えない。レイクタウンはほぼ壊滅し、瓦礫の山となっているような状況だが、未だオフィスは健在で、しかも瓦礫の撤去作業を指示している。これで攻撃が終わるとは思えない。
「残るのか、逃げるのか。逃げるなら護衛くらいはする」
俺はゲンじいさんに提案する。
「もう逃げるのには疲れたからね」
ゲンじいさんが疲れた顔でうつむき、小さくため息を吐く。ゲンじいさんはここに残るつもりのようだ。多分、イリスも一緒だろう。
「それなら提案がある」
「何かね」
ゲンじいさんが疲れた顔のまま俺を見る。
「俺に討伐依頼を出さないか? そのヘリと襲撃の原因、それの解決だ」
瓦礫1キロ=3コイルと1ポイント
(1コイル=100円相当)
2021年12月19日修正
オーキベースとやらからのものだというこを → オーキベースとやらからのものだということを




