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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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258 神のせんたく43――「ウズメはこの奥に何があるのか知っているのか?」

 倒した。倒せたのか。


 ミメラスプレンデンスの反応は消えている。ドラゴンベインによる砲撃の跡地には何も残っていない。


 こんなあっさりと倒せて……いや、違うな。俺は首を横に振る。決してあっさりではない。ギリギリの戦いだった。一つ間違えれば俺は負けていただろう。死んでいただろう。


 結果から見るから、あっさりと勝てた、余裕があった――そう思えるのだろう。それだけだ。


 斬鋼拳が使えなかったら? 奴の動きを真似て斬鋼拳の改良をしなかったら? ドラゴンベインを連れてきていなかったら? 四体の人造人間を支配していなかったら?


 全て、if(もし)だ。


 命のやり取りというものは存外こんなものかもしれない。


 ミメラスプレンデンスは跡形も無く消し飛んだ。ミメラスプレンデンスの動きを止めるために取り付いていた四体の人造人間も消し飛んでいる。戦車砲からの集中砲火だ。これは当然の結果だ。これで生きている方がおかしいだろう。


 俺は肩を竦め、ドラゴンベインの元へと歩く。


 ドラゴンベインは全ての力を使い切り、動かなくなっている。パンドラが充填され、再び動けるようになるまでには結構な時間がかかりそうだ。


 俺はドラゴンベインのフェンダー部分に手をかけ、そこで振り返る。


『あらあら、何かしら?』

『いや、お約束だと、ここから復活してくるだろうな、と、そう思っただけさ』

『あらあら。反応が消滅しているのに、それを疑うなんて!』

 セラフは芝居がかった口調でそんなことを言っている。


『そうだな。お前がどうやって反応を確認しているのか分からないが、そこは信じるべきなんだろうな』

『ふふん』

 セラフは得意気に笑っている。


 これでアクシード四天王の二人を俺が倒したことになる。残り二人、か。そうそう出くわすことも無いと思うが、こいつらとは妙な縁を感じる。二度あることは三度あるかもしれない。その時は有り難く、そいつの賞金をもらうとしよう。


『戻ったらクルマ用の武器の調達と特殊弾の購入を優先した方が良さそうだ』

 ミメラスプレンデンスの賞金は確か320万コイルだったはずだ。これで少しでも強力な武器を手に入れるべきだろう。


 俺はドラゴンベインのハッチを開ける。


「ガムさん、たたかいは……あ!」

 そこからぴょこりとウズメが顔を出し、すぐに引っ込める。


 どういうことだ?


 ……。


 俺は自分の姿を、服だったものを見て肩を竦める。


 なるほど。


「ウズメ、中に予備の服があるはずだ。お願い出来るだろうか」

「あ、はい」

 ウズメがハッチから服だけを押し出してくる。俺はそれを受け取り、着替える。


『な? 予備の服は買っておいて良かっただろう? 賞金のコイルが手に入ったら服を追加しておこう』

『はいはい』

 欲を言えばミメラスプレンデンスが着ていたような服が欲しいところだ。だが、それは難しいだろう。アクシードの連中を締め上げたとしても手に入るとは思えない。奴らの兵隊が身につけていたものは普通の代物だったからな。


「ウズメ、行こう」

「あの、たたかいは?」

「全て終わった」


 俺はウズメを連れ出す。もうこれ以上ここで戦いが起きることは無い。ヤマタウォーカーのパンドラの回収は後回しで大丈夫だろう。まずはこの先に何があるかを確認するべきだ。


 俺はウズメとともに岩戸へと向かう。


 ビッグマウンテン――その山頂にある岩戸。神の眠る場所。この集落の人間はヤマタウォーカーのことを神だと思っているようだが、あんなものが神であるはずが無い。ただの機械の玩具(おもちゃ)だ。


 ならば、神とは何か。今のこの時代、神を詐称しているのは何か。


 洞窟を塞いでいた岩戸はヤマタウォーカーの暴走によって吹き飛んでいる。俺たちはその中に入る。


 洞窟の中は不自然なほど明るい。


 俺とウズメは洞窟の奥を目指し歩く。俺は隣を歩いているウズメを見る。その足取りはしっかりとしたものだ。まるで、ここを知っているかのような……いや、違うな。ような、ではなく確実に知っているのだろう。


「ウズメはこの奥に何があるのか知っているのか?」

 俺の言葉を聞いたウズメが少しだけ驚いたような顔をし、ゆっくりと頷く。


 知っていたから生け贄の候補者として立候補した。そういうことだろう。


「このかんざしは、ここで手に入れたものだろう?」

「……はい」

 ウズメは少しだけ迷うように首を傾げ、それでも頷いた。ウズメは俺が聞きたいことをしっかりと理解し、分かっているようだ。


「ウズメ、読み書きは誰に習ったんだ?」

「たまにやって来る、物乞いのおじさんからです」

 俺は小さくため息を吐く。


 そういうことか。


「このかんざしは、そのおじさんから貰ったものだろう?」

「……はい」

 俺の言葉にウズメが頷く。


 セラフが言っていたように、かんざし自体に価値はない。価値があるのは中の情報(メモリー)だろう。その意味を、価値をウズメは知っていた。


 俺は肩を竦める。


 ウズメと二人で洞窟を歩く。


 そして開けた場所に出る。


 そこは格納庫(ハンガー)だった。バスケットボールのような形の機械(マシーン)が壊れて転がっている。ここがヤマタウォーカーの格納庫なのだろう。転がっているのは整備用の機械(マシーン)だろうか。壊したのはミメラスプレンデンスだろう。


 このさらに奥か。


 そこに生け贄を必要とする理由が眠っているはずだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 備えあれば憂いなし! [一言] 華麗に裸族を回避、できたかな? グレー判定。 じいさん、やっぱり食えないなあ。服を見なくても誘導する気だったのかも。 パワーアップしたから結果ヨシ! さ…
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