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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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233 神のせんたく18――「何処かのクロウズのクルマがビーストを退治しているのだろうさ」

 三対一。


 こちらを取り囲んだ三体のダチョウから、次々と繰り出される蹴りを俺は躱す。ウズメはこちらの首が絞まりそうな勢いで、俺から振り落とされないようにしっかりと抱きついている。これなら少々暴れても、ウズメが俺の背から落ちることはないだろう。


 だが……。


 ダチョウの蹴りの勢いが増していく。こちらの逃げ道を塞ぐように前から、横から、後ろから、蹴りが飛んでくる。


 躱しきれない。躱すための逃げ道が塞がれている。


 俺はとっさに手を使って蹴りを逸らし、捌く。


『くっ、重い』

 このダチョウ、ドラゴンベインに乗った状態では楽勝だったビーストだ――が、生身ではこれほど苦労するとは思わなかった。武器もなく、三対一という状況も関係しているのだろう。ウズメというハンディキャップがある分、さらに悪い状況か。

『あらあら、あらあら!』

 セラフのこちらを馬鹿にしたような声が頭の中に響く。思わずため息が出そうになるが、今の状況を考えてグッと我慢する。


 そして、一歩、いや、二歩、前に踏み出す。一歩だけでは、背中のウズメに怪我をさせてしまうかもしれない。ダチョウの懐に入り込むために、俺は大きく踏み出す。踏みだした、その勢いのまま拳を下から上に突き上げる。


 目の前のダチョウの体が数センチほど浮かび上がる。


 足が地面から離れている!


『これで踏ん張れないだろう?』

 浮かび上がったダチョウの体を引き倒す。ダチョウが地面に転がり、暴れる。その起き上がれない様子を横目に見ながら、すぐに振り返る。こちらへともう一体のダチョウの蹴りが迫っている。


 !


 俺はそのダチョウの蹴り足に手を置き、自身の体を跳ね上げる。ウズメは……しっかりと掴まっている。


 そのままダチョウの背へと乗り、その首をへし折る。細く長いだけあって簡単に折れる。


 これで二体を無効化した。


 残りは一体だ。


 俺は右目に映し出されている八つの光点を見る。八つの光点が動き出している。だが、こちらにではない。何か新しい獲物を見つけたかのように、こちらからは離れ始めている。


 あの逃げだした連中は結果として良い囮になってくれた。


 感謝しよう。


 俺は、最後の一体がこちらへと放ってきた蹴りを、上体を反らして躱し、そのまま背から背へと飛び乗り首をへし折る。


 終わりだ。


 そして、起き上がれず地面をくるくると回って暴れていたダチョウの首も踏み潰し、へし折る。


「終わったぞ」

 俺は背中のウズメに話しかけ、降ろす。

「よかったです」

「ああ、なんとかなって良かった」

 俺はウズメを見て肩を竦める。


「はい。ねえさまがぶじ、にげられてよかったです」

 ウズメが微笑む。


 俺はその言葉に思わず息をのむ。そして、ゆっくりと小さなため息を吐き出す。


 そうか。ウズメはそう思うか。


『セラフ』

『あらあら、あらあら!』

 セラフのこちらを面白がるような笑い声が頭の中に響く。


 俺はもう一度――今度は大きくため息を吐く。


 そして木々が揺れるほどの轟音が響き、何処かで爆発の閃光が瞬く。


「ガムさん、これはなにが起きているのでしょう? だいじょうぶでしょうか?」

 ウズメが不安そうにキョロキョロと周囲を見回している。俺は痒くもない頬を掻く。

「何処かのクロウズのクルマがビーストを退治しているのだろうさ」

 こんな誰も足を踏み入れない禁足の過疎地に、たまたま侵入していたクロウズが居たなんて! そしてたまたま集まっていたビーストを狩るなんて! 偶然とは本当に恐ろしいものだ。


『そう思うだろう?』

『ふふん、お馬鹿ね』

 セラフの言葉に俺は肩を竦める。


「ウズメ、戦闘で無駄に時間を取られてしまった。掴まれ、急ぐぞ」

「は、はい!」

 俺は改めてウズメを抱え、走る。


 山道を走る。


 そして、篝火の明りと、それに照らされた城壁が見えてきた。


 あれが八つの関門とやらの試験場なのだろう。


 城壁の先に門が見えてくる。門には烏帽子をかぶった女の姿も見える。


『それで次はどんなことをやらされるんだ?』

『ふふん、お前の得意分野だから楽しみにしていなさい』

 セラフの勿体ぶった言葉にため息が出そうになる。ウズメを抱えていなかったら、まず間違いなく、俺は肩を竦めていただろう。


「止まりなさい」

 烏帽子の女が俺たちに声を掛けてくる。

「ここが八つの関門の会場でいいのか?」

「そうだ。今はこうほしゃのサンコが第一のかんもんに挑んでいる。おわるまで待ちなさい」

 なるほど。


 どうやら関門には一人ずつしか挑めないようだ。となると……やはり先着順ということが重要だったか。


「ちなみに俺たちは何番目だ?」

「なんばんめとはどういういみだ?」

 烏帽子の女が首を傾げている。俺はウズメを降ろし、肩を竦める。

「俺たちがここに到着したのは何番目だ?」

「それならよんばんめだ」


 そうか。四番目か。


 直線ルートを全力疾走で来たつもりだったが、それでも四番目か。


 先行しているのは扇を持ったミセン、カラスガ、それと今、第一の関門に挑んでいるサンコ、か。俺たちを見捨てて逃げたヤハスガはリタイアしたか……来たとしても、かなり後になるだろう。


 ……。


 さて、どうする?


 ……。


 他に出来ることもない、か。


 仕方ない。


 順番が回ってくるまでゆっくりと、ただ、待つか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 手番が来るまで一休み! [一言] 「ガム君が」使った場合はルール違反~。 すぐ聞いてくれるセラフも優しいですねw
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