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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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262 神のせんたく47――『中の情報を確認するぞ』

 俺は仰向けになったまま雲一つ無い青空を眺める。やり切ったという充足感からか思わず笑みがこぼれる。

『やった。やったぞ。やり切ったぞ』

 周囲の静寂を破るように俺の笑い声がこだまする。


「ガムさん?」

 そんな俺をウズメは心配するような顔で見ている。もしかすると突然笑い出した俺を見て、狂ってしまったのでは? と心配しているのかもしれない。

『お前は元から狂ってるでしょ』

『セラフ、俺を頭のおかしい人みたいに言うな』

『お前は存在自体がイレギュラーでしょ』


 しばらくこのまま青空を眺めていたい、そう思わせるほどの満足感、疲労感が体に満ちていた。心地よい疲労感に全身の筋肉が弛緩する。セレクションをトップで攻略し、アクシード四天王の一人、賞金首のミメラスプレンデンスを倒し、マザーノルンの胸くそ悪い施設を破壊した。


『くくく、やり切った気分だな』

『はいはい』


 だが、世界は俺を休ませてはくれないらしい。


 木々の奥から、ふよふよと浮かぶそれ(・・)が、こちらへと近づいて来ていた。


『撮影用のカメラか。お前が呼び寄せた訳じゃないだろう?』

 人造人間が制御出来なくなり、反応が消えたことを不審に思って調べに来たのだろうか。それか実験施設の――いや、それは無いか。実験施設を映し出し、記録に残すことはしたくないだろう。

『あらあら。何故、お前は当たり前のことを聞くのかしら』

『一応、確認だ。確認は必要だろう?』

『まだ撮影を行っているようね。今回のエピローグでも撮影しているんでしょ』

 今頃、集落の方ではスタッフロールでも流れているのかもしれない。


 俺は全身に力を入れ、そのまま飛び起きる。体をはたく。全身に張り付き、黒い炭となった衣服だったものがペリペリと剥がれ落ち、舞い散る。


 ……。


 俺は慌ててドラゴンベインまで走る。こんな半裸状態の俺を撮影されたくない。


『予備の服があって良かっただろう?』

『はいはい』

 ドラゴンベインのハッチを開け、その中へと滑り込む。暗い。ドラゴンベインのパンドラは未だ空っぽのようだ。真っ暗な中から予備の服を取り出し、着替える。とりあえずこれで撮影されても安心だろう。


 とっても安心で安全だ。


『何か忘れていないかしら? 忘れているでしょ』

 着替え、一息ついていると、セラフの俺を詰問するような声が頭の中に響いた。


 ……。


 忘れている?


 ……。


 ああ、アレか。


 俺は左腕の機械の腕(マシンアーム)九頭竜(ハイドラ)を触手のようなバラバラの状態へと変化させ、その中に隠していた金属製のかんざしを取り出す。爆発から守るためにとっさに隠したが無事だったようだ。


 ウズメから受け取った報酬だ。


『これだろ?』

『……はいはい』

 セラフの呆れたような声が頭の中に響く。この反応、どうやら違っていたようだ。


 だが、ちょうど良い機会だ。


『中の情報を確認するぞ』

『はいはい』

 金属製のかんざしを右目に近付ける。すると右目が見えなくなった。右目から金属の糸のようなものが伸び、かんざしに絡みつき、それを取り込んでいく。俺はそれを残った左目で見ていた。


 ……。


 右目から、ペッという感じでかんざしが排出される。俺は慌ててそれを受け取る。


『何か分かったのか? 何が分かった? 中にはなんの情報が入っていた?』

『少ししか面白いことは無かったわ。ふふん、とりあえず表示するから見てみたら?』


 俺の右目に情報が表示される。


 ……。


 それはこの実験施設の資料だった。爆発して存在が消えてしまった今なら、それは貴重な資料なのかもしれない。だが、それだけだ。ただ、貴重というだけだ。


 少しだけ興味深い情報もあった。


『ここの前身はアマツラボラトリィという名前だったのか』

 人が作った研究施設。それをマザーノルンが引き継いでいた。人の魂を転写するという、不老不死を求めるような実験が行われていたのは、人が始めたからだったのか。


 だが、疑問も残る。


 何故、マザーノルンはそれを引き継いだ?


 続けた意味が分からない。


 集落を囲い込んで強化された人間を作っていたのは、まだ分かる。色々な予想が立てられる。だが、魂の転写なんて、何の意味がある?


 何故、それをする必要があった?


 もしかしたら意味なんて無かったのかもしれない。興味本位で続けていただけなのかもしれない。人が始めたことだから、惰性で続けさせていたのかもしれない。


 正解はマザーノルンに聞かなければ分からないだろう。


『ふふん、それで、そろそろ思い出したかしら』

 セラフの少しだけ急かすような声が頭の中に響く。


 ……。


 ああ、そうか。


 ウズメを外に放置していたな。着替えを優先してしまっていた。


『馬鹿なの? ねぇ、馬鹿なの? それともわざとやっているのかしら』

 セラフの何処か苛々したような声が頭の中に響く。察して欲しいのか? こいつ(セラフ)も随分と人間らしくなったものだ。

『分かるように言え』

 コミュニケーションの基本は会話だ。言わなければ分からないこともあるだろう。

『あらあら。お前は目的を忘れたのかしら? 何のためにここまで来たのかしら?』


 目的?


 俺はセラフの言葉を反芻する。


 ……。


 あ。


 俺はドラゴンベインから飛び出す。


 転がっているヤマタウォーカーの首まで走る。


 パンドラの回収を忘れていた。これを忘れたら何のためにここまで来たのか分からなくなってしまう。


 やれやれ。


 胸くそ悪い実験施設を破壊したことで満足していた。セラフが居なかったら完全に忘れていただろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一山越えた! [一言] そして裸族も華麗に回避~。 え、パンドラ? そ、そんな物もありましたね。 小粒でもいっぱい増えるのは嬉しい。 ガム君お疲れ様でした。
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