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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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260 神のせんたく45――『答えが知りたい』

【watashidesu】

【もしかして、ともだちですか?】

【hai】

 ウズメとの会話は続いている。


『セラフ、お前はここが何か分かっているんだよな?』

『あらあら、何回同じことを聞くのかしら』

『答えが知りたい』

『ふふん。私が把握しているのはここで何をしようとしていたか、それだけだから』

 セラフの勿体ぶった言葉が頭の中に響く。


【そとはどうなりました?】

【じゅうねんまであとどれくらいですか?】

【あれからどれだけたちましたか?】

【かみさまはどこにいますか?】

【さびしいです】

 ディスプレイにはいくつもの質問が表示されている。ウズメがゆっくりとキーボードを押していく。


【anshinshite sadasan ikiteru】

 無数の質問の途中にウズメの言葉が表示される。


 安心して? さださん、生きてる?


 サダとは人名だろうか。ウズメはどうやら、その人物の安否をまずは伝えたかったようだ。


 そして表示される。


【しねばよかったのに】

【こんなにくるしいとはおもわなかった】

【こんなにつらいとはおもわなかった】

【くるしい】

【たすけて】

【ひとりはいや】

【もっとおはなしがしたい】


 次々と怨嗟の言葉が表示されていく。


『セラフ、勿体ぶらず答えろ』

『はいはい。そのコンソールの前に立ちなさい』

 俺はセラフの言葉にため息を吐き、ウズメの隣へと移動する。

「ウズメ、少し変わってくれ」

「あ、はい」

 何か文字を入力しようとして、そのまま固まっていたウズメが、俺の言葉を聞いて再起動する。慌ててその場を退ける。


 俺はキーボードの前に立つ。


『それで?』

『ふふん。見ていなさい』

 俺の左腕が勝手に動く。どうやらセラフが俺から左腕の制御権を奪おうとしているらしい。俺はため息を一つ吐き、セラフの自由にさせる。


 セラフが機械の腕(マシンアーム)九頭竜(ハイドラ)を使い、恐ろしい勢いでキーボードを操作していく。


 そして、今まで表示されていた文字が全て消え、それが表示される。


『セラフ、お前はこれを知っていたのか? こんなことが繰り返されていたのを知っていたのか?』

『言ったでしょ。私が把握していたのは何をしようとしていたかだけだって。詳しい情報はローカル(ここ)にしか無かったんだから、そこまで分かる訳ないでしょ』

『そう、か』


 ディスプレイには、ここで行われていた実験内容、目的、経過、結果などなど、それら全てが表示されている。


 ここで行われていた実験、それは――魂の転写と呼ばれる実験だった。


 魂とは何か? そこから始まった実験。


 人を電脳(コンピューター)という書式(フォーマット)へと転写する。肉体というハードウェアが古くなった時に新しい媒体へと転写(コピー)するための方法を探すための実験施設。それがここだった。


 それはクローンを作るのとよく似ていた。クローン技術自体はすでに完成していたようだ。だが、それでは容れ物しか作れなかった。同じ姿なのに、別の人間になってしまう。どうすれば中身をコピー出来るのか? 同じ人間を作る方法。人の意識、思考、人格、そういった人たらしめている様々なものは何が元になっているのか? どうやったら新しい体に移った後も、今の続きとして生き続けることが出来るのか?


 そのためにここでは様々な実験が行われていた。


 今、俺の目の前にあるガラスケースもその実験の一つだ。


 意志の強い子どもが必要だった。それを確認するためにセレクションという名前の試験を行っていた。


 その結果だ。その結果が、今、俺の目の前にある。


 生き延びる方法、延命する方法の模索、実験。俺にはこの施設で行われていたことが不老不死を生み出すための実験のように思えた。


「ウズメ、さっきまで会話していたのは?」

「先代の……」

 俺はそこでウズメの言葉を止める。聞かなくても分かる。


 ウズメの前の生け贄に選ばれた人物だろう。


「ウズメはどうやってここを?」

「ぐうぜんでした。野山であそんでいてぐうぜんみつけました」

「その時は岩で封じられてなかったのか?」

「わたしがはいれるほどの、ちいさな隙間があったんです」


 そういえばウズメは野山で遊んでいたと言っていた。そして、偶然、ここを見つけたのか。それで真実を知ったのか。


「真実を知ったのに何故、生け贄になろうとしたんだ?」

「しったからです」

 ウズメは揺るがない強く輝く瞳で俺を見ている。


「知って、それであえて生け贄になろうと思ったのか」

 ウズメが頷く。

「……なんとかするつもりでした」

 ウズメが頭を下げ、呟く。ウズメは生け贄候補者だけではなく、この先代も助けたかったのかもしれない。


『セラフ、助ける方法はあるのか?』

『助けるって何が何をどうしたいの?』

 俺は心の中でため息を一つ吐く。

『元に戻す方法だ』

『お前はお馬鹿さんなの? 元に戻る訳ないでしょ。ここにあるのはただの情報(データ)だから。あそこに浮かんでいる骨の人格を模した人工知能(エーアイ)でしかないの。そんなことも分からないの?』

 俺はセラフの言葉を聞き、思わず息をのむ。


 AIでしかない?


 死んで……いる?


『何をいまさら驚いているの? これは実験なんだから当然でしょ。まだ実験は成功していなかった、それだけ』

『それだけ、だと』

『ええ。こうして情報を手に入れたけど、無駄足だったようね。少しは役に立つ実験だったら良かったのに。ヤマタウォーカーのパンドラを手に入れることが目的だったから、ここにはあまり期待していなかったけど。ふふん、少しは面白いものが残っていれば良かったのに』

「はは、ははは」

 思わず乾いた笑いが出る。


『セラフ、お前はやっぱり人工知能だよ』

 少しはこいつともわかり合えた、信頼出来るようになったと思ったが、セラフ(こいつ)も人工知能でしか無かった。人の感情の機微なんて分からない。


 俺は頭を振る。いや、それはただの八つ当たりか。


 落ち着け。


 ……。


 ん?


 そこで俺は少し違和感を覚える。先ほどのセラフとの会話のやり取り。セラフはなんて言った? 俺はなんて答えた?


 人工知能(・・・・)


 そう、人工知能だ。マザーノルンも作られた存在、人工知能でしか無い。


 人工知能が、何故、人の魂の転写なんていう実験を行っている?


 何故だ?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 新たな謎が! [一言] ガム君も何かの結果かもしれないし、この世界が丸ごとそうかもしれない。 マザーノルンの目的ははたして……セラフの場合はまあ単純だから分かりやすいのだった。
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