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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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259 神のせんたく44――「ウズメはこれが何か分かっているのか?」

 それなりに大きな格納庫(ハンガー)だが、他に何も見えない。ヤマタウォーカーは一台しか無かったようだ。

『まぁ、あんなものが複数並んでいても洒落にならないか』

『ふふん。そんなにパンドラの余裕がある訳ないでしょ』

 俺はセラフの言葉に肩を竦める。


 俺とウズメは大きな格納庫(ハンガー)を抜け、さらに奥へと進む。


『セラフ、このかんざしに入っている情報(メモリー)はなんだ?』

『分かる訳ないでしょ』

 俺の質問に対し、セラフの投げやりな答えが返ってくる。

『どういうことだ?』

『外部記憶装置の中に入った情報(メモリー)をどうやって読み取るの? 馬鹿なの? 中のデータなんて見て分かる訳がないでしょ』


 ……。


 確かにその通りだ。その通りなのだが……。


 俺はセラフなら分かるものだと勝手に思い込んでいた。それこそ、空気中に漂っている電気信号を読み取るとか、良く分からない未来的な手法で分かるのではないかと思っていた。


 ……出来ないの、か。


『はいはい。中が知りたいなら、お前の右目に差し込みなさい』

 俺の右目。それはセラフの本体だ。なるほど物理的な接触でなら中の記録を読み取ることは出来るのか。

『分かった。後で確認しよう』

 俺は隣を歩いているウズメを見る。かんざしを右目に突き刺すのは後にしよう。確認自体はいつでも出来る。この奥に何があるか確認してからでも遅くないだろう。


 そして部屋に出る。


 いくつも並ぶフラスコや計器類、床や壁を這うコード。そこは何かの実験室のようだった。


 そう実験室だ。


 俺が目覚めた場所を思い出すような実験施設。


『ここは実験施設か。管理していたのは、ここのマスターだろう?』

『ふふん。それ以外無いでしょ』


 ヤマタウォーカーという機械(マシーン)が守り、ノルンの端末(むすめ)が管理していた実験施設。それは、この世界を管理しているAIが主導していた実験施設ということだ。悪い予感しかしない。


『人の姿が見えないな』

『今回のお祭りに駆り出されているからでしょ。ここはそれだけ余裕が無いってこと。私ほどではないにしても、ここもいずれは破棄される、見捨てられた施設だから』

 セラフの何処か諦観したような声が頭の中に響く。


 俺が目覚めた場所も何かの実験施設だった。セラフはそこを管理している人工知能だったはずだ。あそこはマザーノルンに見捨てられた実験施設だったのか?


『セラフ、お前はここが何の実験施設か知っているんだよな?』

『……ええ』


 何を実験していたのか。

 何を研究しているのか。

 それに生け贄がどう関係するのか。


 ウズメとともに実験室をさらに奥へと進む。


「これは……」


 そこにあったのは何か良く分からない緑色の液体が満たされた巨大なガラスケースだった。緑色の液体――その中に白く細長いものが浮いていた。


 白い?


 まさか、骨、か。


 骨?


 骨……。


 人、骨、か。


 俺は隣のウズメを見る。ウズメの幼い横顔は悲しみに歪んでいた。


「ウズメはこれが何か分かっているのか?」

「……はい。まえにきたときは、まだ」

 ウズメは悲しみに歪んだ顔のまま頷いていた。


 まだ、何なのだろうか。まだ人の形を保っていた、だろうか。


 人骨。生け贄をここで溶かしていたのか。


 何のために?


 ガラスケースをもう一度見る。よく見るとデジタルタイマーのようなものがくっついている。表示されている数字は3、6、4、7だ。


 何の数字だ?


 日付では無いだろう。何を示している?


「……ガムさん、こちら、です。まだ、たぶん、はなしが、できるとおもい、ます」

 ウズメが辛そうに、言葉をつかえつかえに話す。


 話が出来る?


 誰と?


 俺もう一度ガラスケースを見る。バラバラになった骨が浮かんでいる。


 ……。


 ガラスケースを横目に少し歩くと、そこにはディスプレイとキーボードの置かれた机があった。


『随分とアナクロな代物だな』

『はいはい』

 セラフの声はこちらを馬鹿にしているようなものだった。


 そういえばセラフが管理していたあの施設も同じようにアナクロなキーボードが置かれていた。どれだけ未来に進もうと、こういうものは変わらないのかもしれない。


「ウズメ、これは?」

「……あいさつをしてみます」

 ウズメがキーボードを叩く。


 こ、ん、に、ち、は


 挨拶、か。


 ディスプレイにはウズメがキーボードを叩いたそのままに【konnichiwa】と表示されている。本当にアナクロだ。


 ここを使っていたのは人造人間たちだろう。科学の塊である人工知能と人造人間が扱うのが、こんなアナクロな代物か。もしかするとマザーノルンは古くさいものが好きなのかもしれない。


 ……。


 少しの間があり、反応が返ってくる。


【だれですか? かみさまですか?】


 無垢な言葉。


 残酷な言葉。


「まだ……まにあって、よかった」

 ウズメがホッとした様子で胸をなで下ろしている。


「ウズメ、まさか……」

 俺の言葉にウズメが頷く。


 ディスプレイに表示された文字は続く。


【じゅうねんたったんですね。やっとかいほうされるんですね】


 表示されている言葉。

 挨拶。

 ガラスケースに浮かんでいた人骨。

 生け贄。

 十年。

 解放。

 ガラスケースにあった3647という数字。


 ……。


 ここで何が行われている?

 今、起きていることは何だ?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 核心に迫る! [一言] 悍ましく痛ましい……これが実験結果ならあんまりだ。 数字はカウンターかなあ? ガム君が来たの本当にギリギリだったっぽい。 ノルンの最終目標も気になるし、アクシード…
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