253 神のせんたく38――『勝つさ』
弾幕代わりにミサイルを放ち、ドラゴンベインを急旋回させる。ヤマタウォーカーから距離を取るように逃げながら砲塔を旋回させ、主砲を放つ。
放つ。
放つ。
放つ。
激しく何度もマズルブレーキが前後する。轟音を響かせ、パンドラによって生成した弾丸を放つ。砲撃がヤマタウォーカーのヘッドに命中し、周辺の木々を震わせるほどの衝撃が次々と巻き起こる。
だが、効いていない。
ヤマタウォーカーの頭が生み出している八つのシールドによって全ての砲撃が防がれている。
『パンドラを搭載しているだけはある、か』
今、このドラゴンベインには相手のシールドを貫通するような特殊砲弾を積んでいない。倒すには、地道に攻撃を繰り返し、相手のパンドラを消費させるしかない。
ドラゴンベインを動かし、後退しながら砲撃を繰り返す。上手く木々を利用し、奴をそこに引っかけるように後退する。
ヤマタウォーカーが、その巨体を生かした突進しか攻撃手段を持たないなら、俺は離れて攻撃するだけだ。相手に付き合う必要はない。
狙いを定め、砲撃を続け、ヤマタウォーカーのシールドを削っていく。そして、ついにドラゴンベインの砲撃がヤマタウォーカーの八つの頭の一つを貫通する。ヤマタウォーカーの頭の一つが千切れ飛ぶ。
まずは一つ。
八つの頭それぞれにパンドラを搭載しているのは脅威だが、容量はそれほど大きくないようだ。
このまま距離を取って逃げながら戦えば勝てる。さすがはドラゴンベイン――戦うための車だ。
『ふふん。どうやらお前の想いが相手に通じたみたいね』
セラフが呆れたような声でそんなことを言っている。
『どういうことだ?』
ヤマタウォーカーの動きが止まる。猪のようにただ突進するのは飽きたようだ。何かをするつもりかもしれない。だが、俺は気にせず砲撃を続ける。奴が動きを止めた今はチャンスだ。止め処なく弾丸を生成し砲撃を続けているため、こちらも少なくない量のパンドラを消費している。だが、すでに日は昇っている。パンドラは回復し続けている。消費が回復を上回っている状況だが、今は攻撃をするべきだ。
二つ目の首が飛ぶ。
二つの首を失ったヤマタウォーカーだが、それを気にする様子は無い。痛みを感じないからだろうか、ドラゴンベインからの砲撃を受けてもそれを無視している。
奴はマイペースにドリルのようになった尻尾を持ち上げ、地面に突き刺し始めた。何かをやろうとしている。だが、動きを止めた今がチャンスなのは変わりない。俺はこのまま砲撃を続ける。
撃つ。
撃つ。
撃つ。
狙い、撃つ。
一つの頭に集中し、攻撃を続ける。
そして、三つ目の首が飛ぶ。
だが、それと同時に八つあったドリルのような尾、その全てが――最後の一つが地面に刺さり終わっていた。
残った五つの頭、その口が開く。
何か……来る。
そして、開かれた口からエネルギーが放たれる。レーザーのようなエネルギーがドラゴンベインに襲いかかる。ヤマタウォーカーはドリルのような尾をアンカーのように地面に打ち付け、固定砲台と化していた。
五つの頭が口からレーザーのようなエネルギーを吐き続け、縦横無尽に動いている。その全てを回避することは出来ない。
ドラゴンベインのシールドが攻撃を防ぐ。だが、ヤマタウォーカーの五つの口から常に吐き出され続けるエネルギーがドラゴンベインのシールドを削り続けていた。パンドラの残量がみるみるうちに減っていく。
ヤマタウォーカーはそれぞれの頭に無限のエネルギーを生み出すパンドラを搭載している。奴のエネルギーが切れるよりもこちらの消耗の方が早いだろう。
立場が逆転した。
俺は砲撃を続ける。それはパンドラの消耗を早めるだけだ。だが、攻撃の手を止める訳にはいかない。何もしなければ、シールドを破られ、ただ破壊されて終わりだ。
奴の頭の数が減れば逆転出来るはずだ。
砲撃を続けた甲斐があったのか奴の四つ目の首が飛ぶ。これで半分。だが、こちらのパンドラは残りわずか――数分しか持たないかもしれない。
残り四つ。
……。
『セラフ、任せた』
『お馬鹿なお前に聞くけど、勝てるの?』
セラフの言葉に俺は思わず苦笑しそうになる。今回のことはセラフにとっても予想外だったはずだ。ここを支配していたノルンの端末を攻略し、後はボーナスステージのようなものだと思っていたはずだ。実際、俺もそうだ。何の苦労もなく、ここを守っていたヤマタウォーカーのパンドラを拝借し、それで終わりだったはずだ。
予想外の要因があった。
ヤマタウォーカーが暴走していた。
ボーナスステージだと思っていたら、間抜けが引っ掛かる罠に突っ込んでいた……そんな感じだろう。
だが。
『勝つさ』
俺は言い切る。
ここはセラフに任せた。後は俺が動くしかない。
俺はハッチを開け、外に飛び出す。飛び交う砲撃とエネルギーの熱を肌に感じながら駆ける。
生身の俺がこの飛び交うエネルギーに晒されれば、それこそ一瞬で骨も残らずお陀仏だろう。そこには確実な死が待っている。
それでも俺は走る。
獣の力を身に宿し、飛ぶように駆けていく。エネルギーの波と波を躱し、走る。
そして辿り着く。
ヤマタウォーカーの背面。
俺は地面に突き刺さったその尾の一つに張り付く。
いけるか?
俺が俺のままだったら無理だっただろう。
俺は首を横に振る。
尾の一つに手を回す。そして、そのまま持ち上げる。
今の俺なら出来るはずだ。
いける!
引っこ抜く。
尾の一つが抜け、ヤマタウォーカーがバランスを崩す。頭から吐き出している攻撃が乱れる。
俺はもう一つの尾に張り付き、それも引き抜く。
ヤマタウォーカーはこの尾をアンカーにし、攻撃している。それを引き抜けばバランスを崩すはずだ。攻撃を続けることは出来ないだろう。
……。
これはまだ前哨戦だ。ここで負ける訳にはいかない。
ウズメ「ガムさんが毛深くなった!」
そして放置される。




