266 最弱の男01――『次の攻略先が決まったな』
『それでどうするのかしら?』
俺はセラフの言葉を考える。
どうする?
いや、考えるまでも無いだろう。
『レイクタウンに向かう』
『あら? あらあら? 現状は伝えと思うけどぉ?』
俺がレイクタウンに向かったところで出来ることなんて何も無い。カスミを通じて向こうの状況が分かっているセラフからすれば、俺がレイクタウンに向かうことは無駄でしかないのだろう。
『それでも、だ』
『あらあら! 無駄だと思っているのに?』
少しでも早く残りの端末を攻略し、領域を手に入れたいセラフからすれば、俺の行動は理解が出来ないものだろう。無駄――つまり効率が悪いことをしている。その自覚はある。
だが、俺は人だ。感情がある。いくら、ゲンじいさんやその孫娘のイリス、カスミが無事だと聞いていても、実際に会って無事を確かめたい。それが悪いことだろうか。
二人がどの程度、無事かも分からない――ただ生き延びただけ、いつ命を失ってもおかしくない状況ということも考えられる。カスミは……セラフの余裕のある態度から考えても、まぁ、無事だろう。
『もう一度言う。それでも、だ』
『ふふん。好きにすれば?』
セラフの何処か投げやりな……いや、何処か含みを持たせたような言葉が俺の頭の中に響く。
『ああ、好きにするさ』
俺はレイクタウンを目指し、ドラゴンベインを走らせる。
「ひゃあ、ひゃあ、クルマだぜー」
「よこせ、よこせー」
そんな俺たちの前にバンディットたちが現れる。急いでいる時に限って――空気の読めない連中だ。
ドラゴンベインに搭載したHi-FREEZERでバンディットたちを凍らし、主砲による一撃を叩き込む。バンディットたちを蹴散らし進む。
『それで、レイクタウンに何が起こった?』
『分からないわ』
レイクタウンが襲撃を受けた。だが、セラフは分からないという。レイクタウンはこの世界を支配しているマザーノルン、その端末がある街だ。機械やビーストに襲われるとは思えない。もし襲われたとしてもクロウズの連中が返り討ちにするだろう。バンディットの襲撃ということも考えられるが、それこそクルマやヨロイを持ったクロウズたちなら、何とでも出来る獲物だろう。
マザーノルンがレイクタウンの破棄を考えたとしたら? 可能性としてはそれが一番高いかもしれない。
『もしかして、マザーノルンに端末の領域を奪ったことがバレたのか?』
『ふふん。私がそんなヘマをすると思うの? 馬鹿にしているの?』
マザーノルンに俺たちのことがバレないように、レイクタウンの端末――オーツーには今まで通りの行動をさせている。セラフが言うように、そんな間の抜けた失敗は起きないだろう。
『何処からの、誰からの攻撃だ? それも分からないのか?』
『あらあら、馬鹿にしているのかしら。攻撃は海上にあるオーキベースからね。それくらいは分かっているから』
オーキベース?
『そこは……』
『ええ。お前が考えているとおり。そこもノルンの端末が支配している領域ね』
やはり、そうか。
そうなると考えられるのは制裁しか――無い。
『ふふん。だからこそ、分からないの。何かに対しての制裁だとしても壊滅させるほどの攻撃をする必要がないでしょ?』
仲間内で行うには、やり過ぎということか。レイクタウンの現状をこの目で見ていない俺には判断が難しいところだが、こいつが言うなら、そうなのだろう。この時代、この世界で街を築くことは大変なことのはずだ。街の移転なんて気軽に出来ないだろう。移転も出来ないのに、そこにあるだけでいくらでも利用価値がある街を壊滅させる必要が無い。
だから、分からない、か。
『俺がレイクタウンに向かうことに反対しなかったのは、それか』
レイクタウンが襲撃を受けた理由は分からない。だが、その攻撃を行ったのは端末のある場所だ。セラフの目的とも繋がっている。
『ふふん』
『次の攻略先が決まったな』
夜通しドラゴンベインを走らせ、相も変わらず無謀な襲撃をしてくるバンディットたちを蹴散らし、進む。ハルカナの街で食料と水を補給しておいて良かった。何処かに寄る必要が無く、レイクタウンまで直行することが出来る。
やがてレイクタウンが見えてくる。いや、レイクタウンだった場所だ。
レイクタウンは滅んでいた。建物は崩れ、瓦礫の山と化している。崩れた建物からは、今も、もうもうと白い煙がたなびいていた。
確かに壊滅的打撃だ。
俺はレイクタウンの中へとドラゴンベインを進ませる。瓦礫を乗り越え、ゲンじいさんが住んでいるくず鉄置き場を目指し、進む。
瓦礫の山には、真っ赤に染まった瓦礫や崩落に巻き込まれたであろう人の、その体の一部が転がっている。未だ襲撃を受けた悲惨な状況が残ったままだった。瓦礫の撤去や救助まで手が回っていないのかもしれない。
「瓦礫、瓦礫あるよー。出来たて新鮮、ほかほかの瓦礫だよー」
「今なら瓦礫がお買い得だよー」
……。
そんな中でも商売をしている連中が居た。
『これは逞しいと言った方がいいのか?』
瓦礫だらけの場所で瓦礫なんて売れる訳がないだろう。気が狂ったと言った方がいいのかもしれない。
「瓦礫、買うぜ」
そんな瓦礫売りから瓦礫を買っている男たちが居た。手に銃を持ち、武装した男たちだ。俺に見覚えはないが、多分、レイクタウンのクロウズたちだろう。
『売れるのか』
良く分からないことが起きているようだ。
……。
とりあえず俺はくず鉄置き場に急ごう。




