227 神のせんたく12――「ここの神様とは知り合いだから心配しなくていい」
「それでどうなんだ?」
言葉を失ってしまったかのように何も喋らない連中にもう一度話しかける。
だが、反応は無い。連中もどうして良いのか分からないようだ。
と、その時だった。
「じかんが押している。よい、みとめよう」
何処に隠れていたのか本殿の方から烏帽子をかぶった女が現れ、そう告げた。
誰だ?
『誰だか分からないが、どうやら認められたようだな』
『ふふん、当然でしょ』
俺はセラフの言葉に納得する。
改めて烏帽子の女を見る。無駄に整った容姿の神職のような女。
『なるほど。もしかしなくても、あの女、人造人間か』
セラフは俺が参加が出来るように、ちゃんと前準備をしていたという訳か。運営側とグルだというのはやりやすくてよい。
「これはわたしのやるべきことです。ガムさんにきけんとめいわくがかかります」
しかし、肝心のウズメは、俺の方を見て、絞り出すような声でそんなことを言っていた。周りが認めてもウズメが認めないなら意味が無い。
「俺には俺の都合がある。気にしないで任せてくれ」
「でも……」
「ここの神様とは知り合いだから心配しなくていい」
俺は片目を閉じて笑いかける。
「わかりました。お願いします」
ウズメが頭を下げる。
『ふふん』
『頼りにしているよ、神様』
俺は得意気に笑っているセラフにお願いしておく。
ここの領域は支配した。だが、だからといってなんでも出来る訳では無いだろう。表だって目立ったことをすれば、マザーノルンに俺たちのことを知られてしまう。マザーノルンの力がどの程度かは分からないが、この世界を支配している仕組みだ。油断はしない方が良いだろう。今はまだ静かに行動すべきだ。
そんな中で俺が得られた恩恵はこのイベントの裏側――情報を入手出来る程度か。今回のようにあってもおかしくない程度、少しだけ有利に働きかけるくらいなら出来るだろう。それだけでも大きく違うはずだ。
「それでは、せれくしょんを執り行う。まずは、ほうのうのまいからだ」
烏帽子の女が俺たちを見回し告げる。
ほうのうのまい?
舞いを奉納するという意味だろうか。
巫女と護衛たちがぞろぞろと本殿の方へと歩いて行く。と、そこで俺はこちらに向けられた視線を感じた。見れば、巫女の一人――扇を持った巫女が睨むような鋭い目で俺を見ていた。
とりあえず手を振り返す。
効果は抜群だ。扇を持った女が目を三角にし、怒りで顔を真っ赤に変える。扇の巫女は俺の反応にプリプリと怒っているようだ。だが、そんな巫女も護衛になだめすかされ、引き摺られるように本殿の中へと消えていく。時間が押しているのだろう。
にしても俺を睨み付けるほどの恨み、か。もしかすると、先ほど倒した筋肉野郎が扇の巫女の護衛の一人だったのかもしれない。
その護衛の筋肉野郎は白目を剥いたままの状態で放置されていた。誰も助け起こそうとしていない。
俺は筋肉野郎を担ぎ上げ、本殿横の邪魔にならない場所に横たえさせる。筋肉野郎は随分と重かった。
『こいつが武器の持ち込みは禁止だと言っていたが機械化はどうなんだ?』
『バレなければ問題ないでしょ』
『そういうものか』
『そういうものでしょ』
機械化が有りなら、武器の持ち込みが有りと変わらない。
俺は左腕を触る。機械の腕九頭竜――今の服装ならバレることは無いだろう。変な手袋をしているくらいにしか思われないのではないだろうか。だが、禁止されているのなら、バレないように、その機能は極力使わない方が良いだろう。
「ガムさん」
ウズメが心配そうな顔で俺の方を見ている。
「力は示した。まぁ、大丈夫だろう」
俺はウズメを安心させるように笑いかける。
さあ、俺たちも本殿に入ろう。
本殿に入ると、そこには先ほどの烏帽子の女とはまた違う種類の烏帽子をかぶった、のっぺりとした顔の女が俺たちを待っていた。この女もオフィス職員の人造人間だろう。
……いや、オフィス職員というよりは祭殿の関係者と言った方が良いのだろうか。
「ひかえしつにご案内します」
整っているがのっぺりした顔の女が俺たちを案内する。土足のまま付いていって構わないようだ。どうやら、ここに靴を脱ぐような文化は無いらしい。
「こんかいのすけじゅーるは、ほうのうのまい、八つのかんもん、めざめのうたとなっています」
のっぺりとした顔の女が俺たちを控え室に案内しながら、せれくしょんとやらのスケジュールを教えてくれる。
スケジュール? どうにもお遊びでやっているような……そんな、おちゃらけた雰囲気しか無い。とても人死にが出るような生け贄の儀式とは思えない。
「それでは三十分後におよびします。それまでに着替えをすませてください」
案内された個室にはいくつもの衣装と化粧道具が並べられていた。ここで奉納の舞いを行うための準備をしろということらしい。
「それで奉納の舞いとやら大丈夫なのか?」
俺がウズメに聞くと、彼女は分かり易いほどに目を泳がせ、動揺していた。どうやら大丈夫では無いらしい。
「せ、せいしきな候補者のねえさまたちとは違って、わたしはまいを習っていません」
ウズメは指と指をつつき合わせ、泣きそうな顔をしている。
どうやら、問題しか無いようだ。
『セラフ、その奉納の舞いとやらはどの程度の重要度なんだ?』
『ふふん。ここの集落の226戸に一戸一点が与えられているわ』
一戸一点? 様々な試練を乗り越えて得点を競うイベントだと言っていたな。
……そういうことか。
『それは住人が投票するということか?』
『よく分かっているじゃない』
先ほどの案内係は奉納の舞い、八つの関門、目覚めの唄と三つの予定があると言っていた。最初の奉納の舞いとやらだけで生け贄が決まるとは思えない。だが、その配分がどうなっているかは重要だ。
『それで?』
『関門は最高得点が百点、唄は住民一戸につき二点ね』
つまり全部で778点ということか。最高得点が、それだとすると……なかなかに大きな割合を占めていることになる。総取りすることは出来ないだろうが、裏で手を回されたら終わりだ。
『あらあら、何がここを支配していると思っているの? そんなことを許すと思っているなんて馬鹿なの』
……。
確かにな。
ここを支配していた人工知能が不正を許すとは思えない。それは正しい実験結果をもたらさないだろうからな。
2021年12月19日修正
土足のままで着いて → 土足のまま付いて




