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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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026 プロローグ23

 老人に案内されるままくず鉄が並ぶ部屋を歩く。何故か老人の孫娘も一緒だ。


「ここは?」

「おじいちゃんのお店! お店?」

 老人の隣を歩いていた少女が教えてくれる。最初は大人しい少女かと思ったがそうでもなさそうだ。人見知りしているだけかもしれない。だが、それでも見た目の年齢よりも内面が少し幼すぎるような気がする。中学生くらいだよな? 見た目よりも幼いのだろうか。


「ここは私が細々とやっているくず鉄屋だよ。だが、今はどちらかというとクルマの整備の方が本職みたいになっているがね」

 くず鉄屋? ここに並んでいるくず鉄を売っているのか? 誰が買うんだ?


 ……だから細々と、なのか。


「それで車の整備が仕事なのか」

「ふん。この街の連中は私をクルマの整備士、そう思っているようだがね」

 車か。まぁ、あれば移動に便利だろうからな。


『車とクルマねぇ』

 頭の中に声が響く。何か言いたそうなセラフは無視しよう。

『はぁ? せっかく意味深なこと言っているのに無視って、無視って馬鹿なの!』


 ……。


「何処まで行く?」

「用心のためだったんだがね、私の判断で君を離れの作業場に寝かせていたからね。もうすぐだよ」

 なるほど。だから、あんなくず鉄が並んでいるボロボロのベッドの上に居たのか。そりゃあ、どんな人間かも分からないヤツを生活空間には置きたくないよな。納得だ。


「ね、ねぇ、名前は? 私はイリス」

 老人と並んで歩いている少女が恐る恐るという感じで話しかけてくる。

「俺は……とりあえずガムと呼んでくれ」

「ガム君!」

 まぁ、とりあえずはその名前で通すことにしよう。


「ふむ。私のことはゲンジィと呼びなさい」

 少女の名前がイリスで老人の名前がゲンじいさんか。

「それでゲンじいさん、ここがくず鉄屋なのは分かった。だが、ここはなんて言うところなんだ?」

「ゲンジィと呼びなさい。さんは不要だよ。私のこの名前は旧時代から続く由緒あるサムライの名前なのだから」

 老人は名前に誇りを持っているようだ。って、ん?

「わ、私もゲンジィ、イリス・ゲンジィだよ」

 ゲンじいさん、ではなく、ゲンジなのか?


 いや、それって……。

「ミナモトって別名があったりしないか?」

「ふむ。よく知っているね。ガム君、君は旧時代の研究者か何かなのか?」

 俺はゆっくりと首を横に振る。俺は何者なんだろうな。まずはそこからだよな。


『素体だよ、馬鹿じゃないの』

 まぁ、セラフは無視だ。


「で、ゲンじい、ここは街なんだよな?」

「そこからかね。ここはレイクタウン。この辺りでは一番発展しているだろうね」

「そうか。ありがとう」

 レイクタウン? 聞いたことが無い。あの俺が目覚めた島は湖にあった。その湖の近くにある街? 都市? というところだろうか。


 ゲンじいが案内してくれた部屋は眠れれば充分という感じのベッドに椅子と机があるだけの簡素な部屋だった。そして、その部屋の壁には色あせた年季を感じさせる服が掛かっていた。

「とりあえず、それに着替えなさい」

「ああ」

 色あせたコートにカーゴパンツ、デニムシャツか。

「イリス、お父さんが使っていたものを持ってきてあげなさい」

「おじいちゃん、うん」

 イリスが部屋を出て行く。


 俺はその間に着替えることにした。服のサイズは……少し大きい。普通のコートがロングコートみたいになっているな。子どもサイズではないのだろうから当然か。


「ガム君、聞きなさい。さっき百万コイルと言ったがね、君はその価値が分かっているのか?」

 俺は服の袖を捲りながら首を横に振る。大金だろうと言うことは分かる。

「分かっていなかったか。それでだがね、このままここで私がやっている整備の手伝いをしながら暮らすなら、それを無しにしよう」

 ん?


 破格な条件のような気がするけど、突然、どうしたんだ?

