238 神のせんたく23――『こいつらが悪魔か』
扉の先は六角形になった何も無い部屋だった。
いや、何も無い、ではないか。
扉がある。
部屋に入った瞬間、背後の扉が自動的に閉まる。振り返り確認する。こちら側からではただの壁にしか見えない。どうやら一方通行の扉だったようだ。
俺は改めてこの部屋の扉を見る。俺の前方に三つの扉が見える。
前に進むしかない三択か。
右の扉を選び進む。
次の部屋は、右手と左三つに扉があった。正面と後ろにだけ扉がない。これは右手を選べば後退することになるのだろう。そういうルートもありなのか。油断すればぐるぐると同じ場所を回ることになるかもしれない。
『ふふん、ありでしょ。地図をよく見たらどうかしら、お馬鹿さん』
セラフの俺を馬鹿にしたような声が頭の中に響く。
複雑な――方向感覚が狂いそうな迷路だが俯瞰することが出来れば迷うことはない。
俺はとにかく扉を抜けて、進む。
「ガムさん……?」
ウズメが何処か不安そうな顔で俺を見る。俺が適当に進んでいると思ったのかもしれない。
「大丈夫だ、問題ない」
「は、はい。わかりました」
ウズメは何処かホッとしたような顔で頷く。
『あらあら、随分と信頼されているじゃない』
『そうだな』
まだ出会って一日も経っていないのに、我ながら随分と信頼されたものだと思う。その信頼に応えるためにも俺は俺の出来ることをしよう。
『ところで、あくまで参考として聞くんだが、この八つの関門を誰も攻略が出来なかったらどうなるんだ?』
『ふふん、単純に八つの関門の得点がゼロで次に進むだけでしょ』
なるほど。
全員が失格になって、今回の生け贄は無しになりました、とはならない訳か。必ず誰かが生け贄にはなる。失格というのは、あくまで八つの関門を失格というだけで、生け贄候補から外れる訳ではないということか。
得点がマイナスになる部屋を避けて扉を抜ける。扉の内の一つは必ず安全な部屋に通じているようだ。扉のうちのいくつかは一方通行になっているが、進むルートを間違えたからといって得点がマイナスになる部屋に進むしかない、ということは無いようだ。
意外とヌルい。
俺はこちらからは少し離れ、上空を漂っているカメラを見る。村人が観戦して楽しむためなのだから、これくらいでちょうど良いのかもしれない。
だが、だ。
いくら難易度が低いと言っても、あっさりとミセンが攻略したのは異常では無いだろうか。俺たちは答えを知っていて、最短ルートを選んでいる。出遅れた分や戦いに巻き込まれた分があったとしてもここまで追いつけないものだろうか。
連中も答えや攻略法を知っていたとしか思えない。
『ふふん、それは当然でしょ』
『どういうことだ?』
セラフが得意気に語り出す。
『それはあれを生け贄にすると最初から決まっていたからでしょ』
……。
「はぁ?」
思わず声が出る。
「どうしました?」
俺の突然の声に抱えているウズメが反応する。
「いや、なんでもない」
なんでもないことはないが、なんでもないだろう。
『それで、どういうことだ?』
『言葉通りの意味しか無いでしょ』
最初から生け贄が決まっていた?
つまり、これは出来レースということか。
笑うしかない。ウズメが不審がるといけないので本当に笑うことはないが、そうとしか言えない気分だ。
なるほど。護衛に熟練者のような爺さんがついてるのも、それでか。
達人が護衛、さらに運営側も生け贄にするために動いている、か。
これは強敵だ。
だが――俺はお遊びだろうと、やると決めた以上、ただ負けるつもりはない。
『ふふん、頑張りなさい』
『ああ』
扉を抜ける。これでゴールの扉はすぐそこだ。次がゴールの扉のある部屋になる。
と、その時だった。
『なんだ、と……?』
赤い光点が動いている。部屋間を自由に動き徘徊していた二つの悪魔たちがゴールの扉の前に集まろうとしていた。
攻略させる気がないのか。
『セラフ』
『ふふん、私がやったと疑っているの? 馬鹿なの?』
分かっている。セラフがやった訳ではないだろう。セラフが攻略を邪魔する意味が無い。愉快犯的な、俺を困らせてやろうと行った可能性もあるが、それにしては随分と直接的で杜撰な行動だ。セラフらしくない。
『ふふん、分かっているじゃない。こうなるように最初から設定されていたんでしょ』
セラフが得意気に説明してくれる。
……困ったな。
悪魔たちが部屋から動くのを待つか?
いや、駄目だな。
どれだけ居座られるか分からない。ゴールの扉の前から動かない可能性だってある。
俺は目の前の扉に手をかける。
この扉の先に二体の悪魔が待っている。
やれやれだ。
ああ、やれやれだ。
セラフの説明を思い出す。
悪魔と呼ばれる触れられたらマイナス1点になる存在が……。
つまり、そういうことだ。
触れられなければいい。
それだけだ。
俺は扉を開ける。
そこで待ち構えていたのは、棘付きの棍棒を持った二体の鬼のような機械だった。
『こいつらが悪魔か』
『ふふん、そのようね』
こちらに気付いた二体の悪魔が棘付きの棍棒を振り回し襲いかかってくる。
触れられたら?
殴られたらの間違いだろう。
「ガムさん」
「ゴールは連中の後ろだ。しっかり掴まっていてくれ」
「はい」
ウズメがぎゅっと強く俺に抱きつく。
子どもが子どもを抱えているような滑稽な姿だが、これくらいのハンディキャップでちょうど良い。
では、攻略させてもらおうか。
木曜、土曜の更新はお休みになります。
次回の更新は1週間後の2021年8月17日(火)の予定になります。
2021年12月19日修正
随分と信頼されいる → 随分と信頼されている




