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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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244 神のせんたく29――『セオリー通りにやるしかないか』

「まずは俺からか」

 俺はわざとらしく威嚇するように肩を回す。


「ガムさん」

 ウズメが俺を見る。俺は頷く。

「大丈夫だ。ウズメはせれくしょんの最後――目覚めの唄の練習でもしながら安心して待っていてくれ」

 多くの言葉は要らない。

「はい、おねがいします」

 ウズメが大きく頷く。


『あらあら。随分と格好いい台詞だこと』

『そうだろう?』

 俺は口角を上げながら、ゆっくりと前に出る。


 これからカラスガの護衛と戦うことになるのだが、特に戦いの舞台となる範囲は決まっていないようだ。この広場一帯が戦場だ。銃器などの離れた場所から攻撃が出来る武器を持っていれば、逃げながら戦うことも出来るだろう。だが、ここは武器の持ち込みが禁止されている。自ずと、相手を倒すために向き合い、ぶつかり合うことになる。


 俺は、俺の背後でのんきに漂っているカメラを見る。俺の行動は逐一監視され、村人たちに見られていることだろう。この次のためにも観衆が敵に回るような戦いは出来ない。


 カラスガの護衛の男がぬらりと歩いてくる。大きい。俺の倍近くは身長があるように見える。


「あんたがあいてかぁ」

 大男がのんびりとした口調で喋る。

「ああ」

 俺は、目の前に立つ大男を見上げる。背が高いというのはそれだけで大きなアドバンテージだ。


 俺は離れた場所でこちらを見守っている烏帽子の女を見る。

「それで、いつ試合開始すればいいんだ?」

「し合いはすでにはじまっています」

 俺の言葉に烏帽子の女がため息を吐く。


 始まっている?


「よそみしているとしぬだあよ」

 そんな言葉とともに俺の頭上から暴風が落ちてくる。


 それは大きな手のひらだった。


 ――単純な力任せによる叩きつけ。だが、その一撃は風を切り裂き、その圧だけで俺の皮膚をビリビリと震わせている。


「わざわざこれから攻撃しますと教えてくれるなんて、随分と親切だな」

 俺は頭上から迫る手のひらを紙一重で回避する。その一撃が地面に叩きつけられ、爆発するように土砂を吹き上げる。俺はとっさに両手を交差し、土砂から身を守りながら後方へと飛び退く。


『おいおい、普通の人間に出来る芸当じゃないぞ。機械(サイバー)化でもしているのか?』

『ふふん。この個体はそうなるように調整された結果でしょ』


 調整?


 結果?


『人体実験の結果だとでもいうのか』

『ふふん、そうね。隔離されたこの村で交配を重ねて特殊な個体を生み出したんでしょ』

『何の意味、何の目的があったのか知らないが、ここのマザーノルンの端末(むすめ)はろくでもないことしかやっていないようだな』

『あら、怒るの? それなら後で好きなだけ殴ればいいんじゃない?』

『ああ、そうしよう』


 大男が両手をぶんぶんと振り回し襲いかかる。その風圧だけで俺の顔の皮膚が震え、歪む。


 恐ろしい力――恐ろしい能力だ。


 俺は一歩踏み込み、指を曲げ、大男へと掌底を放つ。その一撃が、大男の足に浸透する。


 ……。


「きたえてるから、きかねえだよ」

 だが、止まらない。大男は暴走機関車のように両腕を振り回しながら、俺に襲いかかる。先ほどの一撃など何も無かったかのようだ。


『効いていない、だと』

『効いていないみたいね。打撃に強い体なんでしょ』

 セラフはのんきな声でそんなことを言っている。


 打撃が効かない? そんな奴には内臓まで浸透する一撃を叩き込んで中から壊すのが一番なのだが――俺は大男を見上げる。残念なことに俺の背の高さでは、この大男の内臓まで手が届きそうにない。なんとか届いたとしても、そんな無理した状態では中まで浸透させるほどの一撃を叩き込むことは出来ないだろう。


『セオリー通りにやるしかないか』

『あらあら、随分と余裕ね』

 俺は大男の無造作に振り回された一撃を躱しながら肩を竦める。

『ガロウやコックローチと比べれば、な』


 そして、そのまま大男の背後へと回り込み、その膝裏へと蹴りを放つ。人間の膝は曲がるように出来ている。どんなに鍛えていようが、どんなに丈夫だろうが、そこに不意を突かれた一撃を受ければ――曲がる。


 意識外の一撃を受けて大男が膝を付き四つん這いに倒れる。


 ちょうど良い高さだ。


『セラフ、一応、こいつは生身なんだよな?』

『ええ、そうみたいね』


 俺はちょうど良い高さの大男の顔面、その顎に掌底を放つ。大男の顔が傾き、脳が揺さぶられる。


 大男が白目を剥き、そのままどさりと倒れる。さすがに脳は鍛えることが出来なかったのだろう。


 これで終わりだ。


「戦闘不能にした。これで俺の勝ちだろう?」

 俺は烏帽子の女を見る。

「みとめよう。ウズメの勝利だ」


 俺の勝ちだ。


 これで最低でも10点は貰えることになる。


 最悪、ミセンたちに負けたとしても9点差で済ませることが出来るだろう。


 ……まぁ、負けるつもりはないが。


「つぎはミセンとサンコの戦いだ」

 烏帽子の女の言葉にあわせて護衛たちが前に出る。


 ミセンの護衛――手練れの老人と翁面をつけた、ウズメの守人だったククル。

 サンコの護衛――戦闘は出来そうにない冴えない中年と分厚く白粉(おしろい)を塗りたくった女。


 二体二の戦い。二人とも戦える分、ミセンの護衛の方が有利だろうか。


「かぁ、まじかよ。お嬢もついてねぇ、なんで守長(もりおさ)と俺たちなんだよ」

 冴えないおっさんが悪態を吐き、それを聞いた老人が楽しそうに笑っている。

「ふーん。厄介なのはあっちの老人なの?」

 白粉の女が冴えないおっさんに確認する。

「当たり前だろ。俺たち守人の師匠だぜ」

「ふーん」

「お、おい。早まるなよ、俺が何か策を考えるから……」

 冴えないおっさんが白粉の女に話しかける。だが、その時には、もう動いていた。


 白粉の女が動き――そして、老人の生首が宙を舞っていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんてこった! [一言] ガム君は順当に楽勝だったけど、これは予想外。 白粉の女は部外者なのか。顔を隠してるのかな? 勝ち抜き戦だから、勝った方とは当たるけど……
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