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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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249 神のせんたく34――「これで八つの関門は終わりだな?」

『ふふん』

 セラフの笑い声が頭の中に響く。

『上手くいったのか?』

『当然でしょ。どうやら今回のメインディッシュになってくれるようね』

『間に合うのか?』

『ふふん』

 セラフの得意気な笑い声が俺の頭の中に響く。答えるまでもない、ということか。


 俺は俺で目の前のことを終わらせよう。


「おいおいおいおいー。なんなんだよ、なんなんだよ!」

 冴えないおっさんが頭を抱えて喚いていた。まだこのおっさんが残っている。俺はそんな泣きそうな顔で喚いているおっさんへと近寄り、そのボディに拳を叩き込む。俺の存在に気付いていなかったのか、喚くことに夢中になりすぎていたのか、避けようとすらしなかったおっさんの体がくの字に曲がり、白目を剥いて倒れた。


 俺はまず動かなくなっている烏帽子の女を見る。次に浮遊してこちらを撮影しているカメラを見た。

「これで八つの関門は終わりだな?」

 下手をすればミセンを生け贄にしたい連中の力でうやむやにされそうだが、こうやって映像に残し置けばそれも出来ないだろう。


 しばらくその場で待っていると新しい烏帽子の女がやって来た。これで事態を収拾してくれるだろう。


「この勝負、どうなる?」

 新しくやって来た烏帽子の女は俺を無視して、倒れ動かなくなっている他の烏帽子の女たちを助け起こしている。再起動させているのかもしれない。動かなくなった人造人間を放置する訳にはいかないのだろう。


 俺は肩を竦める。


「もう一度、聞くぞ。どうなるんだ?」

 倒れていた連中を助けていた烏帽子の女がこちらを見る。その顔にはなんの表情も浮かんでいない。能面のような顔だ。

「無効試合になるだろう。八つのかんもん自体が無かったことになるかもしれない」

 俺は予想通りの答えに苦笑する。


 その方が都合が良いのだろう。


「見ていなかったのか? ちゃんと相手の守人を倒しているだろう?」

 俺は白目を剥いて倒れているおっさんを指差す。

「しかし、それは、は、は、は……たしかにそのとおり、だ」

 烏帽子の女が俺の言葉に頷きを返す。


『セラフか』

『ふふん』

 セラフが干渉したのだろう、得意気に笑っている。


 あまり派手に動けば痕跡を残し、マザーノルンに怪しまれてしまう。だが、これくらいなら問題ないようだ。


 これで八つの関門も終わりか。


「それでは、ここまでの得点を発表する」

 倒れていた烏帽子の女たちを全て助け起こした新顔の前に浮遊していたカメラが集まる。どうやら、この新顔が発表もやってくれるようだ。


「まずはヤハスガ、0点。合計25点」

 護衛が居なくなってしまったヤハスガは何も言わず、ただ地面を見ていた。


「カラスガ、16点。合計41点」

 篝火に照らされたカラスガの顔は諦めに満ちていた。まだ最後の目覚めの唄が残っているのだが、勝てないと悟っているのだろう。


「サンコ、47点。合計80点」

 育ちの良さそうなサンコは、何故か大きなため息を吐いていた。ミメラスプレンデンスが護衛になりすましていたことに関しては何も思っていないようだ。


「ミセン、58点。合計98点」

 ミセンは悔しそうに扇を両手で持ち、そのままへし折っていた。なかなかの怪力だ。


「ウズメ、100点。合計119点。八つのかんもんを満点で攻略したのは史上初の快挙になる」

 烏帽子の女の発表が終わる。


 ……史上初だったか。


 俺たちは満点で八つの関門を突破した。これで俺が出来ることは終わりだ。後は最後の目覚めの唄が残っている。ウズメ次第で生け贄が決まる。


 最後の目覚めの唄は住民一戸につき二点だ。この集落には226戸ある。最後だけで452点。場合によっては逆転されてもおかしくない。


 俺は離れたところに居るウズメを見る。ウズメは担架に乗せられたククルに付き添っている。ククルは顔面を潰され、両腕を失った状態でも生きていた。実験の結果、生命力も強化されていたのかもしれない。


「それでは最後の舞台へと案内します」

 発表を行っていた烏帽子の女が俺たちを見回し、歩き出す。ククルに付き添っていたウズメも頷き、俺の方へと帰ってくる。


「ガムさん、おまたせしました」

「もういいのか」

「はい」

 ウズメが頷き歩き出す。


 俺は空を見る。


 いつの間にか夜の闇は薄くなり、白んできている。朝日が空を暁に染めようとしている。


 夜明けが近い。


 朝の霧に包まれた山道を歩く。


 山林に小さな鳥居と開けた社が見えてくる。ここが目覚めの唄を発表する場なのだろう。


 烏帽子の女に案内され、ウズメたちが社に用意された舞台に上がる。


 そして歌い始める。


 ウズメたちの吐き出す息が白い。ここは山頂が近い。標高はかなりのものになっているだろう。もしかするとマイナス近い気温なのかもしれない。だが、少女たちはそんな寒さをものともせず力強く歌う。歌っている。


 最後の目覚めの唄が始まった。


「――は、はれて」

「ゆれる」

「たたえ」

「めざめ」

「かなた」

「あらたなる」

「あすを」


 静かな山林に少女たちの歌声が響き渡る。


 ウズメも問題なく歌えているようだ。


 そして終わる。


 少女たちの合唱はすぐに終わった。


『一人一人が歌を披露するのかと思ったが合唱とはな』

『時間が押しているからでしょ』

『そういうものなのか』

『そういうものでしょ』

 俺は肩を竦める。


 だが、これで全ての試練が終わった。


 後は結果発表を待つだけだ。


 これで誰が生け贄になるか決まる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後のさいてん! [一言] せっかくのクライマックスに巻きが入ってしまったのだった。 最後だけ配点が高いのってクイズ系バラエティとかだと鉄板だけども、やきもきするなあ。 あとはセラフ監督…
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