「何故?」

「孫のイリスには友達が必要だろうからね。それに君は悪い子ではないようだからね」

「それは分からないと思うが?」

 こんな短期間の何処で悪い子ではないと判断されたんだろうな。

「君は随分とのんきなところに住んでいたようだ。普通の子どもはもっと余裕がないんだよ。それこそ、私が後ろを見せた瞬間に襲いかかってくるくらいね」

 それが、そちらが普通なのか。


 でもさ。

「申し出は有り難い。だが、それではお金が返せないだろう? だから俺はクロウズとやらになるよ」

 ゲンじいが大きなため息を吐き出す。まぁ、俺が普通の子どもで、ただ、この地に流れ着いたってだけなら、その申し出は有り難かったんだろうな。


「おじいちゃん、持ってきたよ」

 イリスが大事そうに抱えて持ってきたのは古くさい狙撃銃だった。


「それは?」

「使い方は分かるかね? 本当はもっと良い武器もあるが、これも一応用心だと思って欲しいのだよ」

「ああ。充分だ」

 ベルトの付いた古くさい狙撃銃をイリスから受け取り肩にかける。弾薬も受け取り、カーゴパンツのポケットに突っ込む。鞄が欲しくなるな。

「それとこれもだ」

 イリスが持ってきた物の中に古くさいゴーグルがあった。

「ゴーグル?」

「これも息子の形見だがね。砂漠ではゴーグルが必要になるだろう」

 砂漠? 分からないが必要だというのなら借りておこう。

「分かった、有り難く借りておく」

 俺はゴーグルを受け取り、身につけ、状態を確認した後、額まであげる。


「それでクロウズだがね……」

「おーい、じいさん居るかー!」

 ゲンじいが話そうとした瞬間、外から大きな声が聞こえてきた。


「ふむ。ちょうど良いタイミングだ。来なさい。イリスはここで待っていなさい」

「うん、おじいちゃん」


 俺はゲンじいに連れられて歩く。

「お、じいさん」

 そして、そこで待っていたのは真っ赤な若い男だった。真っ赤なマントに真っ赤なジャケット、赤いサングラス――全身が真っ赤な男だ。髪だけが黒い。腰には二丁の拳銃が結びつけられている。真っ赤な姿に驚くが、その両腕も異常だった。両腕は機械式の篭手でも身につけているのか金属に包まれ大きく膨らんでいる。


『あれ、機械式じゃん。なかなかのものみたいだけど、コイツ、何者?』

 義手、なのか?


「お前のクルマの整備なら終わっている」

「お、さすがじいさん! で、その餓鬼は? いつものと違うな。攫ってきたのか?」

 真っ赤な男がぶっとい腕と指で器用に真っ赤なサングラスを持ち上げニヤリと笑う。


「この子はクロウズ志望だ。案内してやってくれ」

 ゲンじいの言葉を聞いた真っ赤な男が頬を掻く。

「新人か。普通はよぉ、俺は子守りはやらねえんだけど。まぁ、じいさんが言うなら仕方ねぇか。でもよ、まずは俺のかわいこちゃんの状態を見せてくれ」

「ふん。こっちだ」

「おうさ」


 ゲンじい、真っ赤な男と一緒に整備場まで歩く。


 そこにあったのは――無限軌道(キャタピラー)と見るからに堅牢な装甲、こちらを威圧するかのような巨大な主砲、旋回式の砲塔がくっついた戦う為の車だった。つまり戦車だ。


 そう戦車だった。


 戦車かよ!


 この時代のヤツらは無限軌道(キャタピラー)が好き過ぎじゃないか?


『正確には旧時代にあったイチマルとかいうタイプを再現したモデル。悪くないじゃん、この馬鹿みたいな色以外は』


 真っ赤な戦車だ。ド派手に真っ赤に塗装されている。


「おい、首輪付きの餓鬼。どうだ、俺のクルマはイカしているだろう!」

 真っ赤な男が上機嫌に笑う。

「真っ赤だな」

 俺はそうとしか言えない。

「おうさ! 旧時代の文献によると赤くすると速くなるらしいからな! そりゃもう全部真っ赤だぜ!」

 その文献は間違ってないか?


『速くなる訳ないじゃん』

 セラフも呆れたような声を響かせている。


「首輪付きの餓鬼、名前は?」

「とりあえずガムだ」

「俺様はスピードマスター! このレイクタウンで最速のクロウズだぜ」


 何だか、とても濃いヤツが現れた。

2021年12月19日修正

ベルトの着いた → ベルトの付いた

赤いサングラス全身が → 赤いサングラス――全身が

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― 新着の感想 ―
[一言] 赤くするだけじゃダメなのに… 目の周辺を隠す系のマスクも併用しなきゃ、速くなれないの知らないんだな
[良い点] 3倍速くなる俗説! [一言] 意味深ぶりたいお年頃のセラフは放っておくに限るのだった。 ミナモトがあるならタイラもあるのかしら。 あ、その場合サムライではないのか。 ともあれ、やっと人…
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