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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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257 神のせんたく42――『叩き潰せば全て終わりだ』

『セラフ、そちらはどの程度になっている?』

『ふふん。まだ三割ってところでしょ』

 俺はセラフにパンドラの残量を確認する。少しずつ回復しているようだが、それでもまだまだ心許ない数字だ。正直、ヤマタウォーカーとの戦いで消耗しすぎた。


 俺はこちらを見てニヤニヤと笑っているミメラスプレンデンスを見返す。ミメラスプレンデンスは歪んだ笑みを貼り付けたまま、その斬り落とされた頭を、自身の首に繋げていた。どうやら時間稼ぎもそろそろ限界らしい。


『予想していたが頭を落としても死なないとは厄介だな。ナノマシーンというのはそんなに万能なのか』

『そんな訳ないでしょ。お馬鹿なお前でも分かるように説明してあげる。人の細胞の数がいくつか知っている? それら一個一個に命令することが出来るかしら? ナノマシーンだって同じ、決められたことしか出来ないに決まってるでしょ』

 例えば、手を動かす、歩く、など無意識に出来るようなレベルのことしか出来ないということだろう。俺が思っているよりもあまり自由が無いのかもしれない。

『つまり、人の細胞一個一個に命令が出来るくらいにならないとナノマシーンは完全には操れないってことか?』

『はぁ? そういう意味……でもあるけど、お前馬鹿なの? ほんと、馬鹿でしょ』

 セラフの呆れたような声が頭の中に響く。


 俺は考える。俺がそうであるようにナノマシーンが血や肉の代わりをしているだけのはずだ。細胞とナノマシーンの違いがあったとしても、人と同じ構造で人と同じように生きているはずだ。

 首を切り落としたのに生きている? 逆に考えれば、どういう状態なら首を切り落としても死なない? 何故、首を切り落としたら人は死ぬ?


 ……。


 再生するなら分かる。それはバラバラになったナノマシーンが集まり直して、元の体に戻そうとしているということだろう? 俺が人狼化するのも、怪我が治るのもそれだ。


 何故、首が離れた状態で生きている?


 その答えは機械だから――ではない。ナノマシーンも機械だが、それは違うだろう。


 何故、人は思考することが出来る?

 脳の働き。

 頭だけでどうやって?

 しかも喋ったよな?


 人はどうやって喋る?

 空気の振動。

 肺もない状態でどうやって喋る?


 奴の首を斬り落とした時に、その首からは血が流れていなかった。酸素、血液、エネルギー、活動……。


 喋ったのは脇に抱えた後だった。もしかすると脇に抱えた状態で結合(・・)させたのかもしれない。一瞬にして脇から内臓を繋げた? 出来ない事はないだろう。


 奴の首はあっさりと切断出来過ぎた。もしかすると、そこへと攻撃が誘導されたのかもしれない。奴の頭はそれだけで完結している可能性がある。


 色々と考えられる可能性はある。


 ……。


 だが、全てが無意味だ。


『叩き潰せば全て終わりだ』

『あらあら? 考察タイムは終わり? それでどうするの?』

 セラフは困ったように笑っている。

『トールハンマーを返さなければ良かったな』

 マップヘッドで戦った時は特殊弾があった。トールハンマーがあればその代わりになっただろう。

『馬鹿なの? その時はヤマタウォーカーとどうやって戦うつもりなの? 今更、仮定の話を持ち出すなんて随分と弱気じゃない。負けそうになって怖くなったのかしら。ホント、お馬鹿さん』

 確かにその通りだ。トールハンマーがあったところでヤマタウォーカー戦でパンドラを使い切って、今より酷い状況になっていただけだろう。


「そろそろお祈りは終わったのかしら? それとも遠隔操作でそちらのクルマを動かそうとしているの?」

 ミメラスプレンデンスが肩を竦める。

「生身でクルマに勝てると思っているのか?」

 クルマの主砲からの一撃は強力だ。だが、こいつには普通に防がれてしまいそうな気がする。

「ふふ。それはあなたが一番分かっているんじゃない?」

 ミメラスプレンデンスが纏っていた狩衣がグニャグニャと形を変え、ぴったりとした、体の凹凸が分かるボディスーツへと変化する。服までナノマシーンで創られていたのだろうか。いや、もしかすると俺たちのようなナノマシーンで体が創られた者たち用の服なのかもしれない。


「どう? 美しいでしょう」

 ミメラスプレンデンスが体の曲線を見せるようにポーズをとる。確かに出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる女性らしい体つきだ。

「それが? 何か戦いと関係があるのか?」

 ミメラスプレンデンスは何も答えない。病んだ瞳で俺を見ている。


 来るっ!


