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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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228 神のせんたく13――『安っぽい挑発だな。いいだろう、とことんやってやるさ』

 ウズメはのんきに並んでいる衣装から服を選んでいた。並んでいる衣装の殆どが着替えるものではなく、上から羽織るものだったのは、何がとは言わないが、幸いだろうか。


『それで?』

 俺はセラフに問いかける。

『ふふん、何が言いたいのかしら?』

『……どうするつもりだ』

 ウズメを選んだのは俺だ。セラフは違う方法でせれくしょんに潜入することを考えていたはずだ。だが、セラフは俺がウズメの護衛になることを止めなかった。


 つまり、手があるはずだろう?


『ふふん』

 セラフは得意気な様子で笑っている。


『ウズメは他の候補者に比べて、年齢もそうだが、せれくしょんについてあまり知らないように見えるが、どういうことだ?』

 他の候補者に比べてかなり不利な立場だと言えるだろう。だが、何故、他の候補者とそんな差が付いている? これは最初から生け贄が決まっている出来レースではないのだろう?

『あらあら。あーらあら、自分で答えを言っているのに馬鹿なの?』


 答え?


 ……年齢。


 なるほど、そういうことか。


『ふふん、その通り。これ(ウズメ)は四人の生け贄候補に何かあった時のための予備ってこと』


 これから次のせれくしょんのために教育が始まるのか、それとも予備だから意図的に教育を受けさせて貰えなかったのか……。


『どうするつもりだ?』

『ふふん、これ(ウズメ)が勝とうが負けようがどうでもいいでしょ』

 セラフはこちらを馬鹿にした様子で笑っている。


 俺は肩を竦める。


 なるほど。せれくしょんに参加した時点で目的は達せられていたようだ。後はこのくだらないイベントが終わるまで乗り切れば良かったのだろう。


 セラフは勝つことにこだわっていなかったようだ。


 だが……。

『それでも、勝てるなら勝ちたいだろう?』

 負けてもいいから負けました、なんてかっこ悪いだろう?

『ふふん。言うじゃない』

『言うさ。セラフ、お前ならウズメを導けるだろう? それともやる前から無理だと言うのか? 人工知能(かみさま)は分の悪い賭けはしないつもりか?』

『とーっても、安い挑発。馬鹿なの? 馬鹿なんでしょ。でも、いいわ。乗ってあげるから』

 セラフが任せなさいと言わんばかりに笑う。

『今回はお前を――天の声(セラフ)を頼りにするさ』

『ええ、任せなさい』


 すぐに俺の右目に指示が――映像が映し出される。


 表示される二つの選択肢。


『これをやれと言うのか?』

『あら、言いだしたのはお前だと思ったけど。ふふん、無理してやらなくてもいいのだけど、それってどうなのかしら?』

『安っぽい挑発だな。いいだろう、とことんやってやるさ』


 俺は衣装を選んでいるウズメへと近寄る。

「あ、ガムさん」

「これを着るといい」

 俺は黄色い天女の羽衣のような衣装を選び、ウズメに手渡す。


『あらあら、そっちを選ぶの。もう一つの方が勝率は高いのに』

『無理に神話をなぞる必要はないだろう?』

『神話? 何を言っているのやら』

 セラフが選ばせようとしていたもう一つの衣装に関しては無視する。こんな幼子が着るような服ではない。


「あの、ガムさん。どうやって着たらよいのか……」

 俺は顔に手をあて、天を仰ぎ見る。そして、ウズメに気付かれないほど小さくため息を吐く。

「分かった。俺が手伝う」

 ご丁寧に着付けの方法が右目に表示されている。セラフの優しさに涙が出そうだ。


『カスミが居れば――いや、お前の人形があれば良かった』

『ふふん、さすがに、今、運営として動いている端末を人形として使うのは不味いから。それくらいは分かるでしょ』

 そんなことでこの世界の支配者(マザーノルン)に目をつけられれば、なんのためにここに残っているのか分からなくなる。それくらいは俺でも分かる。


『もう領域は手に入れている訳だしな』

『よく分かっているじゃない』

『ここにあるパンドラを手に入れようと言いだしたのはお前だけどな』

『そうとも言うわね』


 ……。


 ウズメの着付けが終わる。


 次だ。


「ウズメ、奉納の舞いに関してだが、基本的には四パターンだ。俺が見本を見せるから覚えてくれ」

 俺の言葉を聞いたウズメが驚き、間抜けな顔を見せる。

「俺が舞いを知っている理由が聞きたいのか?」

 ウズメは驚いた顔のまま何度も頷いている。

「言っただろう、神様と知り合いだって。驚いている時間は無いぞ」

 残り時間は二十分ほどしかない。どうしたって付け焼き刃になってしまうが、何もやらないよりは良いだろう。


 ……考えている時間も悩んでいる時間も勿体ない。今は一分一秒を争う。


「わかりました」

 ウズメが強く頷く。やる気は充分なようだ。


「まずは上、このポーズだ。次に下、そして、左、右。この四パターンを組み合わせる」

 俺は右目に表示されているポーズを実演していく。


 まさか俺が巫女の舞いを実演してみせることになるとは思わなかった。この俺が見ている映像をそのままウズメに見せることが出来れば良いのだろうが、無理なのだから仕方ない。


 受け入れるしかないだろう。


 コーチ役の俺自身が付け焼き刃だが、出来ることを出来るだけやるしかない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 出たとこ勝負だ! [一言] 安い挑発を互いに高値で買ってゆくコンビ。景気がいいw 幼女ストリップ事案は華麗に回避されたのだった。 やるだけやって、あとはウズメ次第ですねー。
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