 ミメラスプレンデンスがこちらへと飛び込んでくる。


 奴の右の拳が下から――俺のボディを狙い、迫る。俺はその拳を迎撃するようにナイフを振るう。そのナイフが受け止められる。奴の拳がいつの間にか剣のような形状に変わっている。それは血管の浮き出た肉のような、だが俺のナイフの一撃を防ぐほど硬く――硬質化した(ブレード)だった。


 ミメラスプレンデンスが刃を振るう。俺はそれをナイフで受け止める。弾く。次々と刃が迫る。それを打ち返していく。


 激しいぶつかり合い。


 一撃一撃が重く、速い。人狼化して、その力を借りてなんとか喰らいついている。


 ……こいつは間違いなく強い。


 奴の振るう刃を受け止めることしか出来ない。反撃する暇が無い。


「いつまで持つのかしら」

 ミメラスプレンデンスは楽しそうに顔を歪ませている。


 防戦一方だが、なんとかしのいでいる。だが、その均衡はすぐに壊れた。


 俺の体が人狼から元の姿へと戻る。


 時間切れ。


「あ……」

 今まで感じたことがないほどの強い飢餓感に体の動きが止まる。体中のエネルギーが消えてしまったかのようだ。


 不味い。


 ミメラスプレンデンスの刃が迫る。俺の状態なんてお構いなしだ。


 響く轟音。


 ドラゴンベインの主砲が火を吹き、轟音を響かせ、ミメラスプレンデンスを砲撃する。

「予想通り過ぎてつまらないじゃない」

 だが、その一撃はミメラスプレンデンスの前で止まる。金色に輝く膜がクルマの主砲から放たれた一撃を防ぎきっていた。


 予想していたことだ。特殊弾ならまだしも普通の弾では防がれてしまう。


 ミメラスプレンデンスが蹴りを放つ。その足が消える。狙いは――俺では無い。ドラゴンベインだ。

『はぁ? シールドが』

 セラフの何処か苛々しているような呟きが頭の中に響く。ドラゴンベインのシールドが奴の一撃で砕け散っていた。


 それを見た俺は走る。


「あら? 逃げるつもり」


 終わることの無い湧き出てくる飢餓に耐えながら走る。その俺の後を余裕の表情でミメラスプレンデンスが追いかけてくる。


 俺はナイフを投げる。


「無駄ね」

 その一撃は簡単に避けられてしまう。


 俺が誘導(・・)した先は岩戸の前だ。そこにはあるものが転がっている。

『セラフ』

 それへと投げ渡したナイフがミメラスプレンデンスを襲う。

『ふふん』

 俺がここで倒した四体の人造人間。それをセラフが支配し動かす。


 そう、これなら五対一だろう?


「これで私に勝てるとでも? 時間稼ぎにしてもお粗末じゃない」

 ミメラスプレンデンスが襲いかかってきた四体の人造人間を迎え撃つ。確かに時間稼ぎにしかならないだろう。


 だが、それで充分だ。


 俺は機械の腕(マシンアーム)九頭竜(ハイドラ)を支えとして、右手をミメラスプレンデンスへと向ける。


 狙いを定める。


 人造人間たちがミメラスプレンデンスに取り付き、その動きを止める。ミメラスプレンデンスの足が止まる。


 あんたは俺に見せてくれた。


 その一撃でドラゴンベインのシールドを破壊するのを。

 距離をものともしない一撃を放つのを。


 だから、これは出来るはずだ。


「斬鋼拳、改」

 俺の右拳が消える。その衝撃に俺の体が吹き飛ぶ。


「その程度で!」

 ミメラスプレンデンスが俺の攻撃に気付く。その体が金色の防御膜に覆われる。だが、俺の放った一撃はそれを斬る。奴の防御膜が消える。


 そこで終わってしまう。俺の一撃は奴のシールドを壊すことしか出来なかった。


 中のミメラスプレンデンスは無傷だ。


『ふふん。相変わらずダサい名前』

 だが、シールドは消えている。


 爆発が起こる。


『セラフ、パンドラの残量は気にするな。ありったけを叩き込め!』

 ドラゴンベインによる砲撃が次々と放たれ、いくつもの爆発が起こる。


 閃光と爆音。


 いつまでも続くかと思われるほどの攻撃。


 そして、砲撃が終わる。


『ふふん。生命反応無しね』

 そこには何も残っていなかった。


 俺の右目に映し出されていた赤い光点は消えている。

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― 新着の感想 ―
[良い点] や、やったか!? [一言] たとえボロボロでも最終的に勝てばよかろうなのだー。 ああ、コックローチの服も同じ理屈で直ってたかな? アクシードの技術力が高いのか、セラフが時代遅れなのか………
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